最終話 ヤニ仲間から恋人へ
川村はじめと会社の外で会うのは初めてのことだった。
待ち合わせ場所の駅でコーヒーを二つ買うとはじめが来るのを待っていた。
「真宮くん」
後ろから声を掛けられてそちらを振り向くとはじめは普段とは違う私服姿で立っている。
その姿が新鮮に感じると感想のようなものを口にしてしまう。
「似合ってますね」
僕の言葉を真っ直ぐに受け入れたはじめは薄く微笑んだ。
「真宮くんも清潔感があって好印象だよ」
お互いがお互いの格好を褒め合うと不思議と笑みがこぼれた。
「とりあえず一服してから行こうか」
「そうしましょう」
そうして僕らは喫煙所に向かうと一本だけタバコを吸って目的地に向かうのであった。
目的地はもちろん個人経営でマッサージの施術を行うお店で、はじめは予約をしてくれていたようだった。
「川村です。電話で言った通り紹介で一人連れてきましたよ」
「はいはい。じゃあ早速施術しようね」
店の奥から老婆がやってくると僕らは店の奥へと案内されていく。
「じゃあちょっと触診するよ」
そこから老婆を僕の身体のツボを押していくと何がわかったのかカルテのようなものに記入をしていた。
「はい。わかったよ。首と背中と腰だね。じゃあそこを重点的に施術するよ」
どうして僕の凝りの場所をわかったのか僕には理解できなかったが正解なので何も言わずにそこから施術を受けるのであった。
僕の施術が終わるとはじめが施術を受けており僕はその間、お店に置かれている雑誌を手にして適当に眺めていた。
はじめも施術が終わると会計に移る。
「紹介割引と…二人はカップル?その割引もしちゃおうか」
老婆は世話を焼くように優しい笑みを浮かべて余計な言葉を口にする。
僕らは否定するのも可笑しく感じてそれを受け入れていた。
割り勘で料金を払うと店の外に出た。
「食事でもしていかない?」
はじめに誘われて僕はそれに了承する。
近場のレストランに入った僕らは食事を楽しみながら会話に花を咲かせていた。
「おばあちゃん…私達のことカップルだって思ったのかな?」
「そうですね。男女でマッサージを受けに行くって珍しいんですかね?」
「そうかもね。じゃあ本当にカップルになっちゃう?」
「良いですね。お互いタバコ好きですし。気が合いそうです」
「本気にしてくれるの?」
「もちろんです。僕も良いと思っていたので」
「ふぅ〜ん。じゃあ付き合っちゃおうか」
「はい。お願いします」
そうして僕と川村はじめはヤニ仲間から恋人へと発展したのであった。
共通の嗜好品から派生して相手の人となりを知った僕らはそこから末永く縁を結んでいくのであった。
完
喫煙室でしか会わない美しい君…。もっと知りたいと思った二人の行方とは…? ALC @AliceCarp
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