第2話酔った勢いも大切

佐々木ほのかというのが僕の名前だ。

特別珍しくもなく何処にでもいそうな普通の男性だと僕自身は思っている。

けれど周りはそうではないらしい。

社長と友人関係の僕に対して周りの一歩引いたような視線が少しだけ窮屈に思った。

そう思ったのであれば自ら行動するべきだ。

「静さん。同期の皆で飲みに行きたいんだけど…セッティング手伝ってもらってもいいかな?」

佐藤静さとうせいという女性の同期社員に声をかけると彼女は上司にでも話しかけられたようにシャキッと背筋を伸ばす。

「いやいや。そんなに畏まらないでよ。僕らは同期でしょ?」

砕けた表情を見せると彼女は安心したようでほっと一息つく。

「ごめんなさい。佐々木さんは社内で有名人なので…緊張してしまいました」

「緊張なんてしないでよ。僕は別に特別な存在じゃないし皆と同じ人間だから。敬語もやめよ?」

「うん…。分かった。えっと…他の同期に声を掛ければ良いんだよね?」

佐藤静の言葉に軽く首を左右に振ると優しく声を掛ける。

「いや、僕が同期に声を掛けるから。隣りにいて欲しいんだ」

「えっと…それになにか意味があるの?」

「もちろん。静さんは同期で一番顔が広いし。きっと一番信頼されているんだって傍から見てもわかったよ。そんな静さんが隣りにいたら、きっと皆飲み会に参加してくれると思ってさ」

「なるほど…じゃあ私で良ければお供します」

「お願いね」

そんな言葉を口にすると僕らは昼休みの休憩中に同期の元へと向かい飲み会の打診をする。

皆は最初、戸惑っていたが最終的には了承の返事をくれる。

デスクに戻った僕らは居酒屋の予約を取るのであった。



「それでは初の全員参加の同期会に!乾杯!」

そんな音頭を僕が取ることとなりグラスを掲げると飲み会は始まった。

僕の隣には佐藤静が座っており音頭を終えて腰掛けると彼女は僕にグラスを傾けてくる。

それに応えるようにコツンと合わせるとグラスを口に運んでいった。

「静さん。ありがとうね。本当に助かったよ」

一口飲んだ後に感謝を告げると彼女は何でも無いように薄く微笑んで応える。

「私も同期会はしたかったんで。声を掛けてもらえて助かりました」

「そうだよね。僕だけ浮いていたから…中々、全員参加は叶わなかったよね」

「そういうわけじゃないけど…声を掛けにくいのは確かだったよ」

そんな会話を繰り返して僕らは無礼講で飲み会を進めていく。

「あの…良かったら連絡先交換してもらえませんか?」

佐藤静は僕にスマホを向けてくるとそれに応えるようにポケットからスマホを取り出した。

「え!?ズルい!静だけ抜け駆けしないで!」

遠くの方から僕らの様子を眺めていたであろう女性社員達は僕のもとにぞろぞろとやってくる。

「私達も連絡先交換したいです!」

それに微笑んで応えると皆と連絡先交換する。

「いつでも連絡してくれて構わないから」

そんな言葉を残すと飲み会は深い時間まで続くのであった。


「それじゃあ皆!月曜日にね〜!」

店の外に出ると僕らは各々の帰路に就く。

同期会でできる限りの人達に話しかけて砕けた関係になることが出来たはずだ。

ほろ酔い気分で帰路に就いていると最後まで隣には佐藤静がいた。

「同じ方角なんだね」

隣の佐藤静に問いかけると彼女も何故か嬉しそうに微笑んで頷いた。

「偶然だね。明日も会わない?なんてね〜」

佐藤静は明らかに酔っているように思えてならなかった。

「良いよ〜。遊ぼう〜」

冗談に乗っかるように陽気に答えてみせると佐藤静は急に真面目な顔をする。

「ホント!?」

「え…?あれ…?冗談じゃなかった感じ?」

「うん…明日も会いたい…かも…」

「そう…じゃあ…会おうか」

そうして僕らは急遽、明日の休日にも会うことが決定したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る