#9 -1
前回のあらすじ
ヤマトが立案した0141作戦が始動。
攻撃班に任命されたタロー、リビア、ニロの3人組は、キーコス支部の情報制御室を爆破することに成功する。トラブルはあったものの柔軟に対応することができ、次の惑星へと足を早めた。
一方、"保安官の星"とも呼ばれるベテラン保安官アレクサンダーと部下のハリルは同攻撃の報せを受け、犯人グループがその先で訪れる可能性の高いロイルへと向かっていた。
そしてロイル本部に到着した3人だったが、突如として現れた実力派保安官2人の奇襲を受け分裂。ニロは対峙した相手が憧れの保安官であると知り大きく動揺させられる。絶体絶命のピンチに陥った3人だったが、逃げ惑う中でニロが閃いた爆弾の分散により撒くことに成功。その隙に情報制御室の破壊も終え、訓練用マンタジェットで脱出を試みる彼らだが、果たして逃げ切ることは叶うのだろうか。
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作戦開始から2時間と少しが経過。ニロの脱出作戦の提案を即座に呑み、3人は急いで階段へと向かう。
すると保安官の大群が既にバタバタと近付いている最中だった。
「派手にかましてくれたなぁ!!」
「ぶっ殺す!!」
その数少なくとも10以上。当然だが全員が銃を構えている。
そして他基地の攻撃を知って罠だと気付いた者が多かったのからなのか、何かと彼らは血気盛んであった。
しかしその勢いに負けじと、ニロは先陣を切って大きく跳び立ち、その群れを軽々と飛び越えて行く。
空中でレーザーが飛び交ったが気にも留めず、上手く受け身を取って着地、階下へと急いだ。
(嘘だろ!?これ飛び越えろってのかよ!!)
そんなニロの卓越した身体能力を目の当たりにし、一瞬にして顔が青ざめて行くリビア。
能力は確かだが臆病気味な彼にとっては、武装済みの群衆に立ち向かっていくのは気が引けた。
しかし気が付けば隣に居たタローもそこから姿を消しており、飛び越えに成功した彼女を群れの後方が追っているのであった。
敵の母数が減ったことをいい機会に、もうどうにでもなれという気持ちで羽ばたいた。
しかし直前までの憂いた感情が仇となったのか、先に続いた2人と違って高度を出すことに失敗してしまう。
混乱と共に散らばった保安官達のど真ん中に転げ落ちる。
「おいおい、マヌケが残ってるぞぉ」
異常な程の運動を見て驚きを隠せずに立ち止まっていた彼らだったが、そうではない落ちこぼれが現れた途端、円陣を組んで徐々に迫って来る。
彼ら全員の両手にあるのはレーザーガンと、一度嵌められれば簡単には外せない頑丈さが評判の手錠。
何とか困難を乗り越えられた筈がこんなところで躓いてしまい、焦りに追い込まれるリビア。
しかしそんな保安官達の嘲笑うようなにやり顔が、背後からの奇襲で次々と蹴飛ばされて行くのだった。
「さあ、帰るぞ!」
敵を蹴散らして手を差し伸べてくれたのは、この一瞬の間に3人分のマンタジェットを奪取しここまで戻って来たニロ。
先程からこの少年にばかり驚かされるのだが、一先ずは助かったことに安堵した。続いてタローも追手を撒いて合流し、一行は最初に侵入経路とする予定だった大きな窓を目指して走り出す。
― #9 Ambivalent ―
後ろを振り返ることなく、ただただ惑星ロイルの上空を我武者羅に飛び続けた。
主要な道路を交差する事も避け、なるべく人気の少ない路地裏などを活用して駅を目指した。
初めてのマンタジェットでの飛行にも関わらず、仲間の2人も順調について来られていた。
しかしながら、あの男はそう簡単に逃がしてはくれないようであった。
(またあの人か・・・!!)
背後に大きな気配を察知したのは他でも無く、数分前に対峙したばかりの憧れの保安官が遅れを取り戻そうと後ろに続いていたからであった。
早めに気付けたのが幸いか彼との距離はかなりの余裕を教えてくれたのだと思っていたが、数秒後にはそうとは言い切れない程に接近されていた。
先程は接近戦でかなりハンデを許されていただけなのかもしれないが、今となってはその飛行速度は自分達のものと比べ物にならず、印象的だったケイトの俊敏さをも軽く越えているようであった。
「まずいな、このままじゃ追いつかれる」
「でももう何もかも使い切っちまった、諦めずに進んでみるしか・・・!」
静かに警告するタロー。
バイクを乗り捨てたことによって3人の武器は今やゼロであり、恐らく街や建物を利用した妨害策も何も存在し得ない。
しかしあの使い古しのバイクよりも保安局のマンタジェットの方が高い速度を誇っているのは間違いなく、今はその性能差を信じるしかなかった。
(勝負は完全に私の負けだが、本部の侵入者を逃したとなるとアドリアさんに色々言われて面倒そうなんだよな・・・。よし、駅までに終わらなかったら撤退するとしよう)
考えもしなかった相手の反撃に敬意を示し、これ以上何をしても彼らに勝つことは出来ないと分かっていたアレクサンダー。
しかし後先のことを考えると、彼らのような厄介なテロリスト達を宇宙に手放してしまったという経歴は、自分の今後を面白くないものへと変えてしまう。
正直この状況は惰性で生み出されたものであったが、明確な最終地点を設定したことで少しやる気が上がった。
男の僅かな切り替えを瞬時に悟ったニロは、またしても背筋を凍らされてしまう。
すると彼ら4人は狭い路地裏を終えて、ロイルで最も繁盛する大通りに出た。
(あと数キロだ!この勝負、勝てる!!)
その大通りは駅前から中心街にかけて展開されており、以前ケイトと共に本部から脱出する際にも経由した道である。
つまりこの道筋を抜け切られれば列車に乗り込むことができ、そのまま脱出に繋げることも容易だ。
相手もこの局面に本腰を入れたのか、もう一段階ばかり姿勢が変わったような気がする。
ニロはこれまでに試したこともない程のスピードを意識し、昼間でも賑わう繁華街の上空を颯爽と突き抜けて行く。
そして駅前の様子が彼の視野に入ったが、そこには偽通報に騙されたことに気付いて集まって不平を垂れていると思しき保安官達の姿が見えた。
(別にオレらのこと待ち伏せしてる訳ではなさそうだな・・・)
顕著な危機感の欠如、そして本部が位置するこちらの方角に誰も注意を向けていないことから、似たような状況に陥った保安官同士で集合しているだけのように思えた。
彼らの意識がこちらに向かなければ脅威になることは無いだろう。
しかしそんな呑気なことを考えていた彼は、その群衆の中に出来れば居て欲しくなかった顔見知りの存在があることに気付いてしまう。
(トチとミナミ・・・!?!?)
間違いなく彼女達だった。見慣れた姿の2人の仲間が、駅前のベンチに座りながら疲れた顔で話し合っているのが見えた。
後ろの男の時と同じように、仮面越しでは自分の存在を認識してもらうことも叶わない。
出来ることならその全員に逃走犯の自分達を意識して欲しくないが、その瞬間に彼女達が最優先対処事項となった。
そして第2の優先事項である背後の男は、やはりスピードを落とすことなくこちらに迫って来ている。
最後の最後に最大の窮地に立たされ、ニロは大きく心を揺さぶられる。
目的地との距離の縮まりと問題の増加が比例していたその最中、左手に見えた助っ人の存在。
(ヤマト!!!)
仮面で顔を隠されていても分かった。僅かに目に入る程の小さな彼の影は、その右手に爆弾を備えていた。
ピンを抜き、自分達とは違う方向を目掛けて投げ出される。空中を高く舞い、やがて轟音と共に爆発したその物体は、駅前の保安官の群がりの注目を一気にそちらに向けたのだった。
突然の物騒な効果音に警戒心が戻ったのか、音の鳴る方向を睨みながら臨戦態勢を取っていた。
この状態が続けば意識を向けられることもなく列車に乗り込むことが出来る。
(駅まであと少し・・・あと少し・・・!!)
気が付けば同じ速度を保つことで1分以内に駅に入り込めそうなところにまで辿り着いていた。
憧れの保安官の飛行は相変わらず強力なものだが、自信のおかげかもう捕まる心配をすることは無くなっていた。
実際は手を伸ばせば自分の足くらいは掴めそうな距離にまで迫られていたのだが、コロコロと飛行姿勢を変えることで対処出来た。そして目先に見えてきた駅の存在。
最早パーカーのフードが風で剥がされていることなど気付かぬ程に、一直線の最短ルートを貫き通すことだけに集中した。
あと少し、あと少し・・・。
その瞬間の後ろの男からの言葉に、彼はまた心を動かせた。
「"爪痕"を残せたとして、その先に一体何を望むんだ?」
意識が一点に絞られていき、周囲の環境音は全て無に等しくなっていた。
そんな中で突然口を開いた男の放った内容は、無我夢中で飛行していたニロにハッと息を呑ませた。
そんなこと考えたことも無かった。ただ彼の教え通り、自分が生きていたことが後世にも伝わるように、何かしら結果を残し続けることだけを考えていたのだから。
そして今更それを聞いて一体何に繋げようと言うのか。いや、この質問の答えなどどうでもよく、その裏で何かを掴もうとしているのだろうか。
不確かな存在に憧れを抱き続け、再びその存在と出会ったこの日、敵として相対しただけことでなくこの意味深な問い。
雰囲気だけでなく実力をも伴っていたこの保安官の存在が、ニロの中でより一層色濃いものへと変化した。
そして爆破地点に吸い寄せられていた保安官の大群の真隣に暴風を巻き起こすように、保安局規約で定められた以上の速度を出していたであろうマンタジェット使いの3人。その訪れを感知して後に続いた仮面姿の3人。
計6人の実行犯が、無事に最終攻撃目標を後にすることに成功したのである。
「あーあー、逃げられちゃった」
完全敗北に捨て台詞を吐くどころか、何故か清々しい笑顔であったアレクサンダー。
彼は明確に改札がゴールだと決めていた為、それ以上追う気力はその瞬間に消え去った。
そんな彼らの激しい飛行で生み出された風に反応し、咄嗟に後ろを振り向いたトチ。
すると駅で列車ホームへと急ぐ後ろ姿の中に、これでもかと目にしてきたあの髪型があることに気付く。
「ニロ・・・!?」
その名前が呼ばれると傍に居たミナミも反応を見せた。数十分前まで本部で調べ事をしていた2人は、ロイルを飛び交う大量の通報のうちの1つの対応として回されていた。
何も事案が発生していない現場で、別の惑星からここを訪れたと思しき保安官達の口から、キーコスとワートスの支部が爆破攻撃に遭ったことを知った。
目まぐるしい状況に訳も分からずただ他の保安官に着いて行ったところ、街の上空に突如姿を現した爆弾、見るからに支部を攻撃したグループと思える6人組の逃避行。
そしてその中にたった今、2日間大掛かりで捜索していた彼の存在を見つけ出したのである。
「居たの!?どこどこ・・・!?!?」
慌ててミナミもニロの姿を探し出そうとするが、既に列車の扉が閉じてその姿は包み隠されてしまった。
歪曲した線路に沿って高度を上げていく列車。
その瞬間に荷物入れとして背負っていたマンタジェットの存在を再確認し、反射的に飛び立とうとしたトチ。
「待って!問題行動になっちゃうよ・・・」
一方のミナミは反射的に彼女の腕を掴んだ。
この班に所属して1年弱、班長であるニロの規則を無視した行動の数々を目の当たりにし、彼女は他の仲間も同じ目に逢ってしまうことを何よりも恐れていた。
自分達はまだまだ研修生、マンタジェットは訓練用のものしか使用を許可されておらず、非常時以外にそれを基地の外で使うことは言語道断。
しかし。
「でもこれを逃したら、もう二度とアイツと会えないような気がして・・・!!」
トチが珍しく見せたのは、今にも涙が溢れ出て来そうな悲しさに満ちた表情。
仮に彼が本当に爆破の犯人の1人であったとすれば、その調査が進む今後は保安官である自分達が彼と私的に接触できる機会はどう考えても訪れないだろう。
素性の知れない連中と連んでいるのであれば、あの列車に乗っているという情報を失ってしまうと尚更追跡する手段が無くなってしまう。
仲間と対話を交わせる最後にして最大のチャンスを、規則なんかで縛られたくないというのが胸騒ぎの中核だった。
そんな2人の会話を眺めていたアレクサンダーは、軽い口調である提案をした。
「良いんじゃない?行きたきゃ行っても。上には私がいくらでも代弁してあげるさ」
駅前広場でだらしなく尻もちをついている男保安官。
しかしその顔は報道等で何度か目にしたことがあり、上層部と交流出来るというのはハッタリでは無いかもしれない。
そして葛藤に陥っていた彼女達に注がれた、彼の自信満々な笑顔の輝き。顔の広い彼の説得力であれば、これを非常事態であるとアドリア長官に説得してくれるかもしれない。
初対面である筈のこの男に何故か信頼感が湧いていき、数秒の考えの後、彼女は動き出すことに決めた。
もう1人も大きく頷き、決意を表明するような顔つきでその後に続いた。
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