#8 -2
列車内で確認出来るのは珍しい有名班の保安官2人は、惑星キーコス駅に着いた途端に駆け下りた。
人々が彼らに注目を集めていく中で、彼らは駅前で愚痴をこぼしながら走る保安官の存在に気付き、近付く。
「ったくなんなんだよこれ・・・!こんなのおかしいに決まってんだろ・・・ッ!!」
「君!止めてすまないが、状況を教えてくれないか?」
一部の保安官から"保安局の星"とも称されるアレクサンダーの存在は宇宙中に知れ渡っており、彼のような大物に呼び止められたとなると、その保安官も態度を改めるのだった。
「ど、どうもです。さっきからずっと意味不明な通報があちこちから鳴ってて、皆しきりに動かされてるんですけど・・・えっ、はぁ!?」
従順に要望に沿ってくれたかと思えば、彼は自身のイーグルスアイを覗き込みながら言葉を失っていた。
一体どうしたのかと思って首を傾げていたが、キーコスに居る保安官全てに向けたメッセージとして数秒遅れてアレクサンダーの物にも何かが届いた。
「キーコス支部が何者かによって爆破され、3階コンピュータールームが甚大な被害を受けてる・・・とのことッス、ユージンさん」
静かに文面を読み上げる相方のハリル。
しかし通達の内容が突然の大惨事だったことへの驚きよりも、彼には思い当たる節があった。
(コンピュータールームとは情報制御室のことか?しかしその存在は私のような保安官に初めて伝えられるもの・・・。だとしたら犯人はどうしてそこを・・・??)
保安局内で情報制御システムの仕組みを知る者は極めて少ない。
外部への漏洩を防ぐ為、上層部が認めた優秀な保安官のみにその存在が説明される。
アレクサンダーは過去の多くの功績を長官アドリアに賞賛され、その際に秘密裏に各基地に情報制御室が備わっていることを教わっていたのだ。
犯人がそこをピンポイントで狙って来たとなると、この攻撃には必ず何か裏があるに違いない。
「ユージンさん、次はワートスで通報が相次いでるみたいッスよ」
そしてハリルの無表情な口から言い渡される新事実。
詳細な目的など知らないが、先程までこの地で通報を大量に行っていた者と、支部の情報制御室を爆破した者は繋がっており、それが次は惑星ワートスで行われる可能性を示唆している。この宇宙を取り巻く惑星の配置図を思い返しながら、アレクサンダーは彼らの取っているルートを先読みする。
「・・・なら私達はロイルで待機しよう、行くよハリル」
「なっ・・・!待ってくださいよアレクサンダーさん!あなたの力を必要としてる保安官がワートスに居るってことですよ!!どうして助けてやってくれないんですか!?」
彼の推理過程も分からず、納得の行かなかった通りすがりの保安官は反論に入る。
しかしそんな事は彼にだって十も承知であり、その現状を見捨てるような決断に至った訳を説明する準備に移った。
「ここキーコスとワートス、そしてこれから私達が向かうロイルは、列車を経由すればそれぞれの間に1駅の距離がある。そして同じ公転軌道を通る隣の惑星よりも、この3つの間の路線を使った方が移動距離は短い。つまり最短で他の惑星に攻撃を仕掛けていくとなると、次はロイルが対象になってもおかしくはないんだ」
「変にワートスに追いかけに行ってまた逃げられるよりも、先にロイルで構えてた方が捕まえやすいってことよ、マヌケ君」
「なっ・・・!まっ、まぬ・・・」
年下ながら実力は遥かに上の生意気な保安官に蔑視までされる。
しかしそんな個人的な苛立ちよりも、言葉を交わさずとも2人は思考を共有し合っている。
本当ならこんな高度な思考を組み込む2人に口出しなど出来ない筈だが、彼の疑問はまだ潰えなかった。
「でっでも、そいつらがロイルも攻撃しに来るとは、まだ言い切れないんじゃ・・・」
論理は理解出来た。各惑星間の距離だってよく覚えているし、それを鉄道の路線図と重ね合わせることだって出来た。
だがしかし、幾ら腕のある彼らが待ち伏せていたところで、肝心の犯人グループがロイルに現れなければこの推理も無意味と化す。
彼らの策は連中がロイルをも攻撃目標としていると仮定した場合にのみ成立し、そんなのこの場の誰にだって確定するとは証明出来ないが、余りにもそれが本当に訪れる未来だと断言するような口ぶりだったので、どうしても問いかけてみたくなった。
しかし、長年の経験を語るような胸を張ったその背中は、勘だけでなくもう1つの考えがあることを示していた。
「・・・いいや、確実に来るだろうね。彼らはこの2回で"実験"をしているんだ」
そう意味深に言い残し、アレクサンダーとハリルは再び列車の方向へと向かった。
数分間共に話し合いに参加出来た運の良い保安官だったが、彼らの行く先に良い結果は見出せそうに無かった。
2つ目の攻撃目標であるワートス支部にも似たような配置に情報制御室があり、一行はその破壊に成功。
そこでは潜入直後に相対した支部長の存在が厄介であったが、先程の経験を活かしてまた穏便に解決する事ができた。
そして作戦開始から約1時間20分経過。一行は最後の攻撃目標である本部を目指して、惑星ロイルで列車を降りた。通信によると偽通報班は彼らの10分近く前にはそれぞれの惑星に到着済であるとのことだった。
「さてと、本部は保安官の人数が多いって訳だが・・・まあここまで来たんだ、もう俺達に行けない場所は無いよな!」
空中で自信満々かつ高らかに謳うリビア。
彼ほど言い切った表現が出来るかは分からないが、最初はついて行くだけで精一杯だろうと思っていたニロでさえ、この2度の成功を経て自信を手にしていた。
彼らのジェットバイクはいつの間にかロイル本部に到着しており、遂に最後にして最大の城を叩く心構えをさせた。
保安官達が日々の生活を終えそして迎える西棟には数人の保安官が残っているのが見えたが、まあこれまでと同じように速やかに終わらせられればどうということは無いだろう。
自分の所属だった基地を攻撃するという思いが先行し、無意識にニロは平常よりスピードを上げてしまっていた。
(今度こそ爺さんに逆らうんだ、今までのオレとは何もかも違うぞ・・・!!)
今まで様々な対立を繰り広げてきたアドリアとの関係だったが、今日こそは本当の意味で敵対することとなり、バッツとの因縁も片付ける為にも、彼との衝突は回避できないのであった。
決意を固めながらニロは、同じく侵入経路である大枠の窓を探して外壁を周回していた。
その最中、彼の視界を縦に真っ二つにするように、瞬間的に何かが飛び去ったのが見えた。
「ぬぁ!?」
圧倒的に速いその飛行物が何だったのかはまるで視認出来ず、ただその存在に気を惹かれて飛行ペースを乱してしまった。
気のせいかと呼吸を整えるが、その直後、背後からリビアの悲鳴のようなものが聞こえた。
「うわぁっ!?!?」
「どうした!!!」
慌てて助けに入ろうと、バイクの進行方向を真後ろへと転換させた。
すると、少し後ろに続いていたリビアとタローの目前に、突然現れた飛行中の保安官が1人迫っているのが分かった。
予想だにしなかったアクシデントに戸惑いを隠し切れず、冷や汗と過呼吸が同時に目を醒ます。
そしてそんな彼を一瞬にして追い詰めるように、背後に凍らされるような冷たい声が響く。
「それ見ろ、相手から来てくれた」
後ろに少し目を配ってやると、先程目の前を突っ切った飛行物と同じような速度で、また別の保安官がこちらに向かって飛んで来ているのが分かった。
2人と同じ方向を向いているのは分かっておきながらも、追いつかれないかという不安が心を支配し切ってしまい、衝突しそうな寸前までハンドルを切ることが出来なかった。
「一旦別れるぞ!!こいつらを撒いたら再合流だ!!」
おちゃらけていたリビアが凛々しい表情で言い放つ合図。それを何よりも有難いものと考えながら、ただ背後の保安官の男から逃げ切ることだけに思考を専念させた。
しかし組織から借りているこのジェットバイクはかなり古物であり、早くも最大速度にまで達してしまう。
相手との距離が開くどころか、縮まる一方であった。
「貴様、元保安官だな」
遂に追いつかれてしまったかと絶望すれば、次は全く同じ速度で並走して来ているみたいだ。
合わせてやっていると言わんばかりの余裕気な表情で、イーグルスアイの透明なゴーグル越しに鋭い目線が貫いて来る。
おまけにどこから悟ったのか保安官だったことまで見抜かれてしまい、相手の男に対して恐怖以外の感情が湧いて来なくなってしまった。
「バイクとマンタじゃ扱い方が少し違うんだぞ?どれ、教えてやろうか」
飛行技術に目をつけられたのか、男は1人乗りのバイクに無理矢理乗り込もうとまでして来るのだった。
予想外過ぎる男の動きに咄嗟に拒絶反応を見せたニロは、バイクから振り落とすことには成功するものの、距離感は先程と全く変化することなく一定に保たれている。
少し遠くの3つの飛行物体に着目してみるが、タローとリビアももう1人の保安官相手にかなり苦戦している印象だった。
「オイラ達に囲まれて勝てる訳ないから、さっさと降参すれば?」
物静かに冷酷なセリフを浴びせるもう1人の男は、そんな大人しい口調とは打って変わって激しい飛行スタイルで2人を足止めしていた。
それぞれが散らばった地点で男に向かって突撃しバットを振るっていたものの、それが空中で弧を描く頃には男の姿はそこに無く、全く対応出来ていない状況である。
(なんっなんだよコイツら!!いきなり出てきて邪魔しやがって、しかもメチャクチャ強ぇし!!!通報で皆バラけたんじゃなかったのかよ!?!?)
仲間も共に襲われている状況を見て、いつの間にか恐怖よりも怒りの感情が勝っていた。
無論奇襲に気付けなかった自分達の責任もあるが、ここまでの飛行の実力を見せつけられては萎縮してしまう一方であり、加えて相手は一切武器を使う仕草を見せない。
オレ達程度の相手なら素手でも追い詰めるられるとでも言いたいのだろうか、冗談じゃない。小馬鹿にされた気分だった。
そんな相手は一体どんな顔でこちらを見下しているのか一目見てやろうと、少し高度を上げつつ真隣に迫る男の顔を覗き込んでみた。
・・・すると、そんな腹の立つ余裕だらけ笑みに、ニロは少しばかり見覚えがあるように感じるのだった。
(えっ、この人、まさか・・・)
保安局に所属してからの記憶にこの男は登場しない。となると孤児院で暮らしていた頃、すなわち彼は幼少期で男と出会っていることになる。
そんな古い記憶の中に佇む、妙に印象的だったこの顔。
それは15年以上前の過去に目の当たりにした、初めて希望というものを感じた出来事の中心に居た、あの青年が少し老けたものであるというのだ。
(この人、昔助けてくれた保安官の人じゃねぇか・・・!!!)
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