#8 -1

前回のあらすじ

ニロとケイトの指名手配を受け、ヤマトは保安局への対抗策として0141作戦を考案。それは基地内の保安官の数を減らし、その間に彼らが関わった3つの基地の情報制御室を爆破するという内容であった。

保安局に捕まるリスクを抱えながらも、確実な作戦成功の為にヤマトはニロを推薦する。その瞬間、彼は組織の仲間として認められたということが証明された。

そして迎えた決行当日、バッツがアジトに遺した私物を使って変装することになったニロは、ロッカーに彼の亡霊の存在を感じ取りながら、同班である2人と共に歩み始める。

しかし保安局でも動きがあり、謎多きケイトを追うことにしたオリバーや、作戦で実行された大量の通報に興味を持ったベテラン保安官アレクサンダーもまた、彼らとの激突に導かれていくように準備を始めていた。

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 散らばって列車に乗り込んだ一行は、惑星キーコスの到着通知を受けたその瞬間、ジェットバイクに跨って駅を飛び抜けた。

 パーカーのフードで顔を見せぬような面構えが3つ並んでおり、周囲の一般人からすれば少し不審に思われても仕方がないようなシルエットにしか見えなかった。


「お前、最初にしてはだいぶ乗りこなせてる方じゃねぇか。心配して損したわ」


「へへっ!ジェットって名前につくもんは全部オレのフィールドってことよ!」


「2人とも緊張感が抜けてるぞ。そろそろ連絡が来るはずなんだからコイツを持て」


 これより国家の大規模組織を敵に回すのだと言うのに、様子はいつもとまるで変わらず。

 これが彼らの長所なのでもあるのだろうが、状況をよく弁えるようにと諭した上で、タローは2人にトランシーバーを手に取るよう指示する。

 それは前日に渡されたヤマト手製のものであった。


「作戦中はこいつを使って情報共有をしてもらう。今時こんなもん使うのははっきり言って時代遅れだが、あのイーグルなんたらみたいなのは俺程度じゃ作れねぇからな」


 1からこれを作れるだけでも凄いんだぞと励ましの言葉が行き交っていたのをよく覚えている。

 そんな組織全員の心のこもったトランシーバーから、聞き慣れたヤマトの淡々とした声が流れて来た。


「通報の場所にどんどん保安官がお出ましだ。一発ぶちかましてやれ」


 いよいよ作戦の本格始動が告げられたのだった。

 合図をしっかりと受け取ったことを示す為、各々がトランシーバーのボタンを長押ししながら声を届ける。


「タロー、了解」


「リビア、了解」


 高鳴る胸の鼓動を密かに感じながら、この作戦の先に待つ未来を思い描いた少年は、仮面の中で静かな怒りのようなの表情を浮かべた。


「・・・"バッツ"、了解」






― #8 Thundervolts ―








 辿り着いたのはこの惑星で最大級を誇る保安局基地、キーコス支部。

 この場の3人の誰もがここを訪れるのは初めてだったが、唯一保安官として保安局の内情を知るニロは、建物の外観と自分が所属していた本部の構造を照らし合わせ、大雑把な予想配置図を脳内で展開した。

 彼の動きに合わせてタローとリビアも続く。


(多分あの横に伸びた建物が保安官の寮で、他の部屋とかはもう1つの建物に詰められてるはずなんだよな・・・ってことは、こっちの最上階に情報制御室がある!)


 先程初めて操作したばかりのジェットバイクをぎこちなく操りながら、業務や会議といった の為の部屋が集められてると思しき建物の外壁を回り込む。

 ヤマト達の偽通報のおかげか、バイクの相当な排気音に気付く者がまだ現れそうにない。

 基地の規模の違いから本部よりは横に縮んだような印象だったが、この支部の中で立場が上の人間が立ち入るであよう最上階は同じく3階であった。

 内側にあった大きめの窓を目掛けてバイクを斜めに傾け、その勢いのまま硝子を突き破った。


「一旦別れて周りを探すぞ!!」


 角にあった窓の先には、廊下の行き先が2通り存在していた。

 たった一言の合図で彼らは分裂し、ニロはリビアと共に、タローが1人でそれぞれの道を進むこととなった。

 目の前に現れるのは会議室、支部長室など、どれも本部にあったものをこの基地に合うように改良したものばかり。

 本当は情報制御室なんて存在しないんじゃないか、あんなのただのウソだったんじゃなかったのかと、今更になって自責の念と不安を抱き始めてしまったニロ。

 しかし心配も束の間、トランシーバーを通してタローの報せが届く。


「あったぞ!ドアがパスワードロックだ!!」


 ニロが本部で情報制御室だろうと目星をつけていた部屋は、周囲に窓が無く番号を知る者のみが開けられる扉だけが配置されていた。

 彼女が伝えた部屋の特徴はそれと完全に一致しており、2人はバイクのスピードを一気に上げて追いつこうとする。

 道中で2人に教わった小回りを利かせる術を活かしながら、ニロも既にバイク乗りと呼ばれていい程に成長し切っていた。


「全く一緒だ・・・」


 彼女と合流して目の前に立ちはだかったのは、本部で見たものと同じ光景。

 情報制御室かもしれない部屋を早くも見つけ出したことで、気分が高まったリビアは扉を蹴飛ばした。

 重厚そうなその扉を一発で駄目にしたことで、ニロは彼の小柄な見た目と秘めた力の差異にかなり驚いたのだった。

 そして現れた空白の先に広がっていたのは、かつて彼が風の噂で聞いたものをそのまま絵に描いたような景色だった。


「無人、コンピューターだらけ、そして基地の情報全て・・・。正直言うと最初は信じて無かったんだが、お前の言った通りだったな」


 保安局が抱える莫大な情報を全て処理する一つのシステム。

 そんな嘘のような言葉が、この瞬間にそっくりそのまま現実となっていた。

 薄暗い空間に人影は一つも見当たらず、どこを見渡しても無数のコンピューターが並んでいる。

 そして前方に大きく広がる液晶画面には、恐らく連絡や通報、位置情報などのイーグルスアイを介して受け渡しされる情報の数々が列を成していた。

 まさに自分の提案が意味を成した瞬間に高揚感を覚えながらも、上手く行き過ぎている現状に何か杞憂を感じたニロ。


「じゃ、じゃあ・・・やる、か」


 ジェットバイクに備わっていた袋からとある球体を取り出す。

 その使い方や仕組みはよく知っていて、自身がこれによって受けた重みをまた別のものにそのままぶつけることを、中々受け入れ切れずにいた。

 しかし、そうした経験の無さに疑念を抱いていたヤマトは、必ず最初の投擲はニロに任せるように伝えていたのだ。

 爆弾を持つ右手が震えながらも、出せるだけの力を振り絞って彼はコンピューターの群れにそれを投げつけた。


「よくやった!その調子で全部やっちまえ」


 それは小さな起爆範囲ではあったが、物体に対しては大きな影響を見せ、情報制御に使われていたコンピューターは1度の爆破で一気にその性能の全てを失っていった。

 巻き戻すことは出来ない現実を漸く受け入れ、ニロは生き残ったコンピューター達に次々と残りの爆弾を投げつけていく。

 やがて6回の爆破で全ての情報制御能力を抹殺することが出来た。


「これでこの惑星でのあいつの情報は消えてくれたってことだな。よくもまあこんな作戦が上手くいったことだ・・・」


「まあいいじゃねぇか!最初は誰だって結果なんて分かんねぇもんよ」


 驚きと安堵の微小を浮かべるタロー、相変わらず自分を励ましてくれるリビア。

 無論この2人だけでない。まだ交流は出来ていないが通報班を担ってくれたルーシー、物事の様々な見方を教えてくれたテト、僅かな信頼度に全てを託してくれたケイト、そして異端だった自分を信じここまで導いてくれたヤマト。

 いつの日か対立していた筈の6人の組織は、いつしかニロがこの結果に辿り着く為の支柱となっていたのだ。

 彼らの思考と刃に、自分の小さな発想と情報の内通が加わったことで、こんなところにまで足を踏み入れることが出来た。彼らとなら、大きすぎた夢だって叶えられるやもしれない。

 彼らへの感謝と感激を胸に抱きながら、ニロはそんな期待も寄せていた。

 しかし、作戦の1段階を終えて力が抜け切っていた彼らの足元に、銃から放たれたと思しきレーザーが着弾する。


「お前ら一体何しやがった!!とりあえず手を挙げろ!!!」


 大量の通報があったからと言って、全ての保安官がその地に赴く訳ではない。

 支部に残っていた者に爆破音を聞かれたのだろうか、気が付くと階段の前に銃を構えた保安官が1人迫っていた。

 こちらも反撃の手立てが無いと言えば嘘になるが、血の流れない攻撃達成の為には爆弾なんて使ってはいられない。

 この場は投降の姿勢を見せてどこかで逃走経路を練り出してやろうと、少し諦めがちな思考に入ったときだった。


「私に任せろ」


 両手を挙げながらタローが小声でそう囁いて来た。相手に銃を向けられているこの状況で、一体何が出来るのだと言うのだろうか。

 しかしタローはニロの計画を最後の最後まで信じ切れなかった程の現実主義者であり、そんな彼女がこの場で適当なことを言う筈がない。

 どうにかしてくれるんだろうかと少し期待を寄せてみたところ、気が付けば彼女の姿はもう隣には無かった。


「な!?どこ行きやがった!!」


 依然として立ち止まったままの2人に警戒心を向けつつ、一瞬のすきに消えたタローを見つけるべくキョロキョロと見渡す保安官。

 しかし目で見える範囲に姿は無く、一体どんな高度技術を使って逃げ出したと言うのだろうか。

 保安官が同じ目線や上部ばかりを見回している中で、ジェットバイクの陰に隠れられる程の低姿勢を保っていたタローは、彼の背後に忍び寄ってバットを振るった。

 倒れ込んだ保安官は気絶し、ここからもう一度主導権を握られることは無いだろうと確信がついた。


「タローはしゃがみ込むのと、ヨチヨチ歩きがめちゃくちゃ上手いんだぜ!」


「ヨチヨチ歩きって言うな!ニロ・・・じゃなくてバッツは匍匐前進って呼んでくれよ」


(すっ、すっげぇ・・・)


 扉を壊したリビアの脚力と、目で追えない程の俊敏な動きを見せたタローの柔軟性。

 今までヤマトやバッツ、ケイトといった主要なメンバーにばかり注目していたが、やはり彼らと行動を共にする程の強者なのだから、そこには大した能力が秘められていてもおかしくは無かった。

 一緒に基地に攻めるのがこの2人で良かったと、改めて安堵のため息をニロはついた。


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