第3話
どうしてこんな悲劇が起こってしまったのか。
その当時のユーザーたちは、原作となった童話の結末を知っているからこそ、王子と人魚姫の結婚を後押しするためにソーマ涙を手に入れようとした。
声を取り戻した人魚姫が王子に想いを伝えて、二人が結ばれるハッピーエンド。
泡になって消える人魚姫もいない。人魚姫の献身に気づかないで、他の女と結婚をする王子も存在しない――理想的な結末になると思ったら、王子を介してプレーヤーが人魚姫を殺してしまうのだ。
原作を知っている分、後味の悪さに加えて、そんなつもりじゃなかったという後悔と罪悪感がプレイヤーを襲う。
人魚姫は人間になるために、自身の美しい声と引き換えに秘薬を手に入れた。
人魚姫の姉は妹を人魚に戻すため、自身の美しい髪を差して破邪の石を手に入れた。
さらに王子もソーマの雫を探してほしいと、主人公の善意だよりにお願いをして、人魚姫に対してソーマの涙を飲んで欲しいとお願いをしたことで、結果的に恋人を殺してしまった。
三人の共通点は、他者に願いを叶えてもらい、最終的な望みを叶えられなかった点。
そして現実には存在していない、ソーマの雫というアイテムが存在しているが故に悲劇は引き起こされた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こうして、以降のシリーズでのソーマの涙は、悲恋とトラウマの象徴として扱われるのだった」
ざっとシナリオを説明していたら、重苦しい眠気に襲われた。
せっかくのコラボドリンクも味を感じることがなく、じわじわと身体から力が零れ落ちて、窒息しそうな息苦しさに心臓あたりが痛くなった。
このままでは、私は死ぬ。
大げさでも誇張でもなく、無理に無理を重ねた自業自得の結果であり、年下の異性の前で無様な姿をさらすのも仕方がない。
パクパクと口を開閉させて、ベッドの上でのたうちまわる。それはまるで、陸に打ち捨てられた魚のような死に際で。痛みに体を痙攣させながら、私は
できれば翔真くんに、しかるべき所へ連絡を入れて欲しいんだけど、この場合って、警察か病院、どっちに連絡すればいいんだろう?
そんな私の様子を見ていた翔真くんは、取り乱すことなく静かに口を開いた。
「……ねぇ、人魚姫ってバカだと思うんだ」
まぁ、人によってはそう思うだろうね。
「オレだったら、わざわざ人間になろうなんて思わない。逆にオレが人魚姫だったら、魔女に頼むよ。王子様を人魚にする薬を作ってくれって」
それって国際問題に発展しない?
一国の王子様を、元の世界に住めなくするんだよ。
「だけど、人魚姫は幸せになれるよ。ずっとずっと愛する人を、自分の世界に閉じ込めることができるのだから。もう寂しい思いをしないように、自分なしでは生きていけないレベルにまで依存させて、永遠に近い長い時間を、海の底で二人っきりで過ごすんだ」
うん。翔真くんって、かなりヤンデレだよね。
君が好きになった人が、かわいそうで仕方がないよ。
「そんな悠長なこと、言ってる場合っ!」
と、まるで私の心を読んだかのように、翔真くんは怒り出した。
「頼むから望んでよ。死にたくないって。この数百年、
あー。なんで会話が成立しているのか疑問だったんだけど、人の心を読めたんだね。なにげに、君の察しが良すぎるからスッキリしたよ。
「そんな、あなたは特にわかりにくいよ。なんで、息を吸うように自分の感情を殺すのさ。文字のようにくっきりしないと、あなたの心は読むことが出来ない」
それはよかった。というか、アレだよ。
生きるために必要だった結果なんだよ。
どうやら、君にはだいぶ迷惑をかけたみたいだね。
けど、もう無理しなくていいんだよ。
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