第2話
「うん……。せっかく遊びに来てくれたのに悪いけど、お茶出せないのよ」
「そんな違うよ。お見舞いに来たんだよ」
そう言って、コンビニの袋を掲げて見せる仕草が、なんだか可愛らしく思えた。考えてみたら、結婚して子供が生まれたら、翔真くんと同じ年代だ。
だからだろう。彼を見ていると、微笑ましさと煩わしい気持ちが交互に訪れる。
「あ、これ。コラボドリンクね」
「うん。【ドラゴン・ファンタジー】30周年記念のっ!」
日本の国民的RPGであるドラゴン・ファンタジー。
今月にナンバリング20が発売され、同時に30周年記念として、イベントアイテムを模したコラボドリンクが全国のコンビニで販売された。
スポーツドリンクの【レイ・ポーション】、ノンアルコールカクテルの【ドラゴンブラッド】、スムージーの【
「30周年かぁ。今出ているのは20でしょ。1が出た時は、私が小学生の時だったわね」
「あなたがこのゲームを好きだったことを、この前話していたから」
「そっか、ありがとう。けど、ゴミはそっちで出してくれると嬉しいな」
「うん! もちろんだよ」
即答かつ笑顔で快諾されてしまった。私はそんなにも弱り切った姿なのかと軽く落ち込む。落ち込みつつもなんとか上体を起こしてコラボドリンクのボトルを受け取ると、【ソーマの涙】というラベルに思わず吹き出してしまった。
ソーマの涙はドラゴン・ファンタジーのアイテムだ。あるイベントで登場するのだが……。
私はしげしげと受け取ったボトルを眺めて、ふっと笑った。
翔真くんが、イベントの顛末を知らないのだとしたら、教えてあげたいような残酷な衝動に駆られてしまう。
「翔真くんは、ドラファンでソーマの涙を使うイベントのことを知ってる?」
「え、もしかして、オレ、なんかやっちゃった?」
「うーん、そうかもしれない」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
主人公たちは旅の途中で、とある海辺の国に立ち寄った。
そこで王子と王子の恋人に出会うのだが、恋人は声が出ないらしい。
話を訊くと、彼女は自分の命の恩人であり、結婚を考えているものの、彼女の意思を確認できないから婚約に踏み切れない――
主人公たちは王子の願いを聞き入れて、原料である天使の血からソーマの涙を作り出すも、飲んだ恋人は泡になって死んでしまった。
お察しの通り、恋人の正体は人魚姫。海底に住む魔女が作った
魔女の秘薬は闇の属性を宿しており、光属性のソーマの涙が毒となる。
突然の事態に呆然とする王子と主人公たち。そこへ恋人の姉だと名乗る人魚が海辺から現れて、主人子たちに真相を打ち明け――。
「あの子は毒だと知っていて、ソーマの涙を飲んだ。妹の愛を疑ったお前を絶対に許さない」と王子に告げ「私は妹を連れ戻したかった。人魚に戻してもらおうと、髪と引き換えに魔女からもらったのに、もう、これもムダになった」と、
破邪の石は後のイベントで、魔法で犬になった聖女を人間に戻す重要な役割を担うのだが、入手した経緯が経緯だけに、ソーマの涙と人魚姫のイベントが世界を救う聖女の活躍と対比になって影を落とす。
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