第3話:花咲 鈴蘭。
俺は普段から事務所で寝泊まりしている。
つまり探偵事務所は俺の住宅兼仕事場。
事務所のメインの部屋以外に寝泊まり用に部屋がひとつ、台所にトイレ付き
ユニットバス。
寝泊まり用の部屋には、ソファーベッドが一個置いてある。
事務所って言っても、かたずけられてない書類とか読みかけの漫画本が
積み重なってたりとか・・・おおよそ事務所とは呼べない。
それとランブレッタってレトロなスクーターが部屋の入り口付近に一台置いてある。
こいつは知り合いのバイク屋で見つけて値切り倒して譲ってもらった。
1950年代のランブレッタ LD125ってやつで、けっこうなヤれ具合がいい。
一応、原チャじゃないから、タンデムもできる。
車なんて持ってねえから、こいつで上等。
俺はこいつに「オリーブ」って愛称をつけて乗ってる。
なんでオリーブかって言うと、車体の色がオリーブ色だから・・・。
探偵たって、たいした仕事もなくプー太郎みたいなもんだ。
俺の両親はふたりともあの世へ旅立っていて、かろうじて親が残した遺産が
多少あるから、仕事で入ってくる金と遺産でなんとか食いつないでいる。
この事務所も実は親が残してくれたもので俺所有物件で賃貸じゃない。
俺一人で何もかもやってるから、暇かって言うと案外そうでもない。
彼女もいないし嫁さんもいない・・・天涯孤独。
彼女なんて呼べる女は、いつの頃いたのかさえ忘れちまった。
ダチもいなくはないが、それもほとんど商売がらみ。
探偵なんて商売してるから反社のやつらとの付き合いだってある。
ってのも昔、飲み屋で知り合った「
がいる。
やつは表向きは建設会社なんてところに勤めてるが裏では
柏原はヤクザだけど決して腐ったやつじゃないし、めちゃ気のいいやつ。
柏原の方が俺よりずっと歳上、でも年齢を隔てたつき合い。
やつとは何故か気が合って未だに切れずにいる。
あと南湾岸署の刑事部長の「
やつでなにかと可愛がってもらってる。
俺は先輩のことを「タカさん」って呼んでる・・・。
俺はこれでも昔は刑事をやっていたんだ。
俺は追い詰めた犯人を誤って拳銃で撃っちまってそれがトラウマになって
警察を辞めた。
だから今でも飛び道具は嫌いだ。
警察は辞めたが企業サラリーマンなんかごめんだったし・・・人に雇われるのも
元来嫌いだった。
だから、独立して私立探偵になった。
明日から俺は探偵だって言えば探偵・・・まあモグリみたいなもんだけどね。
俺の主な仕事は何でも屋・・・困ってる人を助けたり、お年寄りの昔話を
聞いてあげたり・・・まあ、なんて親切な探偵稼業。
で、そんなある日のことだった。
俺の事務所のドアを開けて入ってきたやつがいた。
ソファでふんぞり返っていた俺は久しぶりの客かと思って確認しようと、
重い腰を上げた。
見るとそこに、あのコンビニで出会った金髪ギャルが立ってたんだ。
俺の賭けははずれた。
まあ、もともと俺はギャンブルには向かないタイプだけどな。
「おお・・来たんだ・・・」
「お邪魔します」
「ほんとに来るとは思わなかったわ・・・」
改めて見ると金髪ギャルはピンクのTシャツにスカジャン、下は黒の
カーゴパンツ・・・漫画みたいな、ちっちゃなリュックを背負っていた。
着のみ着のままって感じ。
「あの・・・やっぱり帰ります」
「ちょ、ちょ、ちょ・・・待て待て待て・・・」
「せっかく来たんだし・・・来といて俺の顔見ていきなり帰るこたぁねえだろ?」
「俺、そんな迷惑そうな顔してたか?」
「な、ネエちゃん、あんた行くとこないんだろ?」
「だから、俺んところに来たんだよな?」
「あの・・・鈴蘭です、おじさん」
「え?」
「だから・・・ネエちゃんじゃなくて・・・私の名前」
「
「ああ、鈴蘭ちゃんって言うのか、そうか・・・可愛い名前だな」
「俺は
「名刺・・・渡したよな」
「ってことで、よろしくな・・・鈴蘭ちゃん」
「私、行くところがなくて・・・」
「だろ?、だからここにいるんだろうがよ」
「ワケありか?・・・まあ話したくないなら無理に話す必要ないからな」
でもよ、なんだそれ・・・困ってたり迷ってることがあったら俺に話してみたら、
すっきりするしいい答えが見つかるかもしれないぜ」
「見つからないかもしれないけどな・・・」
「でもよ、なにか問題抱えてるなってことくらい俺にでもわかるぜ、鈴蘭ちゃん」
「私・・・」
つづく。
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