第5.1話・無駄話

「私、メイド長なのですよ」

「無駄話っすね」




「いやいや、最近私の扱いが酷くなっていませんでしょうか?」

「放課後の僅かな時間で、わざわざ秋葉原にあるメイド喫茶まで足を運んで、下らない話を聞かされながら金まで払っている俺達の心境も考えてください」

「ツッコミが、秀逸ッーー!」

いや真面目に。

メイドとしての責務くらい果たして欲しいものであった。

というのか、他のメイドさんがこの席に来ないのは、お前のせいだったのか。

何で逆指名しているんだよ。

「私なベルガモットティーください」

「では、アールグレイで出しますね」

白鷺に至っては、動じずに注文している。

こんなものに慣れたくはないが、白鷺みたく軽く流すべきなのだろう。

「俺はホットコーヒーでお願いします」

「そういえば新しい豆が入ってきたので、そちらにしますか?」

「あんまり苦くないなら」

「ご主人様、苦いのが苦手ならなんでコーヒー飲むんですか?」

「……なんで、毎回突っ掛かってくるのかねぇ。喋りながら飲むんだから、苦くて喉に残るのが嫌なんだよ。コーヒーは普通に好きだよ」

落ち着いた空間で読書しながらコーヒーを楽しむならまだしも、うるさい人がいるしな。

「いつもコーヒーを飲んでいるが、美味しいのか?」

「白鷺にはまだ早いかな?」

「そうか……」

残念そうにしている。

「ご用意致しますので、暫しお待ち下さい」

サラッと詩集を出してくる。

あの一件から、シルフィードでは詩を読み上げるのが流行っていて、男女関係なく一人一回がルールである。

メイド喫茶だからこそ、寛げる良質な空間を提供し、お店のコンセプトを大切にするのは分かるが、男同士だと罰ゲームでしかないのだ。

メイドさんが読むならはにかんでいる姿も可愛いが、野郎が恥ずかしそうに詩を口にするとか呪詛レベルの特級呪物だ。

特に詩だと、気に入ったものを選んで口に出すため、そもそもが恥ずかしい。

自分の趣味が出てしまう。

「うむ。先に決めていいぞ」

「愛の唄とか苦手なんだけどな。キャラじゃないし」

パラパラとめくりながら、探していく。

せめて読むなら好きなものにしたい。

適当に選ぶとメイドに文句言われそうだしな。

「ご主人様、お嬢様、お待たせしました」

その間にティーセットを運んでくる。

これがいつもの光景だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る