体育祭の借り物競争でお題に「好きな人」と書かれてたから安パイで妹をチョイスしたら、妹が本気にしてしまい……

九傷

体育祭の借り物競争でお題に「好きな人」と書かれてたから安パイで妹をチョイスしたら、妹が本気にしてしまい……

 


 体育祭や運動会の競技の一つに『借り物競争』というものがある。

 その内容はコースの途中に置かれた紙を拾い、そこに指示された何かを借りてゴールするというもので、非常に遊び要素の強い競技だ。

 かなり知名度の高い競技なため知らない人はあまりいないだろうが、実際にこの競技が体育祭の種目として採用されるケースはあまりない。

 特に中学校や高校では滅多に見られない競技と言っていいだろう。


 それなのに何故知名度が高いかと言うと、漫画やラノベなどの学園モノでは定番競技だからだ。

 フィクションの体育祭には大抵の場合お遊び要素が組み込まれているものだが、『借り物競争』はその中でもポピュラーな競技であり、様々な作品で採用されている。

 特にラブコメなどで採用率が高く、お題に「好きな人」が仕込まれているなんていう低俗な悪戯は定番中の定番とも言える。



 さて、何故こんな前置きをしたかと言うと、まさに今俺が立たされている状況がソレだからである。

 まさか、高校生にもなって『借り物競争』なんてものをやらされるとは思っていなかった。

 ウチの高校は自由な校風をウリにしていたが、今年は去年にも増してエンタメ性に力を入れているような気がしてならない。


 それにしても、よりにもよって本当に「好きな人」を引いてしまう俺のくじ運の悪さも中々のものと言えるだろう。

 他の生徒は眼鏡だとか帽子といった手軽な物ばかりなのに、何故俺だけ……


 一応俺にも気になる異性はいるのだが、所詮は気になる程度のレベルなため、現時点では告白する気力も勇気もない。

 もしするのであれば、もう少し関係性が深まってからだと思っている。

 だから、この機会を利用して告白をするという選択は当然なかった。


 では、どうするか?


 プラン①:適当に女子を見繕って連れていく

 これは中々にリスクが高い。

 周囲に誤解を受ける可能性があるし、本人も含め多くの女子を敵に回す可能性が出てくる。

 さらに言えば、好きでもないのにフラれて俺にダメージが入ることも考えられるので、まあ却下だ。


 プラン②:適当に男子を見繕って連れていく

 普通に考えればこの選択が妥当に思える。

 笑いのネタになるし、互いのダメージも最小限に抑えられる無難な選択と言えるだろう。

 しかし問題なのは、俺には誘える友人が限られているということだ。

 具体的には一人しか候補がいない。そして、その一人が問題なのであった。


 チラリと自分のクラスの席を見る。

 そこには、精一杯といった感じで応援する少女――否、少年の姿があった。

 あの少女と見紛う男子生徒こそ、俺の唯一の友人である草壁 悠くさかべ ゆうなのである。

 それの何が問題なのかは説明するまでもないと思うが、文字通り洒落にならないというのが最大の理由だ。


 俺と悠は、クラス内で既にホモ疑惑が浮上しているような状態なのだ。

 ここでもし俺が「好きな人」として悠を選んだら、その疑惑は確信となってしまうだろう。

 そしてさらに問題なのが、悠が実際にホモだという可能性もある点だ。

 最近やたらとスキンシップが多いし、視線も妙に熱いんだよ……

 もし悠を選んでしまったら、絶対マズイことになるという確信がある。なのでこれも却下だ。


 そうなると必然的に選択は一つしかない。


 プラン③:身内を頼る

 高校の体育祭に親が観戦にくることは普通ないが、幸いなことに俺にはこの学校に身内が存在する。

 妹の秋沙あいさだ。

 身内であれば「好きな人」というのもしっくりくるし、NG判定にはならないだろう。まさに安パイ。

 妹が好きとかキモイと思われる可能性もなくはないが、秋沙は贔屓目抜きで可愛いのでわかってくれる人も多いハズ。


 問題は当の本人にどう思われるかだが、こればかりは俺にも予想できない。

 秋沙は普段無愛想で何を考えているかよくわからず、会話もほとんどないので俺のことをどう思っているかすらわからない。

 避けられたりはしていないので、恐らく嫌われているということはないと思うが……


 ともかく、もうあまり考えている時間もないので(ここまでの思考時間約10秒)俺はすぐに行動を開始する。

 秋沙は俺と違って美しい顔立ちをしているため、一瞬で見つけることができた。



「秋沙!」


「え? 兄さん?」


「一緒に来てくれ!」



 俺は有無を言わさず秋沙の手を掴み、ゴールへ向かう。

 既に二人ゴールしているようだが、今ならまだ3位に入れる。3位ならクラスメートから文句を言われることもないだろう。



「チェックお願いします!」


「はい。え~っと、お題は「好きな人」ですね」


「っ!? え、兄さん!?」


「はい。この子が俺の「好きな人」です」


「~~~~~っ!?」



 秋沙がちょっと見たことない顔をしているが、嫌そうな顔はしてないので少し安心する。



「妹さんですか。う~ん、まあOKとしましょう」


「よし! 行くぞ秋沙!」


「は、はい、兄さん……」



 流石に照れているのか少し顔の赤い秋沙の手を引き、最後は並んでゴールラインを駆け抜ける。無事三着だ。



「ついてきてくれてありがとうな、秋沙」


「……私こそ、ありがとうございます。……兄さん」



 普段「うん」とか「わかった」しか口にしない秋沙が、今日はやけに饒舌な気がする。

 もしかして、3位になれたのが嬉しかったのだろうか?





 ――その日の夜。





 風呂で体育祭の疲れを癒し、髪が自然に乾くのを待ってからベッドに入る。

 寝るにはちょっと早い時間だが、今日は流石に疲れたので眠気が強い。

 本当なら体育祭の次の日くらい休みにして欲しいものだが、残念ながら明日は普通に授業なので少しでも多く寝て休むしかないのである。



 コンコン



 ベッドに入って約1分ほど経ったくらいの頃に、ドアがノックされる。

 父さんはまだ帰っていないし、母さんか? 一体何の用――



「兄さん、入っていい?」


「っ!?」



 ドアの向こうから聞こえる声は秋沙のものだった。

 俺は慌ててベッドから出てドアを開く。

 そこには、パジャマ姿で枕を抱えた秋沙が立っていた。



「あ、秋沙、どうしたんだ?」


「兄さんの部屋の電気が消えたから、もう寝るのかなって」


「いや、確かに寝るところだったけど……」



 用事があったならいつでもタイミングはあったろうに、何故電気が消えてから尋ねてきたのだろうか?

 何かの嫌がらせか? それとも、急に用事を思い出したとか……



「だから、一緒に寝ようと思って」


「っ!? え、今なんて?」


「だから、一緒に寝ようと思って」



 一字一句違わず同じセリフを繰り返す秋沙。

 どうやら聞き間違えではなかったらしい。



「Why?」



 混乱のあまり、何故か英語で尋ねてしまった。

 ワケガワカラナイヨ。



「それは、だって、相思相愛の男女が一緒に寝るのは普通のことでしょう?」


「ソウシ、ソウアイ?」



 相思相愛とは、確か男女がお互いに恋して、愛し合っていることを意味した言葉だったハズ。

 一体全体何故そんな言葉が……!? ってそうか! もしかして、『借り物競争』のお題のせいか!

 いやいやいや、待ってくれ。アレはそういう意味ではなく、家族として好きという意味で、異性として好きとかでは決してない。



「お、おい秋沙、アレは家族としてという意味であって、そういう意味じゃ――」


「っ! も、もしかして、嘘だったってことですか?」



 それまで嬉し恥ずかしといった秋沙の表情が、一瞬にして絶望に染め上げられる。



「い、いやいや! 全然嘘じゃないぞ! 秋沙のことは本当に好きに決まっている!」



 そのあまりの罪悪感から、俺は反射的に嘘を口にしてしまった。



「よ、良かった……、もし嘘だったら私、死んでいたかもしれません」


「死!?」



 死とか、流石に重すぎじゃないですかねぇ!?



「でもそれなら、何も問題ありませんよね?」



 そう言って秋沙は俺の脇をすり抜け、当たり前のようにベッドに横たわる。



「さあ兄さん、一緒に寝ましょう・・・・・


「…………」



 ど、どうしよう……!?





 ――その翌日。





「おはよう――ってちょっ寿彦としひこどうしたの!? 凄く顔色悪いよ!?」


「おはよう悠。いやなに、ちょっと寝れなくてな……」


「寝れなくてなって、昨日すぐ寝るって言ってたじゃない!」



 昨日は寝る直前まで悠とLINEのやり取りをしていた。

 そして最後はお互いに「おやすみ♪」と送りあってからベッドに入ったのである。

 恋人か!



「色々あってな……」



 とは言っても具体的にナニカをしたワケではない。

 ただ純粋に、耳元で秋沙から子どもの頃からずっと好きだったとか、実は兄さんとは血が繋がっていないとか衝撃の事実を聞かされ続けて眠れなかっただけである。



「兄さん」


「ひぃっ!?」



 ここにはいるハズのない秋沙の声が背後から聞こえ、思わず飛び上がってしまう。



「秋沙、何故ここに……!?」


「お弁当を渡すのを忘れていました。あと、今日からお昼は一緒に食べましょう。授業が終わったら迎えに来ますので、忘れないでくださいね、兄さん♪」



 そう言って秋沙は何事もなかったかのように教室から出ていく。



「寿彦、お昼はいつも僕と食べてたのに……、っすん、僕とは、もうおしまいってこと?」


「誤解を招く言い方はやめろぉぉぉぉっ!!!」



 案の定、教室のアチコチで俺達を見ながらヒソヒソと酷い憶測が飛び交っている。


 こうして、俺にまた新たなる疑惑が追加されたのであった……



 なんでこんなことに!!!




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