第三話 初めての仲間
時は翌日の昼少し前。
場所は変わらずあの村。
「昨夜と今朝も結局、あの夫婦にはお世話になってしまいましたね。私のことについても、カルラのことについても、何も聞かずに一晩泊めてくれましたし」
なおあの老夫婦は現在、二人で仲良く畑の方に行っている。
そしてエナはというと。
「さてさて、えっと……昨日の夜に少し出ていた熱はもう下がりましたかね?」
よっこらせ。
と、エナは自らのおでこをカルラ——ベッドで眠っているカルラのおでこへと当てる。
(問題はなさそうですね。やはり昨日、雨に濡れたのがよくなかったのでしょうか?)
一応、彼女を家に入れた後しっかり身体を拭いてあげたりしたのだが。
もしそれが足りなかったせいで発熱してしまったのなら、本当に申し訳ないことをしてしまった。
「おや、ちょっと汗が出てますね。拭いて上げないと……」
ふきふき。
ふきふきふき。
エナがなるべく優しく、カルラの身体を撫でるようにタオルで拭いてあげていた。
まさにその瞬間。
「あ、ぅ……っ」
パチリ。
目を開けるカルラさん。
彼女は少しの間、ポケーっとした様子でエナを見た後。
「おまえ、カルラを看病してくれていたのか?」
「あ、いえ。看病っていうほどのことはしていませんよ。雨や汗を拭いたりしただけです。というか、なんならベッドに寝かせたのはおじいちゃんですしね」
「それでも看病してくれたのは嬉しい……えっと」
「エナですよ。私の名前はエナ、魔王エナです」
「ま、魔王!? エナは魔王なのか!!?」
と、驚いた様子で上半身を起こすカルラ。
この反応からして間違いない。
というのも昨日。
カルラが再び倒れる前にたしかに言ったのだ。
『ここはどこカルラは誰』的な事を。
エナはあれを聞いた瞬間、とある確信にも似た考えを持っていた……それは。
「いいですかカルラ、ショックを受けないで落ち着いて聞いてください——あなたはルクスという魔王幹部に洗脳されていたんです」
「なっ!? だからカルラは昔の記憶が何もないのか!? 許さない! カルラはルクスが許せないんだ!!」
「記憶については確かではないですが、私の予想だとそういうことになります」
「そ、それじゃあひょっとして、カルラの洗脳を解いてくれたのはエナなのか!?」
「それについては自信を持って言えます」
エナは自らの胸に手を当て、もう片方の手をカルラの肩に乗せ、声たからかにカルラへと言う。
「カルラの洗脳を解いたのは、何を隠そうこの魔王エナです!!」
「すごい! エナはとってもすごいんだ! でもカルラ、わからないことが一つだけある!」
「何がわからないのですか? 私に答えられることなら、どんなことでも答えますよ! あなたの洗脳を解いたのは私です——最後まで責任持ちますとも!」
「エナは魔王なんだ! ルクスの上司だ! なのにどうして、ルクスが洗脳したカルラをエナが助けるんだ? よくわからないぞ!」
ごもっともだ。
たしかに表層的な情報だけでは混乱しても仕方がない。だからエナは伝えていく——彼女が持っている情報を。
すなわち、エナは現在行方不明という扱いになっているため、それを利用してルクスが好き放題しているということを。
さてさて。
それを聞いたカルラの反応はというと。
「絶対に許せない! カルラを洗脳しただけじゃなく、魔王であるエナを無視してそんな事をするなんて! 万死に値する冒涜——あっ!」
「どうしたんですか、急に慌てた顔をして」
「どうしよう、カルラはさっきまで魔王様のことをエナって呼び捨てにしちゃった。カルラも魔王様に対する冒涜だ」
しゅん。
と、狐耳をぺたんこにするカルラ。
その様子はとっても可愛らしく、もう少し見ていたいほどだった。
だがそれだと、さすがにカルラが可哀想だ。
故にエナは彼女へと言う。
「大丈夫ですよ。こうして打ち解けて話したなら、もうカルラは部下じゃなく仲間——友達です。エナって読んでください、私もカルラって呼び続けます」
「エナ、とっても優しい! カルラはエナが大好きだ!」
ハグッ!
エナに抱きついてからカルラ。
懐っこくて本当に可愛らしい。
なんだかエナもカルラのことが好きになってきたかもしれない。
ハグハグ。
イチャイチャ。
と、エナがカルラがそんなことをしていてしばらく。
時刻はちょうど昼頃。
「なぁエナ、これからどうするんだ?」
と、ベッドの上にちょこんとあぐらをかき、そんなことを言ってくるのはカルラだ。
ごもっともな言葉だし、それについてはもう考えがある。
故にエナはカルラの横に腰をおろしながら、そんな彼女へと言う。
「とりあえずルクスって奴のところに行こうと思います。私をスルーして勝手に命令下されるのは嫌ですし、そもそも私は魔王城への帰り道がわからないから、そいつに道を聞きたい感もありますからね」
「エナも記憶喪失なのか?」
「まぁそんなものです」
「でもどうするんだ? カルラは記憶喪失だから、ルクスの居場所を知らないぞ!」
「それについては考えがあります」
⚫︎⚫︎⚫︎
そして時は進んで夜——カルラが本格的に回復した頃。
エナはテーブルを挟んでおばあちゃんと話していた。なお、カルラはおじいちゃんを手伝って一緒に夜ご飯を作っている。
さて、エナがおばあちゃんと話している内容はというと。
「もう一度確認のために聞くけど、本当にエナちゃんは魔王なんじゃな? でも今は記憶喪失で、そのルクスっていうやつが好き勝手している」
「はい、それで間違いないです。今まで騙していてごめんなさい」
「はぁ、いきなりすぎて何がなんだかわからないよ。でもエナちゃんはいい子なのはわかる——あたしをあたし達の村を救ってくれたのは、エナちゃんじゃからな」
「救ってなんていませんよ。私はただ脅して追い返しただけです。またルクスの命令で襲ってくるかもしれません……だから、ルクスを叩く」
さてここからが本題だ。
ルクスを倒すのには、エナにとってもこの村にとっても良いことなのだ。
エナはルクスの独断専行が許せない。
村はルクスの脅威に晒されている。
故に。
「おばあちゃん。最近、何この辺りで変わったことはありませんでしたか? どんな些細なことでもいいんです」
問題なのはルクスへの道がないこと。
居場所がわからない——けれど、ここに長年暮らしているおばあちゃんならば、些細な変化に気がついている可能性がある。
今はどんな僅かな情報でも欲しいのだ。
「変わったことと言えるかわからんのじゃが、この村に魔王軍が来ること自体おかしいのじゃ」
「それってどういうことですか?」
「いやな、魔王軍は山の向こうのどこかに居るらしんじゃが……その山とこの村の間には、冒険者ギルドがある大きな街があるんじゃよ」
「なるほど。本来その街に守られているこの村に、魔王軍が来ること自体おかしいと」
たしかにそれはそうだ。
そして大きな情報を得た。
魔王軍は山の向こうのどこか。
そしてこの街と魔王軍の間には大きな街があり、その街には何かが起きたということ。
となればすることは決まっている。
「明日の朝、私たちはこの村を出ます。お世話になったお礼です……この村にはもう二度と脅威には晒されません。約束しましょう、この魔王エナが!」
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