エッセイを・書いている こんなもの書いてもだれも読まない。

柴田 康美

第1話 エッセイを書こうと思った。

 もし、ボクが、何か本を読もうとすれば絶対こんなもの読まない。ぜんぜん読んでやりませんよー。有名人や作家ならともかく田舎のじーさんの書いた文章なんて。書店でお金をだして買うような類いのものではないことは明らかなんです。メイメイハクハク(この字はどうだっけかなぁ)。ま、いいか。誰も読まないんだからカタカナで。好きなテレビの"ポツンと一軒家”も観ないで一途に書いても一銭にもならない。ほんとにバカじゃないの。年齢制限なしの鉄板おバカ。そーゆーものを書いてみようかなとおもいたった。時に、令和5年の83歳の暮れのことだった。


 そーは申しましてもいままで上げ膳据え膳で天下太平まったくのんきなとーさん。廃屋頭におぼろげに自分の死ぬ光景は浮かんでもいますぐ急に書くネタなんて浮かんできませんね。どーしょーかなー。まず、新聞で週刊文春の見出しでも見るか。文春スキなんです。ここはカドカワなんですよね。マズイ。勝負はそれからだ。うーん。勝負ってだれとの勝負なのかなー。だれもなーんも言ってないよ。自分との勝負、これがファイナルアンサーです。


 5年前の市の健診の結果、たしか5年前だと思いますが、べつにボケてるんじゃなくて5年前です。レントゲン検査結果で肺ガンの疑いがあると封書がきました。一応封書の中の診断の所見を見てもハイ分かりました。あーそうですかとは信じられなかった。ただの撮影後の通知くらいだとしか思えなかった。だいたいね。バスに乗ります。両腕でパネルをオランウータンのように抱きしめます。どこかでガシャリ!とカメラのシャッター音がして終了。というわけで、そんな精細なものではないのですね。次から次へと客も銭湯へいくような格好をして狭い車内へ入ってくる。技師のお兄さんもピントを合わせるのも難しいと思いますね。あの、これ、(ぜんぶボクの個人的な感想ですから)だから、口うるさくこの通知について指図しないでよと医療関係で働く娘に言ってやった。この娘は自分の主張を絶対曲げようとしない。胸を張ってますね。曲げないことにプライドをもっているフシがある。ガンジーですね。(会ったことない)こちらが何か言うとケンカになるので御本人のおっしゃるように育ててきた。その結果がいまのジョータイですね。医療関係者のみなさんはときどき上から難しくいってくるからボクらか弱い患者はうろたえちゃいます。彼らも責任上言ってくるのはわかる。いつも最悪の状態になったことを想定して言ってくるのもわかる。でも、最悪にならないこともあるのですよ。もっと言えば命に関係のないどうでもいい症状もたまにあるのではないか。良くも悪くもならない病気もあるのではないか。どうしても原因を突きとめなくてもいい場合もあるのではないか。まあ肺に疑いときたらしょうがないです。疑いは疑いですから。自分ではどうしょうもできないので近くのふつうの綜合病院の呼吸器内科へ行きました。今振り返っても、撮影された右肺中央部にある2㎝程度の毛のようなものが付いた不鮮明な画像を何度見せられても自分はガンであるという確証は浮上してこなかった。何回も2㎝を見れば見るほど違うな違うなとしか思えなかった。不思議といえば不思議で説明されればされるほど違うと違うと腹のなかで静かに抵抗していましたね。でも自分の意見を述べる立場じゃない。ただの患者ですから。女医さんは真剣な顔で泣きそうになりながらほんとに泣き声でもう肺ガンと決まったかのようにここには充分な施設がないからもっと大きな病院へ行ってくれと言った。そしてもうすでに連絡してあると言った。大きな病院とは市で運営している病院のことだ。正式な病院名はここに書けない。この地区の人なら誰でも知っている。市の北部の茶畑の小高い丘の上にある。悪いけどその女医さんのあまりの真剣ぶりにボクは内心笑ってしまった。大げさだなあ。CD画像をちょっと再生して、ああ、これ、なんかのキズの痕ですね。と、かんたんにその日で終わるとおもっていた。そーではなかったんですね。一度、大きい病院(ランクがあるわけではない。ミシュランの☆とは違いますね。)の精密検査をうけてくれというのだ。セイミツ検査か。やれやれ力が抜けてヒナヒナとなりました。元々病院はスキじゃない。あまりかかったこともない。                                    


数年前、これも正確には何年とは書けませんが風邪をひいていて無理して蒟蒻村の営業で高速を走って名古屋の北部市場へ行ったことがある。その前週には新宿の淀橋青果と走り過ぎてくたびれてそれがたたったのか軽い肺炎になった。甘くみていましたね。軽い肺炎だったが炎症を起こしたため「痕」が残った。かかりつけの開業医には笑いながら「遺ったね。」と言われた。遺ったからといっていまさらボクにはどうにもならない。遺ったは遺ったですね。肺炎は怖いよ残念だったねという意味の謎の微笑だったとおもう。今回のレントゲンはそれだ。画像の物体はそれに決まっている。他には考えられないない。決定です。その時以来その考えは風雪を経て固くかたまったモアイ像(イースター島には行ってませんけれど)のようにボクの胸のなかに立った。


 初めてのエッセイなのでもっとみんなが楽しくなるようにと思って書き始めましたがガンと書いたらなんだか紙面が暗くなりつつある。いままで生きてきたなかでそんなに重大なこともないので続けて書くよりしかたがない。せめて楽しいガンを書こうかな。ごめんなさい。怒られるかもしれないけど。


大きい病院へいった。玄関が大きい。自動ドアも頑丈そう。通路も広い。大きい病院は玄関もそうだがあちこち大きい。人も多い。こんなに病気の人がいるんだ。もしかするともしかするガン確率1%の懸念をかかえながら1Fにある呼吸器外来窓口へ。広い通路ゆっくり歩いてゆく。時間はたっぷりある。せめて診察はいやだからゆっくり歩いてやろう。受付はそんなに遠くない。ここへ来る前確率0%とはさすがのボクでも考えなかったんですね。エラクなったね。紹介状はもらってある。すぐに採血、胸部レントゲン、肺活量、そしてCT検査をするように予約票をわたされ指示された。1時間くらいで検査が終わって通路の待合室で診察に呼ばれるのを待っていた。検査のあとの診察する前の待ちがやたら時間がかかる。どうしてか?撮影した資料がすぐにできあがりませんからね。文庫本やら新聞ケータイを見て過ごす。そろそろ呼ばれそうなので通路の長椅子から診察室②待合室白い扉前にずりずり移動。掲示版にこれから診察に呼ばれる人のID番号が点滅している。せっかちじーさんもただおとなしく待っているしかない。


 ついに番号が点灯しました。名前を呼ばれて、コンコンとノック。診察室に入ると若そうな医師は撮影され液晶画面に映ったCTの画像を熱心見ていた。口数が少なそうな医師で画を診ただけでは分からないなとこちらも視ずにいった。これね、と振り返って腰掛けたぼくにも画を視るよう促した。いよいよ問診の始まり。そのとき初めてガンらしきものの正体を映像ではっきりと視た。チカチカ蠢くように見えるモノトーンの物体。ほんとは動いていたわけではない。CTは動画ではない。でも肺だから呼吸しているように動いているように見えてもおかしくないか。錯覚だけど。人体を輪切りにして撮影したもの。画像がもやもやと再生されていたのでそうみえたのだった。不思議な気分だった。もやもやが生きているようにやけに説得力があった。

 昔、自分といっしょに注文をとるために走り回っていた感謝すべき同僚。分身。苦しいことをわけあった戦友。それがいまこうして身体のなかに在る。愛しくおもった。耳元でささやくような医師の声をききながらボクまったく別のことを考えていたわけだ。そしてこの疑いの物体にどうしても名前をつけようとおもった。どうして急にそんなばかばかしいことを思いついたのかわからない。未確認物体ならUFOでUちゃん、未知数で解らないものならX、くだけていうならガンちゃん、他にわけがわからないがシバタのシバをとってシバの女王(そうとう昔の音楽だよね)。ほかに輪切りのワタシもある。結局、この物体はUちゃんにしょうと自分で勝手にみんなの賛同もなくきめちゃいました。

 無口な医師の見立てはこうだった。写真を見ただけではわからない。立体的な丸さは少しはわかるがどういう形なのか決められない。ガンかガンでないかを正しく判定するなら肺に穴を開けて患部を取り出すしかない。ボクは静かに不気味に話す医師の言葉の一言を聞いて飛び上がった。じょじょじょだんでしょー。冗談はやめてくださいよ。まったく想定外のお言葉だった。しばらくは動けない金縛りの言葉だった。

 この大きな病院へは2回ほど行った。医師の見解はいつも変わらなかった。いつも同じ静かな応答で話はゆっくりと膠着した。手術が死ぬほど嫌だったボクはこれをどうしてもさけたかった。打開策はないか考え始めた。しかたがないので気がすすまなかったが娘に相談した。娘はそんなものちゃちゃとやればいいんだよ。と言ったが、しばらく電話口で考えて病院を移動するためセカンドオピニオンをおねがいしますと、医師に相談したらどうかといった。これは当方とっては願ってもないご指示だった。この制度は患者が納得がいく治療法を選択できるように現在治療を受けている担当医と違う医療機関の医師に第2の意見をきくこと(Google検索による)だそうだ。これを行使した。手術から逃げたい一心のボクはこれにすぐにのりましたね。そしてセカオピの言い出しっぺオンナのいるもうちょっとだけ大きい病院で診察するため速攻移りましたね。もうちょっとだけ大きい病院は家康のいた(いまは関係ない)浜松にあった。


 1週間後、自分で車を運転してもうちょっとだけ大きい病院へ朝着いた。玄関で出迎えた娘は機械に診察券を入れて予約するボクを見てよくできるじゃんと言った。あたりまえだろデバイスオタクなんだから。すぐに、こっちへ、きてきて、といって自分のいた産科もシカトしちゃって呼吸器へどんどん誘導していった。ガラスの衝立を入ると椅子に腰掛けた愛想のいい医師は笑いながらお父さんですかと訊いた。ボクの代わり先に娘がハイそうですとへらへら笑いながらテニスコートにでもいるように答えた。バカに親しそうで仲良しじゃないか。これはヤバイと直感した。娘は手術することの大賛成派でメスを持って旗を振っているすぐに切ることが大スキな人である。もしかするとボクが来る前に2人で打ち合わせしたかもしれない。危機が迫っているのを感じた。  

 案の定3人が話し合いをした結論は?でも、これ、おかしい。この場にどうして3人いるのかわからん。2人いればいいんじゃないか。1人多いじゃないのか。しゃりしゃり女が参加しているのだ。仕切りかけている。たまらんなとおもった。愛想のいい医師は画像を見ながらボクに軽く説明した。もう画像も飽き飽きしたよ。雪舟の墨絵もこれだけ見たら飽くにちがいない。物の大きさも変わらない。色はグレー。もちろん鳴き声はしない。声が出たら仰天だけれど。だからとても見る気にもならない。睨めっこはしたくはないな。アバターでも出してちょうだいよ。そして愛想のいい医師はどういうものかをハッキリさせるにはカメラ精度の限界もあるので穴を開けるしかないと大きな病院の無口な医師とまったく同じことを愛想よく言った。

 

 おんなじことをいつまでも書いてだらだらしているといつまでも終わらないのじゃないか。読んでいただいている方に失礼なのでどうするか考えている(もっともだれも読んでる人はいないだろうが)(註)が多くなった。本文より多くなるかもね。それとももっと新しい展開にするのか夜ベランダから星に願いをかけている。


 結局、もうちょっとだけ大きい病院では、どーしてもどこまでいってもUちゃんのいる肺に穴をあけたくないボクの気持ちの方が勝って1日だけでやめることにしました。2人の連合軍には勝った。連合軍には悪いことをしました。でも降伏はしたくなかった。自分のわがままの日帰りだからこの日の治療はなかった。へら笑いの残念そうな娘とどうしようもないとよく外人がやる大きく手を広げ首をかしげる愛想のいい医師に見送られて帰宅した。

 

 今日、12月10日、朝7時。庭の落葉を掃いていたら金色の細いヘビがレンガの上でじっとしていた。トングで挟み草むらに放つとあたたかい年の瀬を楽しむかのようにゆうゆうと去っていった。最高気温を更新することしの師走。冬眠をわすれたのかな。

 

 Uターン。再び元の大きい病院へ戻った。少しバツが悪かったけどこれまでのいきさつをボクなりに一生懸命に話しました。Uちゃんの大きさに変動がないし痛くもかゆくもないこと。もし通院するには浜松はちょっとめんどうになること。検査は1年間隔にしていただきたいこと。これからは部長さんが面倒をみていただけることになりました。年配のやさしそうな部長は今後しばらくオペじゃなく経過観察にしましょうということになった。よかった。ほんとにそうおもった。病名が断定できたわけではない。でもかんたんに思える手術も加齢でダメージが大きくなり身体が耐えきれなくなる。検査の間隔は半年に一回、これからもづっと続けることを告げられました。


 寝しなに考えるときがある。6年前、あのままUちゃんの除去に同意していたらボクはいまごろどうなっていたか。ひどい痛さに苦しんでいただろうか。それとも手術の重さに耐えられず寝たきりになってだろうか。それとも転移もなにも免れ完治して元気でリハビリでもやっているだろうか。それが、いま、ボクは草むらに消えるヘビの行方を見送っている。経過観察になって何ヶ月もたっていない。人間の一生はどこでどうかわってくるかわからないなと思った。そして元気ということはいいものだなとつくづく思った。


               (了)


 年末です。みなさまよいおとしをお迎えください。

こんなひどい文章につきあっていただきとても感謝しています。読んでいただきありがとうございました。



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