六 観音像
一ヶ月後。
非社会的営利団体の抗争で複数の団体が壊滅した。単なる壊滅ではない。複数の営利団体の構成員総数は数百名にも及んだが、抗争後の生存者は数名だった。
生存者は団体の主導者でも幹部ではなかった。肩書きを持たぬ者たちで、団体内で俗に言われている傭兵、つまり始末屋だった。
抗争事件のきっかけは始末屋だった。
非社会的営利団体がはびこる裏社会に数人の始末屋がいた。彼らは極秘に、敵対する団体の主導者と幹部を抹殺する始末契約を、複数の団体と交わしていたが、複数の団体にそれら実態が発覚し、契約していた複数の団体間の抗争事件に発展した。
この抗争事件にかこつけて、始末屋たちは、契約していた複数の団体から落とし前の処分を受けた。その結果、始末屋たちは抗争を生存したものの、両腕と両脚を失っていた。
団体が壊滅したため、腕と脚を無くした始末屋は始末をできなくなったばかりか、何もできなくなった。社会福祉団体の世話になり、リハビリしたが日常生活もままならぬままリハビリ施設を追い出され、宗教団体に引き取られて更生施設に入居させられ、自立更生の道を歩むように指導された。
人を始末するしか能がない始末屋には厳しい道だった。始末屋たちは自分たちの運命を恨んだ。宗教団体の教祖は、
「自業自得、己の行動の責任は己が負わねばならぬ」
と始末屋に改心を解いたが、始末屋は聞き入れなかった。
その後。
再び男が私の仕事場を訪ねた。
「先生にお礼をしたいと思ってきた」
男は持参した包みを解いて箱を開き、中から木彫に塗装された20センチほどの観音像を取り出してテーブルに置いた。
「これでも2kgだ。これを受けとってくれ。意味はわかってもらえるだろう・・・」
男はそう言ったまま微笑んだ。
男は身分も名も明かさなかったが、男が宗教団体の教祖などということを、私は妻の由美にも明かさなかった。その事に由美は薄々気づいていた。私と由美は以心伝心である。
(二章 了)
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