足跡
野林緑里
第1話
雪が降っている。
山里に今日も雪が降り注いでいる。
だけどここは九州の山。
東北のようにたくさん降るわけでもなく降ったとしてもほんの数センチで昼にはすべて解けてしまうほどだ。
だから、朝は寒いことなど気にすることなく外へ駆け出すのだ。
雪の上をかけていくと足跡がついていく。
ひとつふたつではなく、無数の足跡が彼らが存在していることを否応なく肯定させてくれるのだ。
そのことが彼らにとってはどれほど嬉しいことか。
自分たちはここにいるんだよとちゃんとわかってもらえるのだから、嬉しくて仕方なくて足跡をつけるのだ。
けれどその足跡も昼過ぎには消えてしまう。
それは少しさみしい。
どうにかできないのかと彼らは思う。
けれどどうにもできないのだ。
雪はいつか溶けてしまうのだから足跡が消えるしかないのだ。
どうしたらいいのだろうか。
彼らは必死に考える。
やがてあることを思い出すと、彼らは駆け出した。
そして、今日も足跡が消えていく。
「あれ? なんかたくさん足跡があるよ」
今朝の雪が溶けてしまったあとのぬかるんだグランドをみるとそこには足跡がたくさんついていた。
でも、それは子どもたちの足跡ではない。
どちらかというと獣の足跡にみえる。けれど、学校のグランドに獣などいたのだろうかと子どもたちは考えていると先生がやってきた。
「妖怪かもね」
「妖怪?」
「そうさ。妖怪さ。妖怪は私達人間にはなかなか見ることができないがちゃんといるのさ」
「ふーん、そうなんだ」
「さあ、授業を始めるよ。席につきなさい」
「はーい」
子どもたちは先生に促されて席についた。
そして、妖怪の足跡はしばらくすると静かに消えていった。
足跡 野林緑里 @gswolf0718
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