最終話 優しく包み込み大きく受け入れる
舞が多重人格になって数ヶ月が経過しただろう。
きっと心の中で本当の舞は顔を出したくても出せずに居るはずだ。
そんなことを恋人だからか分からないが直感的に信じることが出来る。
僕の思い込みじゃないはずだ…。
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「ちょっと話を聞いてくれる?」
今日の舞はカラッとした表情で僕に接すると床に座る様に指示してくる。
「何かな?」
休日の僕は昼過ぎに起きると伸びをして舞の言う通りに床に腰掛けた。
「舞の話を聞いてほしいの」
「あぁ。うん。話せるなら聞きたいよ」
「うん。じゃあ話すね…」
そうして今日の舞は本物の舞が職場でいじめの様な嫌がらせのようなことを散々されてきたことを口にする。
僕は本日の舞の話をできるだけ丁寧に聞くと時々相槌を打った。
「そんなわけで過剰なストレスから舞は人格を分裂させたんだと思う。本人格は心の中で傷を癒やしている最中なの。でも…」
本日の舞はそこで少しだけ歯切れの悪い言葉を口にする。
「でも…何?」
「あ…いや…すぐに分かるよ…」
そう言うと舞はベッドに寝転がると静かな寝息を立てるのであった。
舞が眠っている間に僕は家事をして過ごしていた。
数時間の昼寝の末に舞はベッドから起き上がる。
「士道…久しぶり…」
その言葉を耳にして僕は目の前の舞が本人格の彼女だと理解する。
「久しぶりな感じはしないな。この数ヶ月ずっと一緒だったし」
「そうだね。中で見てたよ。全ての私に優しくしてくれてありがとうね?」
「いや。全部舞だから。当然だろ?」
「そうだけど…怖かったりしなかった?」
「何が?」
「私が戻ってこないとか思わなかった?」
「全然。舞は必ず戻ってくるって…なんとなく信じられたんだ。恋人だからかな」
「そっか。何の根拠もないけど信じてくれたんだ?」
「まぁ。情けない話だけど…根拠はなかったよ」
「そっか。嬉しいよ」
そうして久しぶりに再会した本人格の舞を僕は優しく抱きしめた。
「辛かったな。今はゆっくり休みな」
「良いの?甘えて…」
「うん。年上だからとか考えないで。僕がいつまでも支えるから」
「ホント?一時的な感情に左右されてない?」
「全く。僕はこのまま結婚しても良いって思ってるぐらいだよ」
「………。からかってる?」
その言葉に優しい笑みで首を左右に振って応えると舞は涙をこらえきれずに鼻を啜っていた。
「本当にしてくれるの?」
「うん。僕はその気だよ」
「そっか…。じゃあよろしくって言っても良い?」
「もちろん」
成り行きのプロポーズは成功して僕と舞はそこで久しぶりにキスをしたのであった。
僕の恋人は多重人格だった。
今でも他の人格が心の中で住んでいるかもしれない。
けれど舞は本人格として僕とずっと向き合い続けた。
そんな強い舞をこれからも優しく包み込み大きく受け入れていくのであった。
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完
多重人格な恋人を優しく包み込み大きく受け入れるだけの物語 ALC @AliceCarp
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