第二幕-2

「殿下はアモン様と会議で忙しい。よって、これより後は私がお前の管理を代理で行う」


 両手を腰に当て、勇ましい表情で整った胸を張りながらファルターメイヤーは高らかに宣言した。

 少し前まで遡ると、カイムの外出したいという一言にアマデウスはホーエンシュタウヘンへの許可を取るべきだと言った。そんな彼の助言にカイムは渋々同意すると、アマデウスは話を付けてくると言い書庫を後にしたのである。

 その翌日に書庫で合流したアマデウスの後ろには、数日前にホーエンシュタウフェンの執務室でファルターメイヤーと名乗った騎士とその妹がいたのだった。

 だが、カイムはこの2人と会うのは数日振りであり、初めて会ったときは突然の召喚等といったことで混乱していた為にこの姉妹についての記憶が殆どなかった。

 姉のファルターメイヤーは長身で細身ながらスタイルの良い体つきに赤い長髪を後ろで1つに纏め、白い肌に青い瞳の凛々しい目付きに整った顔立ちと右目に泣きボクロがである。その隣で少し気弱な雰囲気を出し、小柄ながら姉より豊満な胸と髪を2つに分け、垂れ目の左目に泣きボクロのある少女が彼女の妹であった。

 ファルターメイヤー姉妹は顔付きこそそっくりであったが、目元や身長に差、目元が垂れている分だけ妹の方は姉の美人さに比べ幼さの残る美少女といった感想をカイムに与えていた。

 それだけではなく、姉妹は服装や配色を白と黒のツートーンにし配色でお互いの差別化さえしていたのである。姉はスカートと白を主体にし、妹はズボンとブーツの黒を主体にした服装だった。


「管理って言い方は気に入らないが……まぁ、いいよ。それで、私は外出できるのか?」


 外出を求める自分の名前の前にファルターメイヤー姉妹が現れたことで、面倒な状況に成りそうな雰囲気を察したカイムは気だるそうな口調で姉妹それぞれを見ながら答えた。その態度にファルターメイヤーは右眉を猛烈に痙攣させると、己の怒りを真っ向から彼へ表したのである。

 だが、怒りの感情を払う様に頭を振り深呼吸すると、ファルターメイヤーは表情を再び勇ましいものに戻した。


「貴様、またそのような態度をとるのか……私やアモン様の前なら彼も文句を言ってないし仕方ないから許すが、殿下の前では礼儀を覚えろよ」


 ファルターメイヤーの敵意を見せる表情ながらも多少の優しさを見せる悪態に、カイムは反論しようとした口を開くもそれに続く言葉を迷わせた。そのままゆっくりとその口を閉じると、彼は眉間にシワを寄せたのである。


「はいはい……気を付けるよ」


 そんなカイムのおざなりな返事に、ファルターメイヤーは諦めた様に顔を手で覆うと頭を振った。


「貴様の要望は殿下に伝えた。殿下は私に一任されたが、私にも城の警護という任務があるんだ。そこで私の妹と……、ア……マデウスだったか?こいつの同行を受け入れるなら許可する」


 ファルターメイヤーがカイムに伝えた内容はカイムの寄せ続けていた眉間のシワを少しだけ取ると、彼の表情の強張りを解いたのである。

 そのカイムの砕けた表情に少し不満げに荒く息を吐くと、ファルターメイヤーは彼に歩み寄りその眉間へ腕を伸ばし指を差した。


「貴様がどう思っているかは知らんが、私は少なからず貴様を評価しようと思っているのだぞ」


 突然のファルターメイヤーからの意外な言葉に、カイムは彼女を目の前に少しの間だけ呆気にとられた。その表情に彼女は不満そうではあるものの、腕を組んで再度背筋を正すと彼の顔を真っ直ぐに見つめたのである。


「もちろん、そのいけ好かない態度は気に入らないが、帝国の為に何かしらの行動をしようとしているのは良い事だな」


 そんなファルターメイヤーの言葉に、少しではあったが自分の評価が良かったことで安心感をカイムは覚えた。

 だが、喜びはつかの間であった。外出許可こそ出たが、アマデウスの他にも同行者が付くことで行動には大きく制約が付くことは確実なのである。

 どうするのか策を求めたい焦りの挙動不審を必死に抑えようとするアマデウスの視線だけの問いかけに、諦めの視線をカイムが送る中、姉の影に隠れていたファルターメイヤーの妹が前へ出ると呟くように言った。


「カイムさん……でしたか?これからよろしくお願いいたします!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る