突入
引かれた尾は、爆発的なスピードで駆ける膨大な質量のロケットが巻き込み、蹴散らした空気中の水分だ。
元・真田研究所のアウターである竜胆の能力“ファング”。単純に言えば、任意の数、量のロケットを生成・射出するものである。白崎鋼音は、これに括りつけられていた。
普通なら振るい落とされるところを、同じく元・真田研究所の橘の光輪で固縛。常識なら酸欠になったり体が引きちぎられるといった事態は、須藤の結界で軽減されている。
この作戦が立案されたとき、鋼音自身渋りはしたが対案がなかった。なにより事態は一刻を争うかもしれないのだ。可能であるのなら……と、この状態を受け入れたが……。
「あいつら、覚えとけよ……」
百二十メートルの塔に登るために、なぜ一千メートル上昇するのか。
愚痴を言っても仕方がない。竜胆の“ファング”はミサイルを作って撃つだけで、その後のコントロールはまだ研究中なのだという。
“ファング”の推力が尽き、バラバラと零れるように崩れていく。能力の範囲を外れ、霧散していく残骸を尻目に、鋼音は自由落下していく。残っているのは光の環が五条。本来七条あるのだが、“ファング”と共に消えてしまった。
「“ディアワン”!」
暴風の中、白雲に突っ込みながら叫ぶ。
ばん、と音を立てて白塊を突き破ったのは、その雲よりも白い鎧をまとった白崎鋼音だ。
……ふと、目に入った盟元市。
なんとがらんどうなのだろう。
この街は、ともすれば一子がいない。あるいは、一子が自由に生きられない。
俯瞰した風景は、なんと空無なことか。己が額に宿った熱量に劣る街の息吹。ここで、こんなところで生きるだなんてできない。
だが、この見下ろした街は手放せない。友がいて、恩人が暮らす街だ。愛した人が愛そうとした日常だ。
俯瞰した風景は、たった一人のわがままでたった一人を抱きしめ、独り占めにするための一角だ。
守らねば。護らねば。
あぁ、これが愛か。
愛に懸けて、
◆◆◆
ターミナルの頂上、ヘリポートが見えてきた。目を刺すような色彩だ。なるほど、これはわかりやすい。
『着地まであと五秒!』
「一子はどこだ!」
『その屋上を突き破れ! そこにいる!』
“天眼”を通して、ぼたんが指示を送る。一子の位置情報は、手紙の“プラネタリウム”によってもたらされている。
「屋上を!」
身を翻し、鋼音は右拳を突き出す。光条を束ね――
「――突き破る!」
接触は一瞬。そのうちに、押し付けられた“
「一子ぉ!」
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