　少し見ただけでも、聖女とは比較にならない程に青髪メイドの能力値は高い。それでも青メイドは身体にあるあざを持ち、聖女に恐怖の感情を抱いていた。俺たちが現れた瞬間、聖女は自分の身を守るように青髪メイドを前に出したが、その時も為されるがまま指示に従っていた。

　それも、抽象的ではあるが、俺たちが自分よりも圧倒的に強いと理解した上である。

　よくある展開としては、権力か人質でも使って功績を奪ってるのが定石な気はする。面白い展開と言えばそうかもしれないが、正直リアルで対面すると深掘りするのも面倒くさい!!

　エルフって生物も混沌の森の怪物たちに比べれば衝撃もないし、なんかこの次元は面白味がない。半分植物の影響かもしれないが。

　この次元で異世界を堪能する事を諦めつつあったフォルは、小さなため息と共に右の手の掌を青髪メイドに向ける。その瞬間、青髪のメイドと共に、近くにいた聖女の右腕が目の前に出現した。

「やっぱ難しいな」

　俺が発動させたのは、アイリーンのよく使う次元移動だ。しかしスキルとして持っている分はアイリーンに返してしまったので、世界樹の才能を使って見様見真似で模倣したにすぎない。

　これぐらいの移動なら、あと数回やれば操れそうだな。

　そう俺が考えていると、目の前の青髪と聖女を含めたエルフたちが現状をようやく理解する。それと同時に、パレードに集まった数多のエルフや一部の別種から怒号と魔法が飛んでくる。

　確かに全員のエルフが魔法の適正があるというのは、他国からしたら脅威かもしれない。しかし俺たちとは力量差が比較にならないので、どんな攻撃も全てアイリーンとサリアが相殺する。

　ここで攻撃した者たちを殺さなかったのは、できるだけ混沌の魔力を生み出す母数を無くさない為だった。特にエルフは寿命が長い分、繁殖力が極めて低いので間引かない精神は大切である。

　そしてようやく力量差に気づいたエルフたちは、絶望を感じると同時に微かな希望である聖女へ視線を向けた。しかしフォルの予想通り温室育ちのお嬢様であった偽聖女は、自分の片腕を消された怒りでいつもの演技を忘れていた。

「ぐあああ!!!早く…早くロデラなんとかしろッ!!!!」

　その言葉と視線の先は、フォルが回収した青髪メイドであった。彼女は偽聖女により、小さい頃から与えた英才教育という名の洗脳で、いつもならば言う事を簡単に聞く駒となり果てていた。

　しかしロデラと呼ばれた青髪メイドは本能で感じていた。そんな些細な洗脳よりも、エルフの国王よりも、魔法を相殺されたあの女性たちよりも、目の前にいるナニカには絶対に逆らってはいけない事を。

　いつもとは違う、反応による恐怖ではなく、本能としての絶望に身体が震える中、それを見た偽聖女は舌打ちをしながら、そろそろアビター王国へ戻ろうとしちいた俺たちへ視線を変える。

「このまま生きて帰れると思うなよ!!私は……私は世界樹に愛される聖女なんだ!!!!」

　その言葉と同時、サリアとアイリーンの動きが止まる。そして俺は、その言葉と同時に偽聖女の指した方を見た。

「いや…これが世界樹って、俺の根本にも及ばないのに？」

　混沌の森にある小さな木を指してマジギレしている姿に、俺は久方ぶりの笑いが込み上げてくる。いやだって、さっきまで澄まし顔してた奴が、バキバキに怒りながら変な事言うんだよ？面白いだろ。

　しかしそんな俺とは対照的に、近くにいた二人の怒りは頂点に達する。

「「殺してもよろしいでしょうか？」」

　俺は久しぶりの笑いに喜びを感じながら、二人へ向けて口を開く。

「いや。別にどうでもいい、さっさと戻ろう」

　その言葉に2人は殺気を抑え、瞬時に青髪メイドを含めて元アビター王国まで転移する。

　因みに余談だが、この方針を伝えた時、サリアから「私と同じ拉致誘拐ですね」と言われた際にはショックすぎて寝込むかと思った。

　もしかして俺も相当ヤバい奴なのかな？

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