第19話 サリアの前科

 そうして転移してきた俺たちは、現在サリアの指示のもと森の中を進んでいる。次元移動で一度に行かない理由は、到着即戦争という先程と同じ轍を踏まないためであった。


「そういえば、この次元のエルフってどういう奴らなんだ?」


 エルフという言葉だけで日本にいた時の美形耳長イメージのままでいたが、次元も違うならその概念そのものも違う可能性がある。ていうか、なんでファンタジー生物の名前を地球は知ってるんだよ。


「人間と比較すると、耳が長くて美形が多く長命です!ただフォル様とは比べるのも烏滸がましい程度の雑種ですが。それと長寿だからか温厚な性格が多いですね。」


 そのまま森を散策するついでに話を聞いていると、美しさに固執していたサリアはエルフの国を襲ってサンプルとして数人を生け取りにした事があるそう。温厚な性格を拉致誘拐するな。あとだから森に詳しいのかよ。


 サリアの異常性を体感しつつ数分後、俺たちは数十人のエルフたちに囲まれていた。


「動くなッ!」


 温厚とは掛け離れた声と共に、弓を引き絞る音が聞こえる。それに対しアイリーンとサリアは、俺に対して命令口調なのに苛立ちを堪えていた。


 ちゃんと転移前に無闇な戦闘は控えるようにって伝えといて良かった…。


 しかしそれにしても、なんで森を歩いてるだけでこんな警戒されてるんだ?


 サリア曰く、エルフの国の1割は別種族がいるからこんな絡まれ方はされないって聞いてたんだけど。。


 そんな疑問も、声を荒げたエルフが次に放つ言葉で全てが解決する。


「今日は大切なエルフの祭典、よもや本当に来るとはな!魅惑のサリア!!」


 いやお前かよ。そりゃ拉致誘拐したらそうなるよね!てか魅惑のサリアってモンスターみたいなだな。


「多少雰囲気を変えたようだが、我々はお前の残像魔力から、お前だけを特定する結界を完成させた!二度もあのような失態は起こさせん!」


 わお凄い熱意。でも次の展開は想像に難く無い。

 予想としては、サリアが自分のせいで俺の計画を台無しにしたと考える→全部魅了して無かった事にする→めちゃめちゃ謝罪が来る…かな?


 そんな事を悠長に考えながらサリアを見てみると、そんな事もなくしっかりと爆発寸前の薄い笑みを浮かべて耐え続けていた。ちなみに隣のアイリーンはサリア諸共殺すと言わんばかりの顔をしている。


 いやしかし、ちゃんと来る前に戦闘は控えるようにと伝えておけばこんなにも守ってくれるもんなんだな…!じゃあ今までの暴走は全部俺のせいじゃん。。


 そんな独り言をしている内に、何も反応を返してこない俺たちに痺れを切らしたのか、大声で怒りを露わにしていたエルフを起点に、四方八方から魔法と弓が放たれる。


 ブチッ


 アイリーンから何かが切れる音と共に、周りを囲っていたエルフたちが一瞬にして消える。


 その数コンマ後、俺の目の前にはエルフたちの残骸を踏みつけるアイリーンと、美しい土下座をしたサリアの姿があった。


「次元転移の座標といい、エルフとの戦闘も、何で貴方はそこまでフォル様の邪魔をするんですか!!馬鹿なんですか!?頭欠損してるんですか!?」

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません…」


 まぁ俺が拉致誘拐の話を聞いて気づかなかったのも悪かったし、なんか異世界堪能するモチベが無くなってきた。

 てか本体でナキと寝てた方が楽しく感じられるのは、俺が半分植物なのもあるんだろう。


 フォルは上手く事が進まない現状に呆れつつ、アイリーン攻撃にかろうじて生き残っている数体のエルフに近づく。あんだけ怒りながらも、しっかりと情報を聞き出せるよう手加減してるアイリーンは、流石長年生きてるだけはある。


「久しぶりに俺も魅了で情報収集してみるか」


 そう言いながら、リーダーであろう怒鳴りエルフの頭を鷲掴みにして魅了の粉を与えてみる。


「がっばばばばばあひゃあひゃうひょー」


 例えようのない奇声と共に、急に服を破り出し変な踊りを始めたかと思うと、肉体は紫へ変色、そして体の所々が膨張し始める。

 それを少し離れた所で確認したアイリーンとサリアは瞬時に口喧嘩をやめ、フォルを守るように移動し構える。そして明らかに破裂しそうなほど肉体が膨張したかと思うと、近くに転がっていたエルフの残骸を吸収し始めた。


 当の本人すら困惑している中、膨張した肉体は残骸を吸収しつくすと盛大に破裂し、中から紫色の果実が現れる。


「「「……?」」」


 世界樹は万物を見抜く力を持つが、この依代では力がかなり制限されるため、身体に触れなければ見抜く事ができない。なのでフォルは混沌とした状況に呆れながらも、その果実を手に取り調べた。


果実7826417

感触は大きなトマトで味はバナナ。

それだけ。


 説明文を読み終えた俺は果実を力いっぱい空の彼方へ投げ飛ばし、俺を守るように構えていた2人の方へ視線を戻す。


「サリア、魅了は頼んだ」

「お、お任せ下さいませ!」


混沌の力って恐ろしい。





ーーー

ご無沙汰しております。

設定ミスで更新が1週早まりましたが、

これまで通り水曜日に更新して参ります。

話数は週ごとに左右されるかと思いますが、

楽しんで頂ければ幸いです。

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