第17話 混沌の上陸
時は少し遡り、俺が肉体を慣らすためにナキと軽い戦闘をしていた。
『フォルさまっ!スキル使ってもいいですか!』
満面の笑みを浮かべながら質問するナキに、流石にここで地形を壊すのは森を管理しているリディが大変そうなので、やめておくように伝える。
まぁ俺はもちろん、1番古参のナキもリディが唯一尊敬している相手なので、壊しても喜んで修復してくれるだろうが、親しき中にも礼儀ありってやつだな。
「にしても自由自在に動けるって感動する!」
植物になって動けなかった無力さと、人間の肉体が思った通りになんでも動くという超常現象も相まって俺は素直に感動していた。
次は魔法も試してみたいという想いで混沌の魔力を操作していると、遠くから次元移動でアイリーンとサリアがやってきた。
「フォル様、準備が完了致しました。」
「最高に美しぃ…」
どうやらサリアの次元と繋ぐ準備が完了したようである。
そういえばナキとアイリーンの呼んだフォルという名前は、結局配下たちの意見が拮抗していたため、フランス語の混沌からフォルリアに決めた。そして1番身近である5人にはフォルと呼ばせていた。
ちなみに英語にしなかった理由は、純粋にカオスって名前はカオスすぎるからである。
「よし、それじゃあ早速行こうか」
俺の言葉に、結局1ヶ月の討論で決まったメンバー、サリアとアイリーンが反応する。この人選は純粋にサリアの世界で、アイリーンが次元管理をするからという理由である。
それに加えて本体のある混沌の森が万が一攻められた時のために、これ以上は連れて行かない方が良いという結論になった。
「ではすぐに次元を開いてしまいます。まず外の確認のためサリアを先行させますので、安全が取れてサリアが戻り次第中へお入りください。」
その言葉の通り、俺はアイリーンの開いたゲートのようなものに入っていくサリアを見送るが、数分が経過してもサリアが戻ってくる気配が無かった。
それに違和感を感じたアイリーンが中に入ろうとするが、次元の使い手は貴重なのでそれを止め、最悪死んでも本体には無傷な俺が向かう事にした。正直魔力大量に使ったから壊れて欲しくはないんだけども。
そうして俺はゲートの中に入る。すると強い光が発せられ、徐々に弱くなっていき周囲の景色が先程までとは全く別の場所というのがわかってくる。そして周りを確認するよりも早く、俺が来た事に気づいたサリアが近づいて口を開いた。
「フォル様。お時間をかけてしまい申し訳ございません、少々周囲の掃除しておりました…!」
それから周りを見てみると、中世の城門のようなものが見え、その近くを兵士と民間人関係なく殺し合いをした形跡がある。
普通最初って、冒険者に絡まれたり、盗賊に襲われたりだったりしない?最初から国相手にする作品見た事ないよ!?
俺が少し落胆しているのを感じきれていないサリアは、当然だという顔で説明を続ける。
「ゲートが出た場所がこのような王都の内側でして、フォル様の門出を邪魔する不届者どもを魅了で同士討ちにさせておきました!!」
まぁ確かに、情報不足でゲートが出現する場所まで特定できないとは聞いてたし、力を隠して最初から刑務所生活や実験台になるつもりなんて毛頭ないしな。
まず雰囲気も何もかも独特な俺が、普通の異世界転移モノできる訳もないか。
そう感じながら、俺は本体の方でアイリーンに事の経緯と向かっても良い事を伝える。
「んーこれからどうしようね」
俺が今後の方針に悩んでいると、見るからに聖騎士そうな人たちが正面から現れる。そしてその中心にいる金色の長い髪をした、明らかに聖騎士女性って感じの人が声を荒げた。
「私はアビター王国の聖騎士長!これは貴様らがやったのッーーがああ」
しかしその言葉は紡ぎきる事なく、なんの予兆もなく小指全体が消される。
「フォル様に向けて貴様だと?殺すぞ」
ゲートから現れたアイリーンが、小指辺りの空間を歪めて攻撃したのである。確かに祝福を受ける前のサリア程度に強そうだが、今の俺たちにとっては小者と言って差し支えなかった。
そして未知の攻撃で騎士たちに動揺が広がる中、俺は落ち着いて方針を決められるよう騎士たちを操るようにサリアへ指示をする。
「承知致しました!」
聖騎士は次なる攻撃に身構えるが、祝福を受けたサリアの魅了相手に数秒と精神保つ事もできず、すぐにでも手駒に成り果てる。圧倒的に周りより強かった聖騎士長なる者も耐えはしたが、10秒程で落ち切ってしまった。
「ここへ近づく不届者を殺し尽くしなさい、それと金髪は爪を全てはいでから戦いなさい」
「「「「わかりましたっ」」」」
本当に気持ち悪い光景だと思いながらも、俺の頭の中でシルたちを捕まえた光景と重なる。魅了は格下に対して最強すぎるんだよな。
そんな事を思いながら、二人と方針について話し合おうとすると、二人とも国を完全に落として俺の拠点にしようという方針だった。
なんかもっと順番とかあるんじゃない?と思いつつ、仕方もないので、俺は二人に任せた。
「それでは私が王城の真上までゲートを開きますね」
早速、王のとこまで行っちゃうのね。。
それからは、サリアとアイリーンの虐殺であった。殺すか殺し合わせるかのカオス、この混沌加減が俺に良い混沌の魔力を蓄えさせてくれていた。
そうして玉座の間、左右に魔法使いらしき帽子と杖を身につけた水色の女と、はち切れそうなまでの筋肉を持った男、そして中心には、これまでとは違う魔力と威厳のある王冠をした男が待ち構えていた。
ボス戦みたいな雰囲気だが、正直3対1だろうと今の二人ならば苦労なく倒せてしまうレベルなので、俺は二人に向けて口を開いた。
「せっかく魔力も集まったし、少し混沌の魔法を試してみる」
その言葉に、俺の前面で蹂躙していた二人が丁寧な所作で道を開ける。それを見た国王は自身の剣を抜き、構えを取った。
「争わない選択肢はないか?」
若々しい声で国王が懇願するも、そんなもので揺らぐ性格はしていないフォルは、薄い笑みを浮かべながら答えた。
「上から目線で話すと後ろの二人が暴走して瞬殺だよ」
「君が1番やばそうだけどな」
「良い覚悟してるよ」
そして俺は右手を彼の方にかざす。そして適当な魔法をひとつ使ってみた。
『混沌の直線』
それは指先からビームを出すようなものだった。国王はそれをいち早く認識し、左に動き放たれた魔法を避けカウンターをしかけようとする。
しかしその瞬間、感じた事のない強烈な違和感と共に、国王含め3人の心臓をビームが貫いた。
途切れかける意識の中、国王は走馬灯でも、国を守りきれなかった無力感でもなく、最後に喰らった異様な技だけを考えていた。
魔力の光線はひとつしかなかったのに、全員が平等に心臓を貫かれた。そして心臓に食らった瞬間までも、俺はかわしたはずの光線が実在していると認識していた。認識阻害……それならば魔法使いの魔力壁を無視した理由にならない。
「理不尽……かよ…」
途切れかける意識の中、違和感である元凶のため息が、かすかに聞こえた気がした。
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