第16話 サリアの爪痕
ここはサリアのいた次元、その中でもサリアが宮廷魔導士として所属していたアルカーン王国の玉座の間である。
「サリアの魂が消えてから数ヶ月、流石にここからの復活は望めないでしょう」
玉座の横で書類を手に持ちながら、中年の側近がそう言葉を綴る。
「そうなると厄介になってくるのが魅了された従者どもの暴走だな。あれは騎士団長がサリアに勝ち、王国のために生きるという契約の上で成り立っていた諸刃の剣だ。頭が消えればただの地雷、我々が争いは必然だ。」
玉座の前で平伏する1人、軍部を統率する長がそう言葉を続けた。
「それに加え、数ヶ月前に感じた異様な気配。あれが何なのかわからない以上、早めに身近なものたちを固めておく必要があると思われます。」
強靭な肉体と白が基調の派手な武装をした騎士団も、同意するように意見した。どれも的を得ている言葉に、白く威厳のある髪と髭を生やした国王は覚悟を決めたような表情で口を開く。
「今すぐ軍を組織し処理をーー」
言葉を綴ぎきる直前、玉座の間の扉が開く音が響く。そうして入ってきた副騎士団長の赤髪の女性。神聖な場で何事かという視線が突き刺さる中、そんな事を気にする余裕もない彼女は叫ぶように口を開いた。
「隣国であるアビター王国で内戦が起きましたッ!」
「内戦…?」「何をバカなことを!」「彼の国にそんな兆候は無かったはずだ!」
荒れる周辺に集まった貴族たち。それもそのはず、アビター王国の国王は、自らが騎士団長クラスの戦闘力とカリスマ性を持ち、崩壊寸前だった国を見事に統率した実績がある。加えて国民の中には国王を盲信する集団までいる始末、内戦が起こりうる要素など微塵もなかった。
しかし副団長である彼女が嘘をつけない性格だと知っている重役たちは、予想だにしていなかった事実に冷や汗を浮かべ言葉を失う。そんな中、国王と騎士団長だけが事実を受け入れ、先の事を考えていた。
「副騎士団長、状況を詳細に説明しろ」
少し威圧も込めた言葉に、騒がしかった貴族たちが瞬時に静まる。
「先程、アビター王国に面する森で演習の監督をしていたところ、森の奥からアビター王国からの難民と合流。彼らが言うには、突然兵士や民間人が同士討ちを始めたという事らしいです。」
「もしその話が真実ならば、サリアの能力に似ている。しかし違和感として、彼女にそれ程の力はーー!?」
そうやって予測を立てていた騎士団長、しかし突如遠くから発せられた強烈な威圧に、言葉を続ける余裕はなかった。それは武力に秀でた副団長がなんとか気づく事ができるレベル、しかし気づいてしまっては絶望を感じざる負えないものがそこにあった。
「どうした二人とも」
様子が急変した二人に気づいた国王が疑問を口にする。その言葉でやっと我に返った騎士団長は、この状況を伝わりやすく、端的に絞り出した。
「アビター王国に……怪物がいます」
そして視点は新しい肉体を得た主人公へと戻る。彼は紫と緑を基調に濃淡様々な髪を長く垂らし、小柄ながらに圧倒的な美しさと威厳を身に纏った状態でアビターなる王国の玉座に腰を下ろしていた。
それからため息をつき、国王であった男の屍を吸収しながら口を開く。
「やらかした」
念話と似たような美しい中性的な声が、静まり返った玉座の間に響き渡った。
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