第15話 混沌の方針
最初に繭から解き放たれたのは、予想通りシルたちであった。
見た目は紫色で不気味な入れ墨の入った狼のような感じで、昔の面影もある。もう少しキメラのようなものになるかと思っていたので、まだ愛着の沸ける姿で良かった。
『再び主様に仕えられる光栄、我らは幸せ者です』
そして次に出て来たのは、シルたちと同じ混沌の森で生まれたナキとリディであった。
『世界樹さま!お待たせしましたっ!』
中身は初めて話した時と変わらず愛くるしいが、それと対比になるように、見た目はデカくてかっこいい白狐と形容できるくらいの威圧感があった。
『あなた様をより近くで感じますぅ。あぁ〜幸せぇ〜。』
まるで温泉にでも入ってるかのように幸せに満ちた彼女は、小さな身体から160cmくらいの人間に似た姿になっていた。
ただし俺の身体と似たような複雑な紋様と色合いのした立派な羽を生やしている。
それから数日後にサリアとアイリーンが同時に出てくる。てっきり使った魔力量からアイリーンが最後かと思っていたのだが、そうではないようだ。
サリアは当時の容姿をベースに、髪色に複雑な色合いのハイライトが入っている。アイリーンは人間の姿で出て来たのだが、尻尾の色合いが複雑なものになっていた。他も所々違うような気もするが、正直あまり覚えていない。
「「世界樹様ぁ」」
そんな事を考えて見ていると、巨大な俺の幹を見つめながら頬を赤らめる二人。
そうだった。
二人は魅了してから殺してるんだった。
まさか魂にまで刻まれるとは思っていなかったので対処に悩んだが、感覚で魅了の出力を下げることでなんとか治った。ただシルやナキにも昔与えた魅了以上には、依存感が残ってしまっていた。
『それにしてもみんな強いな』
細かい能力も確認しながら、この戦力で負けるところが正直想像つかない。
簡単に説明していくと、シルは偵察や暗殺、ナキは戦闘、リディは支配とか管理で、サリアが研究系統で、アイリーンが次元管理か。
もちろん戦闘能力は全員高いが、リディだけ支配といった直接戦闘に向かない性能になっている感じがする。
せっかくならこの中で序列とかも考えたが、みんな向き不向きもあるし、余り得策ではない気がする。それなら俺の直属護衛軍的な立ち位置が良いと思う。
『てことで何か良い名前ない?』
ナキ『大樹さま軍団!』
シル『今は世界樹様ですよナキさん』
リディ『混沌は入れたいですぅ』
アイリーン「混沌護衛軍はどうでしょう」
サリア「美しくないです」
アイリーン「えっ……」
本来相入れるはずのない5人が、こうして和気あいあいと話している光景に温もりを感じながら、俺は衝撃の事実に気がつく。
そういえば色々ありすぎて、俺自身の名前とか伝えてなかった。
せっかく安心できる部下も手に入れた事だし、日本にいた時の名前にするのもありだ。しかしサリアとの戦闘で植物とひとつになってからと言うもの、昔の名前に多少の違和感があった。
『せっかくだし、俺の名前も決めといてくれ』
自分で考えるのも面倒だと思い、軽い気持ちで5人にそう伝える。するとその瞬間、周囲の雰囲気が急変する。
『世界樹様のお名前を決めさせて頂ける…!?』
そこから数日間、ナキを除いた4人は休む事なく討論をし続けた。ちなみにナキは花の時から近くに居た影響もあって、俺の名前を決める事自体への興味は薄かったそう。
『そんな事より世界樹さまの近くで寝ていたいです!』
そう言いながら俺の根元で休んでいるナキは、間違いなくこの森の中で1番の癒し枠であろう。
『こういう平和な日々も悪くないな〜』
そんな事を思ってぼーっとしていると、俺はとある違和感に気づく。
『これ世界樹維持するだけでめっちゃ魔力吸われてない!?』
それもそのはず、この空間にいた生物を根こそぎ吸収し、次元も遮断した為、混沌エネルギーが不足していたのであった。
俺の発言にいち早く反応したアイリーンはすぐに名前の討論から離脱し、俺の近くまで走り込む。
「失礼します!世界樹様、この数ヶ月間でどれほどの魔力を消費致しましたか!」
色々作った後に1億残したのは覚えていて、今は大体8000万ぐらい残っている。
『大体2000万だな』
「おそらく混沌の世界樹様は、獲得できる魔力量も多い分、維持にかかる魔力が多くなる特性があるのでしょう。遅くとも数ヶ月以内に、外部の次元を開放するべきだと愚行します。」
おそらく深海の世界樹はそこまで必要じゃ無かったのだろう。確かに混沌とか外に出れば腐るほど存在するだろうし、それぐらいのデバフはあって当然か。
『それでも短い平穏だったな』
それと同時に、深海の世界樹が残した言葉を思い出す。
"完璧な平穏は、外の有象無象を潰して創り換えなきゃ手にできない"
先代の世界樹もバカじゃない。外の世界に悪人は多いが、一部の生物は友好的である事なんてわかっているはず。
それでも次世代の俺に残した助言は、それを真っ向から否定するものだった。俺は人間で何十年は暮らしていたし、そういう漫画や映画、歴史なんて腐るほど見て来たから、どうして先代がそう思ったのかなんて簡単に想像がついた。
同じ轍は踏まないよ、信じやしないさ。フラグじゃないよ?
そう心で呟きながら、アイリーンを信じなかった事に申し訳ない感情も抱きつつ、俺は今後の方針に悩む。
日本には行きたいけど、そこへの次元の情報がないとアイリーンでもピンポイントに繋げる事は厳しいようだし…。
「それでしたら世界樹様、私の次元を糧とするのはいかがでしょうか?」
そう発言したのは、四日間ひたすらに美しい名前を探し続けていた緑女、サリアであった。
『自分の次元がどれかわかるのか?』
「はい!私が世界樹様を知らない無知で無価値なゴミの時代に、次元の干渉は習得致しました。アイリーンに次元の情報を伝えれば可能でしょう!」
それなら確かに、変な次元で博打するよりも効率的だと言える。
『その方針で、俺の身体が出来上がり次第行こう』
「身体というのは……世界樹様自ら私がいた次元に赴いて下さるのですか!?」
そういえば身体の事は話していなかったので、全員に念話で経緯を伝えてみると、全員が喜んでくれていた。
そして同時に、誰が俺と一緒に外へ向かうかで再び討論が開始されようとしている。今回はナキも参加して、逆にサリアはそんな彼らを横目にドヤ顔を決めていた。
おそらく自分のいた次元だから、必ず連れていかれると思っているのだろう。まぁその通りだが。
ちなみに余談だが、サリアは魅了を薄めた直後、苗木時代に俺を襲ってしまった事を思い出して自殺したいと懇願し出した。もちろん俺が却下しようとすると、それより先に「世界樹様から頂いた美しすぎる肉体に傷をつけられません」とか言い出して、余計泣き喚くという事件が起きた。
結局それは事の真相を聞いたリディがブチギレて殺そうとしてしまったので、俺が念話で制止させる事で落ち着いた。従属って万能じゃないね。。
「それと美世界美樹最高美神様というお名前はいかがでしょう…?」
上目遣いでそんな事を言い出すサリアに、俺はため息混じりに念話をする。
『美しくない』
「えっ……」
膝から崩れ落ちるサリアの隣で、アイリーンは薄い笑みを浮かべていた。
平和だなぁ
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