第14話 混沌の秩序

『こういう感じなのか』


 ナキの魂を意識すると、それに合ったスキルと才能に合わせた必要な魔力が頭の中に浮かび上がってくる。そのまま選んで魔力を込めると、枝のひとつから繭のようなものが生え、脈を打つかのように振動していた。


『でかいし気持ち悪いな…』


 この調子で次にアイリーン、シルたち、サリア(緑女)、リディ(精霊)を完成させると、膨大にあった魔力の残りが29億ぐらいになった。

 詳細に必要魔力量を出していくと、ナキ(10億)、アイリーン(16億)、シル(2億)、サリア(12億)、リディ(11億)ぐらいである。


『混沌の森に生まれたからか、シル、ナキ、リディは才能に比較してコスパ良かったな。今後はこの森に街でも作って繁殖させるのありかも。』


 そんな事を考えながら、俺は久しぶりに落ち着いて1人の時間を楽む。


『植物と一体になったからか、こうした暇な時間が至福のような気もするし、どこか退屈さを感じているような気もする。なんか凄い複雑な心境だな』


 このままアイリーンに次元を閉じ続けて貰えば、少なくとも何十年かはここで暮らせるだろう。ナキレベルのモンスターは多くないが、その間に魂から配下を創れば戦力増強にもなる。


『だけどそれより外で狩りした方が効率良いし、何より日本に帰ってゲームとか、漫画の続きとか気になるしなぁ』


 でも俺世界樹だし、多分この感じ、人化のスキル使えなさそうだから地球の次元見つけても遊びに行けないんだよな。

 そう思い悩んでいると、ふとした瞬間にある可能性に思い至る。


『ん?ならこの前手に入れたこのスキル使ってみるか?』


 そう言いながら頭に浮かべたのは『超憑依Lv.1』というユニークスキル。森を適当に吸収した時に、いつの間にか手に入れていたものだった。

 スキルの説明は、精神が自分より大幅に弱いか、魂が空になった肉体に乗り移るというもの。そしてこう見えて世界樹は高スペック、思考分離ぐらい感覚でできるので本体と同時に動かすぐらいはできる。

 ちなみに同時に憑依できる肉体の数は、自身のを除いたレベル数分である。だからレベル1である今は1体分しか操作できない。


『そうと決まったら、残りの魔力を使って器でも作るか。』


 思い描いてみると、必要な素材が瞬く間に浮かび上がる。自分の枝と葉、そして数個だけ実っている果実に吸収した有象無象の魂10000体、そして魔力28億か。


『森制覇した時に倒しまくってるから、数だけでいいのなら魂は問題ない。自分から取る素材もまぁそこまでかからずに治るだろう。んで魔力は混沌要素強めでコスパ良くても、こんなに取られるのは痛いな。あと1億しかない…』


 それでも人間の姿で身動きが取れるという感動のまま俺は肉体制作を開始した。これも繭で製作中なので、お披露目はみんなが誕生してからになるだろう。


『でもこれ、あと3ヶ月はかかりそうだよなぁ。シルたちはそこまで才能ないし、早めに出来上がりそうではあるけど。』


 そんな事を考えながら、俺は無心になる事もなく、ただただボーっと空を眺めていた。

 しかしそんな平和となった混沌の森に対して、次元が異なる世界では真逆の状態になっていた。


 新たな世界樹の誕生。


 次元が分離している事で位置の特定は不可能に近いが、世界樹は存在するだけで、次元を超えた全てに何かしらの影響を与えてしまう。

 ある程度魔法や次元に対して発展した世界では世界樹の存在を感じ取り、逆に魔力に鈍い世界では数多の超常現象が引き起こされていた。


「サリア様……早く戻って来て下さい…!!」


 サリアの抜け殻となった肉体の手を取り、帰りを祈る者。


「強い奴の気配がしたッ!」


 活気盛んな者。


「絶対に手に入れる、何があってもだ!!」


 己が欲を満たすため興奮する者。


「また会えそうだね」


 世界樹の再臨に気づく長寿の者。


「……」


 誕生の余波で封印が解かれる者。


 そしてーーー


「ほんと漫画みたいな展開……」


 それは地球もまた、例外ではなかった。

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