第12話 不信の苗木
『アイリーン、経験値が溜まった』
俺がそう伝えると、人間の姿になっているアイリーンは、俺が周囲に垂れ流しにしている根のひとつに座りながら答える。ちなみに苗木だというのに、操れる根の数と大きさは巨木と言って差し支えはなかった。
『おぉ早いな。異世界の強者も少なく我が動く必要もそこまでなかったな』
そう言いながら周囲に目配せするアイリーン。その視線の先には、俺が厳選して魅了と祝福を与えた100ほどのモンスターたちがいた。
『あぁ、これならお前も倒せそうか?』
そして日常会話のように紛れさせた殺意の中、俺はアイリーンの触っている根を起点に吸収を発動させる。これはアイリーンにとっても意表を突かれたようで、飛行するのも間に合わずそのまま腿から胸までを吸収する事に成功した。
『!?なぜ我を攻撃するっ』
『信じれるわけ無いだろ』
そして間髪入れる事なく、何らかのスキルで空に浮いていたアイリーンの脚をナキたちに襲わせ、俺は顔面の方に最大出力で魅了のスキルをかける。
アイリーンの誤算は、進化中に接触してきた緑女を弱いと決めつけ、片腕と森全てのモンスターたちを与えた事。そして俺が裏切らないという絶対の自信だ。
そのおかげで俺は、膨大な核を使って吸収スキルをレベル3にし、今こうしてアイリーンを戦闘不能にすることができた。
『まぁ実際、世界樹を見たいだけだったら申し訳ないけど』
そう言いながらも悪びれた様子を見せず俺は、キリッとした顔面からトロトロになっているアイリーンに視線を合わせる。
もちろん前の俺のように従属や何かしらのスキルで反撃してくる可能性もあるので、従属したモンスターたちを盾にする事は忘れない。
『お前はそのまま無抵抗で頭のままいろ』
変に問答を続けて従属や他スキルの地雷を引き当てるのは得策ではないし、ここで吸収をしてしまっては、過剰分の経験値が勿体無いので頭だけでも残す事にした。まず世界樹以降に経験値が必要かどうかは疑問だが。
『ただでさえ胴体分の経験値は無駄になってるしな、それでもアイリーンの次元を操る能力は手に入れられたし及第点か』
進化中にアイリーンに攻められないよう戦闘不能にした俺は、進化時間が長くてもいいよう大量の魅了の花粉をアイリーンに与えて進化のウィンドウを開く。
混沌の世界樹
アイリーンもやたら混沌を強調してたけど、まず混沌ってなんだよ。闇とか光ならわかりやすいのに。
そうツッコミながらも俺は、ナキたちに周囲を守るように指示をしてから、進化を開始する。
因みに他との次元はアイリーンと出会った時点で切断してもらっている。ただ可能性の苗木の存在は知覚されてしまったらしい。それこそ緑女のような者たちだろう。
しかしこの次元に来るにはアイリーン並みの次元管理能力があるのが最低条件らしく、他にも諸々の条件を含めればほとんどの確率で不可能らしい。ただ低確率では可能ってのが凄く引っかかるが。
そんな事も考えながら進化を開始して1ヶ月後、俺は全長1万メートルを超える大樹となった状態で意識戻る。それと同時に、目の前に青いウィンドウが出現した。
『チュートリアル完了。
目覚めはどうだい?次世代の世界樹。』
緑女といい、進化から目覚めるのが怖くなってきたんだけど。
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