第11話 秩序の龍

 暗転した視界に薄く光が刺す。俺はすぐに周囲を確認し、手前に頭を失った白い虎、五体満足で意識を失ったナキ、そして巨大な真紅のドラゴンがそこにいた。


 え待って?どういう状況?


 俺が困惑していると、突然ドラゴンの身体が赤く光り出す。白色ではないのが気になるが、今のところこの輝きは進化だったり祝福を受けた時に見られるものだ。

 しかしドラゴンは特に誰を倒した訳でもなく、祝福を受けたにしてはタイミングが謎すぎる。俺は困惑をさらに加速させ、とりあえず考えるのをやめて、先ほどの緑女を倒して得た核を割り振って行く。ちなみに経験値は、次の進化に必要な量が膨大で半分すら届いていなかった。


 そうして数秒後、光の中から赤髪の美女が出てくる。おそらくドラゴンが人間に変身した姿なのだろう。ていうか、強敵人形美女はもう既視感しかない。魅了大会二戦目か?それを倒して俺は性欲の世界樹にでもなるのか?


 呆れの感情を宿しながら、俺は進化で手に入れた根を操る特性と魅了を準備して身構える。しかしその様子に怯える事なく、その女性は自身の右腕を千切って俺の根元に投げながら口を開いた。


『我に争う意思はない、可能性の苗木様。我はこの混沌の森の守護者、秩序の龍アイリーンだ。その腕はそれを伝えるための意思表示として吸収してくれ。』


 俺は身構えながらも、自身の根を操って片腕を吸収する。するとこの女の能力が身体に入っていき、特にトラップが仕掛けられていない事がわかった。


 それにしても強すぎる。片腕で得られる力が全能力の6分の1程度だとしたら、残りの6分の5でも俺は簡単に殺されてしまうだろう。それに何より、吸収前後で耐性と身体能力の値の成長が大きいのを見ると、俺の強化された魅了効果も防がれてしまう気がする。


 変な緑の美女倒して当分敵はいないとか思ってたんだけどな……大人しく話をするか。


『なんの用だ』

『それを説明するために来た、長くなるが許して欲しい』


 なぜここまで腰が低いのか疑問を抱きながらも、俺は黙って10分も続く長話を聞いていた。


 話を簡単に要約するとこんな感じだ。


 アイリーンは世界樹から生まれた。

 しかし400年前にその世界樹が枯れる。

 恩義から新しい世界樹の子を探すが、見つからないので試行錯誤している内に、世界樹は混沌で生まれると知る。

 色々な犠牲で森を次元の曖昧な空間にきて、この混沌の森を成立させた。


『進化の時に会ったであろうナニカは、次元が曖昧だったところで偶然世界樹の気配を感知した異世界人が接触して来たのだろう。今の貴方が倒せる強さならば大した奴ではなかったのだろうが、守りきれず申し訳ない。今はもう他との次元は切断しているので問題はない。』


 秩序の龍と言うより、律儀な龍って感じがする。しかし話を聞いている感じ、白い世界の出来事をコイツは知らないようだ。

 そして俺が植物に転生してしまった理由もおおよそ検討がつく。どうせ死んだ後の魂が次元超えて植物に〜とか言う話なんだろう。

 しかしそんな事より、俺はまだ本当に知りたい事を聞けていなかった。


『俺はこれからどうなる?』


 俺が進化して成った可能性の苗木が世界樹の子という事、ここがそれを生み出すための飼育場というのは理解できた。しかし可能性の苗木である俺が完成した今、俺はこれからどうなっていくのだろう。


 当然の疑問にアイリーンは淡々と言葉を続ける。


『貴方を世界樹にする。そのためにこの森にいる数多の世界から集められた全ての生命と、老いた身体ではあるが、この身を捧げるつもりだ。』


 要するにみんなが俺の養分になってくれる訳だ。飼育場と表現したのはあながち間違っていなかったらしい。


 まぁ確かに、過去の世界樹との想いを繋げるため、数百年と費やした狂人なんだから自分を養分に差し出すってのは不思議な話じゃない。


『だけどその後はどうなる?』


 もはや規模が大きすぎて現実味が無くなってきたが、決して俺は最強になって森で一人スローライフをするつもりはない。

 それに対してアイリーンはシンプルな答えを口にした。


『好きにして頂いてかまわない。私を吸収した時点で、この空間は貴方の物になるし、おそらく次元の移動もできるだろう。世界樹になれば新しい生命を創る事もできる。ただし定期的に養分は接種する必要はあるがな。』


 世界樹になってからが投げやりすぎない?もしかしてこれ世界樹までチュートリアルで、そこからは自由にしていいオープンワールドゲームなの?だとしたらあの緑女は間違えてると思う。


 しかし今話してる相手は、数百年も世界樹の恩義を返すためだけに努力し続ける狂ったドラゴン。人間の常識で真剣に相手するだけ無駄な気もする。


 俺は諦めてその方針に乗ることにした。てか花から苗木になった途端、特大イベント発生しすぎだろ。


『それで、俺はどうすればいいんだ?』


『ん?今まで通りそこの狼や我を使えばよかろう。集めて殺して吸収すれば世界樹になれる。』


 その言葉に俺は、話し始める前から隠れて死んでいったシルや虎たちを吸収していた根を止める。因みにこれは、万が一ドラゴンとの戦闘になった時に少しでも対抗できるよう行っていた。


『ここは君の森なんだろ?俺が君を吸収してから空間を操って楽に吸収できないのか?』


『まず我の能力は次元を繋ぐ事しかできない。だから森を管理するのは動く必要があるし、特に活用する事はできないだろう。それと、我は世界樹となった貴方を見てから吸収されたいのでな。』


 なんだこの注文の多いドラゴンは…?今ここで君を全部吸収させて貰えば絶対世界樹になれるよね?

 しかしこいつは狂っている…俺は自身にそう言い聞かせて心を落ち着かせた。


『自我強すぎだろ…』

『伊達に長く生きてないからな。今は亡き世界樹様からも少しは自分を優先しても良いと言われておる!』


 そう言ってスタイルの良い胸を張りながら爆笑するドラゴン。さっさとお前を吸収して世界樹になりたい。そして永遠の身の安全を確保したい。

 しかし俺は諦めて生き残ったナキたちを使って、森の生物を殺戮するのであった。


 それから1ヶ月後、俺は必要な経験値が溜まったとアイリーンに伝える。

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