第9話 可能性の苗木

 進化後、いつものように急に意識が覚醒する。しかし目の前に広がっていたのは今までいた森ではなく、辺り一面を覆い尽くす白がそこにあった。


 ここはどこだ?本当に真っ白すぎて、目の前に白い画像が貼られてるみたいに感じるんだけど。


 そんな疑問に答えるかのように、若い女のような声が聞こえて来る。


『初めまして、可能性の苗木よ』


 その言葉と同時に、俺の目の前に可愛らしい雰囲気の女性が佇んでいる。薄い緑色のロングヘアーで、前世のアイドルと比べるのもおこがましいような絶世の美女。言うならば、一目で人間ではないと言える生物がそこにいた。

 そして彼女が言った可能性の苗木とは、俺が選んだひとつしかない進化先の名前であった。


『念話が使えないんでしたね。一方的に呼び出して話すというのは美しくないのですが、私も力を失っているものでご自愛下さいませ。』


 よくある相手の心がわかるとか、そういう訳では無いのは安心できる。


『美しくまとめると、ここは私の作った簡易的な世界で、貴方に強い可能性を感じたので呼び出しました。それにしても、意思のある植物が人間の形をしているというのは驚きでしたが。』



 その言葉で俺は身体を意識してみると、先ほどまで曖昧だったものが、しっかりと人間のような形になる。シルエットからしても、おそらく前世の身体が反映されたのだろう。


『それで本題ですが、私からの祝福を受けませんか?』


 そう言って手を差し出す彼女の言葉に、俺は強い焦りを感じる。彼女が言った祝福は、おそらく俺が持っているものの上位互換的な存在なのだろう。

 そして思い出して欲しいが、俺の持っている祝福が適用されるのは、自分に従属した相手のみである。先ほどから明らかに『美しい』を強調している辺り、完全に俺の『魅了』か、それに近しいものを持っているはず。


 俺の認識として、『従属』はそれが成功した時点で精神を殺し、新しい人格を植え付けるものだと思っている。確かに記憶という知識はあるだろうが、そこに今までのような意思はない。それは俺にとって殺されるも同義であった。


 なんとしても生き残る。だからこの差し伸べられた美しい手を握りたい。


 ……ってどちらかと言えば可愛い方だろうが!ってそこじゃないか。。

 やばい、いつの間にか魅了でも食らったか?あの美しい姿をもっと見ていたいし、許されるならば触りたい…!


『次元を介すと能力が衰えるとは言え、私の美しさに争う事は不可能です。素直に私の手を取りなさい?』


 俺はどうにか耐えようと踏ん張るが、俺の精神は瞬く間に彼女への好意に染まっていった。

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