第8話 白銀の狐
〜ナキ視点〜
私はお花さまから言われた通り、自分が限界だと思うところまで虎たちと戦っていた。
私とシルは潜在能力が高かったのか、お花さまの祝福のおかげで、通常の黒い虎ならば複数体に襲われてもどうにか捌き切る事ができる。そして弱い方の白い狼たちも、数の有利と自死を覚悟した特攻で少しずつだが虎を殺すことができていた。
このままならば私たちが死ぬだけでお花様を守り切れるかもしれない。
ナキが期待を抱き始めた、その瞬間ーー突如現れた私と似た白色の虎がシルを瞬殺する。
『お前が主か?』
甘かった。私はすぐに気持ちを切り替え、白色の虎の攻撃に神経を研ぎ澄ます。どうにか防御と回避を成功させ、時間稼ぎをすることができた。
『時間稼ぎか、ならば主は別という訳か』
虎の放つ攻撃全てにギリギリの回避を決め続けるナキは、走馬灯に近い感覚の中で自分の無力さを悔やんでいた。
お花様から祝福をしてもらったのに、対等に戦うことすらできない。
それでもナキは自暴自棄になって攻撃に転ずる事もなく、少しでもお花様の作戦に貢献できるよう、可能な限り時間を稼いだ。
しかしそれも長く持たず、自分が限界だと感じたタイミングでお花様がいらっしゃる方向へと飛ぶ。
『逃げ足だけは及第点だな』
その呟きと共に白い虎と、その近くにいた二体が私の後ろを追いかける。
そして時系列は戻り、お花様の指示と共に、周りで戦っていた狼たちが倒れていく。
ナキにとっての狼たちは、お花様のために力になろうとする同士という認識であった。なのでお花様の指示で死ぬとこに思うところなどある訳もなく、もっと言えばお花様の指示で死ねる幸せに嫉妬心すらあった。
しかしそれよりも大きな想いとして、狼たちの分までお花様を守り通すという強い意志を抱いていた。
そして当初の作戦通り、私は新しい祝福を頂き、体が真っ白に発光する。これにより身体に溜まったダメージは抜けていき、身体能力が格段に上がっていくのを肌で感じていた。
お花様を守る、絶対に。
そんな覚悟と共に放った『念力』は先ほどまでの力とは比べ物にならないもので、一瞬で黒い虎たちの移動を制限した。流石に長時間念力を使う事ができないので、全力で周りにいる黒い虎たちに止めを刺していく。念力に対応してきた白い虎が襲って来るが、ナキは強化された移動速度を利用して回避し、周囲の黒い虎たちから対処していく。
そして念力の発動限界が来た時はすでに、黒い虎を壊滅する事ができていた。しかし白い虎は念力で移動を少しは制限できていたものの、ほぼ無傷に等しい。それに対してナキは念力を使う力が残っておらず、体力も白い虎をかわしながら黒い虎にトドメを刺す事でかなり消費している。それでもナキは諦める事なく白い虎に再び挑んだ。
そこからの戦いは3分とかからなかった。
お互いの身体能力は拮抗していたが、今のナキよりも虎の方が体力が多い。そこが差となり、時間経過すると共にナキには捌ききれない攻撃が生まれて行った。そうしてお互いの攻撃がぶつかり合う中、ナキに致命的な隙が生まれる。それを見逃す虎ではなく、瞬時にナキの前脚目掛けて攻撃を繰り出す。
この戦いの敗因は勝利条件の違いであった。今の白い虎は同胞の仇と生き残るためにナキを殺そうとしているのに対して、ナキは白い虎さえ殺せれば良かった。簡単に言うならば、この戦いにおいてどこまで自己犠牲を許容するかの違いで、既にナキは白虎に勝利していたのだ。
そしてナキは1本の前足を犠牲に、白い虎へ致命的な一撃を与える。それからすぐバランスを崩しながらも虎の顔面をかぶりつき、ナキは戦いに勝利した。
なんとか守り通すことができた。その安堵と共にナキは地面に倒れ込み、空を見上げる。しかしそこにあるはずの青空は無く、巨大な黒い影があった。
それがこの森の主であるドラゴンだと気づくのに、そこまでの時間は必要なかった。
それと同時にお花様の方向から白い輝きが溢れ出す。これは前に見たのでわかったが、お花様の進化が完了した合図である。ただひとつ違うとしたら、これまで見た光とは比べ物にならないほど強く、より白く輝いていた。
『先手を打たれたな』
ドラゴンが何か呟いたようだが、ナキは気にする余裕もなく、その光を背中にお花様を守るため、失った片脚から大量の血を吹き出しながらも残りの3本の脚で立ち上がってドラゴンを睨みつける。
お花様を守る、絶対に…!
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