第7話 屍の花

〜虎黒族の長視点〜


 狼どもが自分以外の縄張り一箇所に集まっているという知らせを部下から聞かされた時、私の自尊心は酷く傷つけられた。


 その理由は、過去に一度狼たちを従属させようと出向いたにも関わらず、あの犬どもは唯一の白き虎であり、この森で最高クラスの戦闘能力を持つ虎黒族の長である私の好意を断ったのだ。

 縄張りと仲間意識の強い狼だったので、その時はそういう生物もいるだろうと割り切って、たまに狩りをする程度に抑えていた。しかし先ほど聞いた話では、他の縄張りで誰かに従属を誓っているというではないか。


 私は許せなかった。それと同時に興味が湧いた。縄張り意識の強いあの犬どもが、それを捨ててまで尻尾を振っている存在が何なのか。


 そして時系列は戻り、私は目の前にある白く美しい花を見つめる。


『たかが花に誑かされていたとはな』



ーーー



 天国花(94043/100000)


 俺は目の前に表示された必要経験値を睨みつける。個体差はあるが、虎白族2,3匹狩れば上がるかもしれない。しかし今目の前にいる白い虎と、その左右で臨戦体制でいる黒い虎が待ってくれるわけがない。


 絶体絶命。


 その表現は間違っていない。しかしそれは虎たちが攻めてくる時点でわかっていた事だし、俺の心は折れていない。なぜなら敗色濃厚になったナキが俺の目の前に現れたのも作戦のひとつであるからだった。


 普通に考えたら敵にボスの位置を教えるなんて愚策だと思われるかもしれないが、この力は対象が近くにいないと発動できないので仕方がない。


 俺は従属したすべての生物にあるひとつの命令をする。


『ナキ以外すべて自害しろ』


 瞬間、付近で戦っていた狼や、密偵として活躍していた鳥たちの動きがピタリと止まる。


 全員が舌を噛んで自殺したのだ。


 異様な光景を前に、すました顔をしていたはずの白虎の顔が強張る。その表情には疑念や嫌悪感の感情が滲み出ていた。


 しかし俺はそんな事を気にする事なく、残りの経験値分が稼げた事に安堵する。


 もしこれでも足りなければナキを殺すことになっていた。ナキを特別生かしたいしたい訳ではないが、それでもナキ以外と限定した理由、その理由を今から実行に移す。


 俺は目の前に表示されたウィンドウをいじり、祝福に対して集まった核を捧げてレベルを上げる。そして祝福を再びナキに与え直すと同時に、俺はひとつだけしかない候補を選択し進化を開始する。


 俺は暗転していく視界の最中、先ほどよりも一回り以上大きくなったナキの背中を見ながら願う。


 俺が進化を遂げるまで頼んだぞナキ。なんなら全部倒してくれ。


 そうして俺は意識を手放した。

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