第5話 不穏な種

 という事であれから数日が経ち、俺は28体の黒狼を白狼にして従属させた。

 やはり族長でもあったシルが潜在能力も1番高かったようで、それ以外は祝福を与えても身体が白くなるだけでシルほどの力は手に入れる事なく終わった。


 なので当初の予定通り、白狼族のトップをシルにして、ここを白狼族のナワバリとさせる事にする。

 どうやら今俺が生えている場所は想像以上に竜の棲家と近いらしく、誰もナワバリとして利用していなかったようなのだが、まぁ普通に生きてる分には問題ないらしい。なんか最低限の狩りや生活は保証されているというのは憲法みたいだなとも思う。


誰かに森の管理でも任されてるのか?


それならば尚更俺が力をつける前に見つかるのはやめておくべきだし、同時に早く成長すべきでもある。

という事で先送りにしていた、ナキとシルの能力確認と行こう。


"お花さま!これが私の能力です!"


端的にまとめると『念力』のようで、物体を動かす力らしい。何よりヤバいのが、脅威的な体重差や身体能力に差がない限り、何の前触れもなく動かす事ができるという点だろう。

もし雑魚ならば不意打ちで頭を潰す事だってできるし……だから毎回仕留めた獲物の頭がなかったのか。普通に頭から食い千切ってたんだと思ってた。


そしてナキの能力は以上のようで、次にシルが自分の能力について語る。


これも端的にまとめるなら、『瞬間移動』で、視界内であればどこだろうと瞬時に移動できる能力らしい。しかし自分以外の移動や、遠くなるほど疲れるという事なのでレベルが上がる事に期待である。


ナキは従属、シルは祝福を与えた段階で能力を手に入れたようで、それを聞いてもわかる通りナキはこの中で頭ひとつ抜けた才能があったのだろう。もちろんシルも他の狼たちは手に入れられていない能力が得られた時点で才能はある方なのだとは思うが。


てか改めて思うけど、こんなに能力がある俺って異常なんだな。進化って最高!


てことでやる事も終わったし、俺は2人にいつも通り最低限の狩りをするようにお願いし、再び無心で厄介事なく平和が来るように祈り続ける。


もちろんそれがフラグなのだが、それに気づくのはもう数日が経過したある日であった。


"睡眠中に申し訳ございません"


俺はシルの声で無心状態をやめる。

その横にいたナキは、俺のことを起こさせたシルのことを今にでも潰そうとするような表情で睨んでいる。

そういえばナキは自分から俺に話かける事は少ない。あったとしても、それは俺が無心状態ではない時に限る。


俺はナキの行動に嬉しさを感じながら、いつものお礼の意味を込めて魅了の花粉を与えてやる。するとどうやら俺の意思も伝わったのか、落ち着いていく。


それで、どうした?


"どうやら主様の存在を知らずに虚しくも生きていた時代のナワバリに虎黒族が侵入してきたらしく、現在こちらに向かっているようです"


確かにそれは厄介だ。何よりも厄介なのが、ここで種族同士の大きな争いまで発展した場合、竜に目をつけられる可能性がある。

しかし逃げる事もできない身体なので、最善策としては圧倒的な力で生け取りにし従属させる事だろう。


その方針を話してみると、どうやら虎黒族はこの森の中でも屈指の強種族であり、皮膚の硬さも相待って正面からの戦いでは有象無象の白狼たちでは役不足だそう。おそらくナキでも皮膚の硬い虎を複数体同時に相手するのは大変かもしれない。

それに虎黒族の族長はその中でも強者で好戦的らしく、これまでの侵略は夜になるまで隠密し、闇夜に紛れての暗殺でどうにか防いでいたようだ。まさに狼の特性を生かした立ち回りと言える。

 しかし今回は知ってか知らずか、俺という存在が正面から戦う事になる理由になってしまっている。現在の太陽はまだ真ん中までしか行っておらず、夜まで待つには時間が足らない。


こちらに来る前に滅ぼす。罠でもなんでも使って滅ぼす。


竜のことは祈る他ない。俺が生き残る事を全てに優先にする、こんな所で死んでたまるか…!

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