第33話

河田さんが死んだのは楓がバイトを始めるより前の事だったらしい。



山奥で1人暮らしの河田さんは、眠っている間に心筋梗塞を起こし誰にも気づかれることなく息を引き取った。



朝起きて何も食べなくても平気な自分に疑問を抱き、そして初めて自分が死んでしまった事に気が付いたのだそうだ。



最初の内はパニックになり、どうすればいいかと思い悩んでいた。



しかし、あたしが楓を『ロマン』へ連れて来た事により、とにかく『ロマン』と解体の後を継ぐ人物を探す事にしたのだ。



『ロマン』で働くと言う事は、解体の仕事も耳に入ると言う事。



そう考えると、一番信用のあるあたしに解体の仕事を任せ、そしてその友人である楓に『ロマン』の仕事を頼むことが安心できることだった。



そんな話を聞きながら、あたしは河田さんの体を解体した。



腐敗していないと思っていたが、服をぬぐとそこにはどす黒い斑点がいくつも出てきていた。



瑠衣と夢羽のように心のつかえが取れたことで急速な腐敗も始まっている。



「あたしは河田さんの指の骨をもらいます」



「あぁ、好きにすればいい」



河田さんはまるで温泉につかっているように心地よさそうだ。



「シャンデリアにしましょう」



あたしがそう言うと、河田さんは閉じていた目を少しだけ開き、そしてほほ笑んだ。



あたしの顔越しにシャンデリアを見ているのがわかった。



「ありがたいよ……」



そして河田さんは永遠の眠りについたのだった……


☆☆☆


それから数週間後。



あたしと楓は相変わらず『ロマン』にいた。



あたしは3人の解体を終えて楓に淹れてもらったコーヒーを飲んでいた。



「おいしい……」



「よかった」



楓がホッとしたように笑う。



疲れている時に少し甘いコーヒーを飲むと、体の芯から元気がわき出て来るような気がする。



だけど、今日はまだまだ『お客様』が待っているから、のんびりと休憩している暇もない。



あたしはコーヒーを飲みほして立ち上がった。



「もう仕事再開?」



「うん。今日はちょっと忙しくて」



そう返事をした時、『ロマン』の入り口が開いて見慣れた2人組が入ってきた。



舞美と冬だ。



あたしは河田さんに言われた通り、信用できる2人に『ロマン』の事を話していた。



亡くなった春君に助けられている冬は、解体の仕事を二つ返事で受けてくれたのだ。



冬が働くのなら、自分も頑張る。



そんな調子で舞美も『ロマン』のアルバイトをすることになり、今日が2人の初出勤の日だった。



「おはよう2人とも!」



「おはよう、モコ、楓。バイトって初めてだから緊張するよ」



舞美が不安そうな表情を浮かべている。



「すぐに馴れるから大丈夫だよ。ほら、こっち来て」



楓がそう言い、舞美をカウンター内へと案内する。



お客さんがいなくて寂しかった店内が、一気ににぎやかになる。



「モコ、俺はどうすればいい?」



「そうだなぁ。とりあえず、今日は見学してもらおうかな」



あたしはそう言いながら、隠し扉を開けた。



「すごいなこの扉! っていうか、俺だってなにか手伝うぞ?」



「そう? それならとりあえず……この『お客様』の手足を切断してくれる?」



あたしは並んでいた『お客様』を解体部屋へ招き入れて、冬にそう言ったのだった。







喫茶『ロマン』はいつでもあなたのご来店をお待ちしております。

                       スタッフ一同








END

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死神喫茶店 西羽咲 花月 @katsuki03

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