第28話
☆☆☆
結局、最初から最後までこの日の解体作業をしたのはあたしだった。
この前一日がかりで3人の『お客様』を解体したけれど、今日は少し慣れてきたこともあり、5人の『お客様』を解体することができた。
今日はこの前のように眠りこけてしまう事もなく、楓と2人で帰宅することもできた。
ゆっくりとお風呂につかり、マッサージをして翌日の筋肉痛に備えたのだった。
前日の夜マッサージをしたおかげで、この前のようなひどい筋肉痛になる事はなかった。
体は疲れていたけれど、解体の仕事をやり切った充実感の方が勝っているようだった。
自分自身が解体の仕事が嫌いではないのだということが、徐々にわかり始めてきている。
決して楽な仕事ではないけれど、『お客様』が安らかな寝顔になって行くのを見ると嬉しいと感じられた。
あたしは昨日作った小銭入れを鞄から取り出した。
ほとんど腐敗が進んでいない『お客様』の皮膚を再利用して作ったものだ。
まだ若い『お客様』だったため、財布の感触もツルリとしている。
肌色の面白味のない財布だったけれど、河田さんが作ってくれた鞄とお揃いで持つと少し可愛らしさが出て来る。
自分が解体した『お客様』を使うというのは不思議な気分だったけれど、こうして見るたびに『お客様』の顔を思いだすのは故人の供養にもなると河田さんは言っていた。
『お客様』の中には身寄りのない人もいるし、それは大切な事なのだそうだ。
「そろそろ学校行かなきゃ」
あたしは時計を確認して立ち上がったのだった。
☆☆☆
いつものように学校へ到着すると、いつも早い時間に登校して来ている瑠衣と夢羽の姿がない事に気が付いた。
今日は偶然少し遅れているのかもしれない。
そう思い、大して気にしていなかったのだが、時間はどんどん過ぎていき、あっという間にホームルームが始まる5分前のチャイムが鳴った。
あたしは自分の席に座りながら、2人がまだ来ていない事を気にしていた。
2人してここまで遅く登校して来るなんて、今までなかった事だ。
登校途中に何かあったんだろうか?
そんな心配が胸をよぎった時だった、教室の前のドアが開き2人が教室へと入って来たのだ。
「遅かったなお前ら!」
瑠衣と中のいい男子生徒が茶化すようにそう声をかけている。
しかし、瑠衣はいつものような笑顔は見せなかった。
それ所か2人とも少し青白い顔をしていて、なにか様子がおかしい。
やっぱり何かあったんだ。
そう思うものの、先生が教室に入ってきてホームルームが始まってしまったので、あたしは2人と話す時間がなかったのだった。
☆☆☆
ホームルームが終わって休憩時間になると、あたしはすぐ瑠衣に近づいた。
「瑠衣、今日はどうしたの? なんだか様子がおかしいみたいだけれど……」
そこまで言い、言葉を切った。
瑠衣の手の甲が青黒く変色している。
どこかで強くぶつけたような青あざにも見えるけれど、腐敗していく『お客様』を何度も見ているあたしにはそれが腐敗の色に見えた。
「なんでもないよ」
あたしの視線に気が付いた瑠衣が慌てて手をひっこめた。
しかし、その口からは悪臭と呼べる臭いがしている。
ハッとしてあたしは夢羽を見た。
夢羽の頬は青白く、血の気がない。
まさか2人とも……。
そこまで感がえて頭を強くふった。
そんなことあるはずない!
腐敗が進むと言う事は、死後数時間は経過していることになる。
2人がすでに死んでいるなんてそんな事……考えたくない!!
しかし、2人の体からただよう悪臭は周囲のクラスメートも気がつくほどで、瑠衣と夢羽を見て顔をしかめはじめた。
「2人とも、ちょっと話がある」
いてもたってもいられなくなって、あたしは2人の腕を掴んで立ち上がらせた。
2人は困惑した表情を浮かべながらも、あたしの手を振りほどこうとはしない。
教室を出てそのまま一気に階段を駆け下りる。
担任の先生とすれ違い何かを言われたけれど、それにも返事をせずに下駄箱まで来ていた。
ここまで全力で走って来たと言うのに息を切らして額に汗を滲まているのはあたし1人で、瑠衣も夢羽も全く呼吸を乱していなかった。
あたしは夢羽の頬を両手で包み込み、指先で呼吸を確かめた。
「息……してないじゃん……」
あたしはそう呟き脱力したように夢羽から手を離した。
「ごめんねモコ。ビックリさせちゃって」
「……2人とも、死んじゃったの?」
そう聞く自分の声が細かく震えている。
「半年前に」
瑠衣にそう言われ、あたしは愕然としてしまった。
半年前?
半年前にすでに2人は死んでいた?
「そんな……」
瑠衣の言葉を否定して笑おうと思ったが、できなかった。
魂の強さによっては腐敗をも防ぎ、10年間生き続ける。
河田さんのそんな言葉を思い出してしまったからだ。
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