第4話 極道、変身する
「え、待ちなさい! あなたはお金の回収よね? わたしたちの変身スマホは」
「それは、ボクにお任せ!」
グリーンが、親指を立てる。彼の手には、メンバー分のスマホがちゃんとあった。
ワシが大将の目を引いている間に、変身ツールを回収してもらっていたのだ。
目立たないグリーンにだけ、ワシは通信を入れておいたのである。レッドはアホ。ブルーは反抗的。イエローはオレに心酔しすぎているため、作戦を立てても顔に出てしまう。なんでもいうことを聞かせるなら、グリーンしかいなかった。彼はもとからネガティブな顔なので、ワシからの連絡でも嫌な顔をするはず。
作戦は大成功だった。
「いくぞお前ら、変身じゃ。アサコ」
「麻美です! いくわよみんな! ブレイブ・チェンジ!」
メンバーが戦闘服に武装する。
ワシも、ブレイブ・シルバーに変身した。
銀色に輝くバトルスーツに身を包み、ワシはため息をつく。
「割とええやんけ、これ。白っぽくて、死に装束みたいやな」
いつでも死ぬ覚悟は、できている。
だが、こんな奴らにワシの命をくれてやる義理は……ない!
「お前ら、あいつらシバクぞ!」
「だから勝手に指示を出さないで!」
戦隊たちが、戦闘員共を撃退していく。
レッドは元忍者と言うだけあり、手裏剣やマキビシで大量の戦闘員を蹴散らしていく。市民への被害を最小限に食い止めていた。そのあたり、脳筋ながらがんばっている。
ブルーは的確に周りへ指示を出し、部隊を統率していた。また、相手を撹乱して連携を乱す術にも長けている。
それも、グリーンの頭脳戦のおかげだ。
イエローはダルそうに戦いながら、彼らの最も脆いポイントを崩していく。住民の避難も、的確に行う。
「戦隊は大嫌いだ、一対多数で、攻撃をしてくる」
大将が、逃げの姿勢になった。撤退する気だ。
「ほったら、てめえはワシだけでやったらあ」
ワシは大将に、ケンカキックを食らわせる。
大将は剣で、ワシの蹴りを受け流した。
「シルバーとやら。我が怪人を生身で殺したのは、貴様か?」
「せやで。お前ンとこの部下も、実力がしれとるのう」
ワシは、白鞘を腰に。
「黙れ! 反社のくせに!」
サーベルを振るって、ワシに斬りかかる。
居合い切りで、ワシは敵の大将の脇を斬り伏せた。
「ぐっ! 貴様……」
大将が、ヒザをつく。
「極道を舐めるからじゃ。こんな修羅場、どんだけ切り抜けてきたと思うとんねん」
本物のハジキが火を吹く世界に、自分はつい最近まで身を置いていた。
「トドメじゃ」
白鞘は、イカの怪物によって阻まれる。
「ぐへへへ。今度こそおしまいだぞお」
敵の将軍は、姿を消していた。
「上等やないか。まずはお前からじゃ」
「凄んでも、怖くないもんね。そうやって頭を改造してもらったもん」
強さの代わりに、人間を捨てたか。自分の強みを捨てなかった、戦隊のメンバーとは大違いである。
ならば、遠慮はいらないわけだ。
「五人いっぺんで攻撃して、とどめを刺すで!」
「私を差し置いて、命令しないでってば!」
ブルーがなにか言っているが、関係ない。
「おいグリーン、イカは何に弱いねん? インテリのお前やったら、わかるかろ」
グリーンがワシに脅されながら、スマホに指を走らせる。
「いいい、イカは、し、視力が、弱いですぅ!」
「よっしゃ! ブレイブフィニッシュ・弱点サーチ! 【視力検査】やっ!」
ワシらは、戦隊の共通武器である「ブレイブセイバー」で、『C』の字を作る。
「えっと、右?」
「ブッブー。お注射するね」
イカが右を指すと、イエローが不正解のブザーをマネた。お注射と称して、ガンモードにしたセイバーでイカの目を撃つ。
「あびゃあああ! くそお。今度は……左上?」
「違います。あなた免許は取れないわね」
ブルーのガンモードが火を吹く。
その後も、イカは次々とCの空欄を間違えた。
「最後は、文字を呼んでもらうぜ」
レッドが合図をする。
「えっと」
「もっと近くに寄って……」
「よおおし。ここまで近づけば……じ・え・ん・ど。か。ジ・エンド!?」
「そのとおり。ジ・エンド!」
ワシら五人のセイバーが、ゼロ距離でイカを刺し貫く。
「インチキだぁ」
イカの怪人が、爆発を起こした。
「みんな、よくやったな」
司令が、スマホからテレビ通信でこちらに呼びかけてくる。
「特にギンよ。君の働きによって、戦隊のピンチは救われた。感謝する」
「じゃかあしいわい。戦隊ごっこは、これでしまいじゃ」
スマホを投げ捨てて、ワシは戦隊たちに背を向けた。
「まっておっさん。あたし、あんたのおかげで自分を汚さずに済んだ。あんたがいなかったら、汚いオヤジに純潔を奪われていたよ」
イエローが、またオレの背中に呼びかける。
「そそそ、そう、です。あ、あなたがいないと、戦隊は、か、勝てない」
グリーンの声には、もう怯えを感じない。
「強いおじさん。また一緒に戦おうよ」
レッドは能天気に、オレの横に立つ。
「あの、ごめんなさい。あなたのことを、誤解していたみたい。あなたには、ちゃんと正義後が流れているのね」
「知らんわ。ワシはええことやっても、しょせん反社や。足を洗うつもりはないで」
どこまでいっても、ワシは極道でしかない。
「残念だ。このまま戦隊に加入してくれたら、応募者限定変身ブレスレットを贈呈しようと思っていたんだが」
「なんやと? これは!?」
スマホ画面には、ワシがずっと欲しかった七〇年代戦隊のブレスレットが映し出されてる。
これは応募しても、競争率が高すぎて手に入らなかったものだ。
「なる! ワシは戦隊になる!」
「なによ? どうせこのブレスレットだって、転売目的で手に入れたいんでしょ?」
「アホか! これがどない価値があるんか、お前らに教えたらんとあかんな。これは、初代のピンクが装着していた代物で……」
ワシは銀色の高級車に戦隊共を乗せながら、ブレスレットの希少性を説いた。
完!
極道、ニチアサで無双する 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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