第3話 刑事、極道を受け入れる
レッドの運転する車が、黒塗り高級車に追突してしまったのだ。車間距離は開けていたのに、バックしてきたのである。
しかも、乗っていたのはあの将軍ではないか。
すぐに敵の罠だと麻美は判断したが、すでに人質を取られてしまった。
「我が名はヤン・キー将軍。ブレイブファイブの者共よ。この者たちの命が惜しくば、変身スマホを渡すのだ。人質一〇〇人に付き、ひとつだ。合計四〇〇名の命は、お前たちの誠意にかかっている」
「誰があなたたちになんか!」
卑劣にも、変身ツールを要求してくる。
男性陣は、ふたりともあっさり変身用スマホを手放す。
「オレはこんなのなくたって、乗り切れっから」
こんな局面なのに、レッドは底抜けに明るい。
「ボクに任せて。ツールは渡す! でも女の子とお年寄りは、すぐに開放しろ。苦しがっているじゃないか。病院に連れて行かないと」
グリーンは鈍重だが、誰よりも周りを見ていた。
イエローのレイが、ツールを戦闘員に向かって投げ捨てる。
「あたし、看護学校に通ってるから」
うめいているお年寄りに、レイは寄り添う。
みんな絶体絶命のピンチだと言うのに、周りを気遣っていた。
変身できなくなったというのに、彼らは誰よりも戦隊の魂を持って……。
本来なら、自分が彼らを助ける立場だと言うのに。
「さあ、残ったのはお前だけだ」
スマホを差し出す仕草に見せつつ、さりげなく懐のホルスターに手をかける。
せめて刺し違えて、こいつにトドメを――。
「グヒヒィ。お姉さんの狙いなんて、お見通しさ」
イカの形をした怪物が、麻美のホルスターから拳銃を抜き取った。
「しまった!」
「貴様、我々に逆らうつもりか? 人質の命は、おまえのせいで失われるのだ! やれ!」
将軍が、戦闘員に号令をかける。
これまでか。
しかし、戦闘員は瞬時に吹っ飛んでいく。
銀色の高級車に、跳ね飛ばされたのだ。
「あんたは……
番原ギン。てっきり、戦隊なんて興味がないと思っていたのに。
「おっさん!」
誰よりも歓喜の顔になっていたのは、レイだ。
「あっ。めちゃ強いおじさんだ」
「ヤクザの人! 怖いけど、今は頼もしい!」
男性陣も、めいめいにリアクションをする。
「えらいオモロいこと、やっとるやないけ……ワシも混ぜろや」
「何者だ貴様? 引っ込んでろ」
「じゃかあしい。ワシはな、お前にゼニを請求しに来たんじゃ」
「ゼニだと……むう!?」
ギンが紙切れを差し出すと、将軍が動揺した。
領収書のようで、金額は四百万と書かれている。
「番原ギン、それは?」
「ワシのシノギ先の請求書じゃ。キャバクラの」
なんと将軍は、組織の金を使ってキャバクラで遊んでいた。
「お前ンとこの親玉に、この請求書を見せたら、どえらいキレとったぞ。破門じゃ、っつってよお。親玉は払わんっちゅうとる。せやから、お前に請求さしてもらうで」
「バカバカしい! そんな金、誰が払うもんか!」
「ほったら、人質の解放でええわ。人質一人あたま、一万といこか。ほいで四〇〇万。これで、ちょっきしじゃ。払わんかったら、お前の親玉は何ていうんやろうなあ? ああ?」
番原ギンが、将軍に凄む。
「ええい。払ってやろうではないか! 人質を開放しろ!」
戦闘員が、人質を解き放つ。
こんな方法で、人質を開放するとは。
「これでええやろ。アサコ」
「麻美です。でも、助かったわ」
ほんの少しだけど、番原ギンを見直した。あくまでも、ほんの少しだけ。
「あとは任せて、逃げなさい」
「なにを言うとんじゃ? 言うとるやろうが。ワシも混ぜろって」
彼の手には、変身ツールであるスマホが握られていた。
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