第38話 確認


 僕は現れた吸血コウモリを、あっという間に食べつくしてしまった。

 ディーバは驚いた顔で僕を見た。


「驚きました……。ほんとうに食いしん坊さんなのですね、マスターは……」

「ごめん、つい……」


 やはりお腹は無限に空いてしまう。


「まあ、大丈夫です。明日になれば、スライムもゴブリンもコウモリも、すべて復活していますから」

「それならよかった。また明日食べにくるね」

「マスターはそれしか考えていないのですか……。ダンジョンは食糧庫ではないのですけどね……」

「あはは……。それじゃあ、僕は一回家に戻るよ」

「わかりました……。さみしいですけど、マスターにもマスターの生活がありますもんね。しかたありません。それではまた明日。それまで、私はここでマスターの帰りをお待ちしております」

「え……?」


 どうやらディーバはこのままダンジョンで僕の帰りを待つつもりらしい。

 だけどそれって、丸一日なにもないダンジョンで、たった一人で待ってるってことだろ……?

 そんなのついまらないだろうし、さみしすぎる。

 なにもそんなことをしなくても、と思ってしまう。


「待って、ディーバはダンジョンから出られないの……?」

「いえ、そういうわけではございませんが……?」

「だったら、僕と一緒に来ればいいじゃない」

「え……? よ、よろしいのですか……? そんなこと……」

「もちろん、かまわないよ。こんなところにいても退屈でしょ?」

「わたくし、ダンジョンから出ることなど、考えもつきませんでした。さすがはマスターです。ありがとうございます。ぜひ、ご一緒させてください」

「よし、じゃあいこう」


 僕はディーバを連れてダンジョンを出た。

 ダンジョンから出ると、そこはもちろん僕の部屋。

 ダンジョンの出口では、ちょむちゃんがちょこんと座って待っていた。

 牙も生えて大きくなったちょむちゃん、それを見たディーバは、後ずさりして警戒心をあらわにする。


「こ、これは……!? 家の中にシルバータイガーがいます……! 危険ですマスター、お下がりください」

「大丈夫だよ、この子はちょむちゃん。僕の飼い猫なんだ」

「猫……ですか……? 私には凶暴なモンスターに見えるのですが……」


 たしかに、ちょむちゃんは大きくなって、いまや立派なシルバータイガーだ。

 だけど、僕にとってはちいさな猫のころと同じ、かわいい飼い猫なのだ。

 警戒心を抱くディーバに対して、ちょむちゃんは人懐っこい笑顔で「なぁお♪」と鳴く。


「ほら、大丈夫。こわくないよ。ね? ちょむちゃん」

「なぁお」


 僕はちょむちゃんを撫でる。

 するとディーバもおそるおそる、ちょむちゃんに近づいてみる。


「確かに……よくマスターに懐いているようですね……。これは驚きました。いくらマスターとはいえ、シルバータイガーが人に懐くなんて……」

「ちょむちゃんは小さな猫のころからの友達なんだよ」

「なるほど、そういうことでしたか……」


 さて、明日までまだまだ時間があるし、これからどうしようか。

 外に出ようにも、今や僕はかなりの有名人らしいし、またマスコミに追いかけられたりしたら面倒だなぁ……。

 そうだ、動画のチェックでもしよう。


 僕は遭難中も、ずっとダンジョンでの出来事を配信していた。

 あれから、自分の動画がどのくらい再生されているかとか、チャンネル登録者がどのくらい増えたのかとか、そういうのまだ見ていなかった。

 遭難のおかげで、かなりバズってたみたいだから、きっとすごいことになってるんだろうなぁ……。

 収益化も一応してあるから、そっちのほうもどのくらい儲かっているのか、確認しておかないとな。

 他にもコメントとかかなり来てそうだ。

 Twitterのほうも確認しておかないと、DMがかなり溜まっているはずだ。

 

「うわぁ……すごい……」


 Twitterを開くと、なんと僕のフォロワーは、遭難前は50人ほどだったにも関わらず、今や2千万人ほどになっていた。

 もう、意味わからないよ……。

 世界中の人からフォローされているんだろうな……。

 まあ、僕は世界で史上初のダンジョンクリア者だから、それも無理はないのか……?

 それにしても異常な数値だ。


 DMのほうもすごいことになっている。

 世界中のメディアから取材の依頼と、さまざまな企業からの案件。

 とてもじゃないけど、対応しきれないほどのメッセージが届いていた。

 

「これは後回しだな……」


 僕の最後にしたツイートには、さまざまなリプがつけられていた。

 みんな、僕のことを心配している声ばかりだ。

 ずっと僕のTwitterに更新がないから、僕の身を案じてくれているようだ。

 マスコミからも逃げてしまったし、みんな心配してくれているみたいだ。

 僕が病院に運ばれてたこともみんな知っているみたいだし、そりゃあ心配もするか……。

 一応、無事であることはツイートしておこう。

 僕は久しぶりにTwitterを更新する。


「えーっと、霧夜沙宵です。とりあえず退院して無事です。今は家にいます。猫も無事です」


 僕はちょむちゃんといっしょに撮った写真と合わせて、その文章をツイートした。

 するとすぐにツイートは何百件もリツイートされて、めちゃくちゃバズった。

 あっというまに1万いいねだ。


「わぁ……すごい拡散力だな……。すっかり僕もインフルエンサーじゃないか……」


 正直、こんな経験は初めてだ。

 いつも僕のツイートなんか5いいねがせいぜいだったのだが。

 こうまで面白いようにいいねがつくと、なんだか脳汁があふれて、こう……自己肯定感がすごく高まる。承認欲求はあまりないほうだと自分では思っていたけど、ツイ廃になる人の気持ちもわかるなぁ……。


 次はダンチューブのほうを確認してみる。

 なんと、僕のチャンネル登録者は1千万人を超えていた。

 まじか……これ、国内のダンチューバーだと1位じゃないか……?

 すごいなぁ……。

 でも、ほんと、生きて帰ってこられた甲斐があったよ。

 一時は死にかけて、どうなるかと思ったけど、これも神様からの贈り物かもしれないな。


 しかも、配信のアーカイブはどれも凄まじい再生数だった。

 多いものだと4億回も再生されている。

 ダンチューブのランキングには、他人があげた僕の切り抜き動画がいくつもランクインしている。

 そうだ、確認したいことがあったんだ。


 僕はダンジョンから出たあと、上尾たちと遭遇して、そのあとの記憶がない。

 気づいたときには病院だった。

 でもそのときのようすが、配信のアーカイブに残っているはずだ。

 配信のアーカイブを確認すれば、あのとき僕になにが起きたのかがわかる。

 上尾たちがどこにいったか、手がかりが見つかるかもしれない。

 僕はあのときの配信アーカイブを確認するべく、再生ボタンを押した。



 




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