第二部 ダンジョンマスター 編

第32話 偏食


「知らない天井だ…………」


 目覚めると、真っ白な部屋にいた。

 ここはどこだろうか……?

 病院……?

 僕、いつのまに病院なんかに……。

 そういえば、公園で上尾たちを見つけて、そのあとの記憶がないぞ……。


 目が覚めて、ぼーっとした頭できょろきょろあたりを見まわした。

 しばらくすると、ナースさんが急いで駆けつけてきた。


「霧夜さん! 目覚めたんですか……!」

「あ、どうも……。ここは……?」

「霧夜さん、ここは病院です。霧夜さんは公園で倒れていたところを、丸内さん……通りすがりの女子高生が助けてくださったんですよ」

「そうだったんですか……丸内さん……」


 通りすがりの女子高生か……。

 その人にはあとでお礼を言っておかないとな。

 病院に言ったら連絡がとれたりするんだろうか。

 そのあと、お医者さんもやってきて、僕の現状についていろいろ説明された。


「霧夜さんは栄養失調の状態にありました。ちゃんと食べていましたか……?」

「え? ええ、まあ……食事ならちゃんと……」

「おかしいですね……。まあ、今後は気を付けてくださいね」

「は、はい……」


 食べ物なら、ダンジョンの中でモンスターをたくさん食べた。

 だから栄養失調というのは、おかしな話だ。

 たしかに食べても食べてもお腹が空いていたのは、事実だ。

 しかし栄養失調となると、どういうことなんだ?

 そういえば、あれほど大量に肉を食べたのに、僕のお腹は全然膨らんでもいなかった。

 それに、ダンジョンの中でトイレにいった記憶もない。

 じゃあ、僕が食べた肉はいったいどこにいっているんだ……?

 まるで、胃の中にブラックホールでもあって、そこに栄養ごと吸い取られているような気分だ。


「一応、点滴はしたので、栄養状態は回復しました。ですが、念のため食事には気を使ってください。サラダを食べたり、栄養バランスのいい食事を心がけてくださいね」

「はい……」

「今日の朝ごはんは病院が用意しますので、しっかり食べてください。お昼には、退院できると思いますよ」

「わかりました。なにからなにまでありがとうございます」


 お医者さんは去っていった。

 ベッドの横をみると、電源が切られたダンカメが置いてある。

 僕が配信で使っていたダンカメだ。

 ナースさんが気を利かせて電源を切ってくれたのだろうか。

 あとで配信のアーカイブを確認しておこうか。

 記憶がないから、なにがあったのか知りたい。

 きっと、僕が倒れるまでの一部始終がダンカメにおさまっているはずだ。

 上尾たちがあのあとどうなったのかも気になる。

 

 僕はきっと、上尾たちになにかされたのだろうか?

 上尾たちに倒されて、意識を失っていたところを、女子高生に助けられたということなのか?

 だとしたら、上尾たちはどうなったんだろうか。

 そのまま逃げたのだとしたら、なんとかしないといけないよね。

 それか、もしくは普通に警察に捕まっているかもしれない。

 この国の警察はみんなダンジョンで鍛えた優秀な人ばかりだから、きっと上尾はちゃんとつかまっているはずだと思うけど。

 一応、あとでその辺も調べてみるか。


 そういえば、僕はちゃんと無事にダンジョンを脱出できたんだよな。

 そう思うと、いろいろと感慨深いな。

 最初はダンジョンに閉じ込められて、どうなるかと思っていたけど……。

 こうやって無事に出られて、ほんとうによかった。

 あらためて、僕はラッキーだった。

 

 というか、なにかを忘れているような気が……?


「そうだ、ちょむちゃん……!」


 僕はちょむちゃんのことを思い出す。

 僕がダンジョンから抜け出さないといけない理由は、愛猫のちょむちゃんがいるからだ。

 あれから何時間経っただろうか……?

 ちょむちゃん、エサの場所は知ってると思うけど……。

 家に独りで置いてしまったままだ。

 ちょむちゃん大丈夫かな……?

 はやく家に帰って、ちょむちゃんの様子が見たい。


 僕はナースさんを呼んで、今すぐ退院できないかきいた。


「はやく家に帰りたいんです。猫がいるんです」

「そうですねぇ……。先生に話してみます。でも、その前に、とりあえず朝ご飯を食べてください。腹が減ってはなんとやら。猫ちゃんの前に、ご主人が倒れてはいけませんからね。家に帰るまえに、栄養をつけていってください」

「わかりました。ありがとうございます」


 ナースさんは優しい人だった。

 僕のために、豪勢な朝ごはんを持ってきてくれた。

 よかった、お腹空いてたんだ。

 そういえば、普通のご飯を食べるのはいったいいつぶりだろうか。

 ダンジョンの中では、ろくなものを食べなかったからな。

 鉱石だの、モンスターの肉だの。

 モンスターの肉も美味しかったけど、さすがに久しぶりに、人間らしい食事がしたい。

 僕はハンバーグとサラダを口に入れた。

 しかし、その瞬間、僕は強烈な吐き気に襲われる。


「おええええええええええええええええええ」


 な、なんだこれ……!?

 ハンバーグの中に針でも入っているのか……!?

 サラダも、砂がまじっているとしか思えないような味だ。

 お、美味しくない……。

 めちゃくちゃまずい。

 なんというか、そもそも食べ物の味じゃない。

 粘土や紙を食べているような気分だ。

 僕は口にいれたものを急いで吐き出した。

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