第30話 飢餓(中)


 いきなり、沙宵の目の色が変わり、まるで魔物のように牙を剥きだしにする。

 沙宵の口からはダラダラとよだれが落ちる。

 沙宵はすでに意識を失って、暴走状態にあった。

 言い知れぬ飢餓感と破壊衝動が彼を襲う。


 いきなり様子の変わった沙宵に、上尾たちは動揺を隠せない。

 まるで目の前にいるのはさっきダンジョンで襲われてたモンスターと変わらなかった。


「な、なんなんだよいったい……! 霧夜……!? どうしちまったんだ……!?」


『あーあ、上尾たち終わったなwwww』

『ご愁傷様』

『こうなったらもう止められないな……』

『いいぞ霧夜そのままやれ』

『飢餓状態か……もしかしてこれが暴食の副作用ってやつ?』

『霧夜くんお腹すいてんねやな……』


 今の沙宵はまるでモンスターのように目も血走っているし、牙もむき出しにして、爪も野獣のように伸びていた。

 そこに人間の理性は存在せず、言葉は届かない。


「がるるる……! うおおおおおおお!!!!」

「うわ……!? こいつ、どうかしてる……!」


 上尾たちは急な沙宵の暴走に戸惑いながらも、これをチャンスだととらえた。


「おい、来栖、今のうちに逃げるぞ。こいつおかしい」

「ああ……!」


 沙宵が暴走しているうちに、上尾たちは逃げようとする。

 だが、そううまくはいかない。

 我を失い、半分獣と化した沙宵の目には、上尾も来栖も、かつての同級生としてではなく、ただの肉の塊として見えていた。

 今の飢餓状態の沙宵にとっては、目に映る肉塊すべてが獲物なのだ。

 そこに理性は存在せず、ただの空腹感だけが支配する。

 沙宵は上尾と来栖に襲い掛かった。


「がるるる!!!!」

「うわあああ……!?」


 沙宵は来栖の肩に牙をたてると、そのまま一思いに喰いちぎった。


 ――ガブリ。


「ぎやあああああああああ!!!! こいつ俺を噛みやがった!!!! どうかしてる……!!!!」


 そしてそのまま、沙宵は来栖の上着に爪をたてると、服を引き裂いた。

 そのまま胸板の筋肉を引き裂いて、肉をむき出しにする。

 そしてそこにかぶりつく。


「ぎやああああああああ!!!! いてええええええええ!!!!」


 沙宵は夢中で目の前の新鮮な肉にかぶりついた。

 

「もうやめてくれええええ俺たちが悪かった! 許してくれえええええ!」


 来栖は痛みに耐えながら泣き叫び、許しを請う。

 しかし、その言葉は沙宵の耳には届かない。


「ガルルルルル!!!!」


 沙宵は来栖の腕にかぶりつき、丸のみにした。


「ぎええええええああああああ」


 次は足、そして耳、目、鼻、どんどん来栖の肉体を喰らっていく。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 あっという間に、来栖は跡形もなく食い尽くされた。

 ヒュドラをも食ってしまうほどの沙宵だ、人間一人を食うことくらい造作もない。

 来栖が目の前で食われるのを、黙ってみていることしかできなかった上尾。

 上尾は全身を骨折していて自力では動けない。

 そもそも、目の前の惨劇をみた恐怖で、上尾はもはや戦意喪失していた。

 腰も抜けているし、上尾は指先ひとつ動かすことすらできずにいた。

 上尾は恐怖に飲まれ、その場で涙を流し傍観することしかできなかった。


「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!」

「ガルルルルル……」


 来栖を捕食し終え、沙宵はついに上尾にターゲットを向ける。

 沙宵の腹はまだまだ満たされていなかった。

 沙宵は上尾の腕に噛みついた。


「ガブ!」

「ぎやああああああああ!!!! やめてくれ! 俺を食わないでくれええええ! 助けてええええええええ!!!!」





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