第24話 ダンジョン刑(上)


 ダンジョン刑に処されることになった上尾、来栖、双葉の三人は、さっそくダンジョンへと移送された。

 彼らが移送されたのは、現在霧夜沙宵が潜っているのと同じダンジョンである。

 ダンジョン名は【黄昏ダンジョン】

 東国には様々なダンジョンがあるが、彼らには霧夜沙宵と同じ目に合わせろとの世論が強かったのだ。

 

 ダンジョンへは、一流の探索者たちが同行する。

 犯罪者が逃げないようにするためと、安全に深層部まで犯罪者を送り届けるためだ。

 上尾たちは鎖で繋がれたまま、車から降りるように指示される。


「おい、とっとと歩け」

「くそ……なんで俺たちがこんな目に……」


 そしてダンジョンの中へと入っていく。

 ダンジョンの転移トラップの前までやってきた。

 霧夜沙宵が踏んだのと同じトラップだ。


「さあ、さっさとこの転移陣を踏め」

「っく……」

「おい、背中を押そうか?」

「っち……わかったよ……」


 上尾たちはしぶしぶ、執行官の言葉に従って、転移陣に足を踏み入れた。

 その瞬間、彼らはダンジョンの奥底へと飛ばされる。

 これこそが、現代における最高級の刑罰であるダンジョン刑である。


 上尾たちは、万が一にもダンジョンから脱出できないように、特殊な鎖で繋がれている。

 鎖につながれている間、上尾たちには魔力やスキルを使うことはできない。

 なので、霧夜沙宵のような奇跡は起こらないのだ。

 

 ダンジョンに置き去りにされた上尾たちの様子は、ダンジョンカメラで世界中に配信されている。

 そして世界中からの叱責のコメントも、ちゃんと上尾たちに音声で届けられる機能もついている。

 世界中から見世物にされることで、犯罪者が屈辱を感じて後悔するように、というシステムなのだ。


 上尾たちは、ダンジョン深層5611階に飛ばされてしまった。

 食料もなく、脱出する手段もなく、戦う手段もない。

 あとは餓死するか、モンスターに襲われて死ぬのを待つのみである。


「くそ……これからどうすればいいんだよ……俺がなにしたっていうんだよ!」


 上尾たちはすることもなく、その場に座り込んでしまった。

 来栖と双葉はすでにあきらめたのか、気力なくうなだれるだけである。

 しかし上尾はまだ反省の色も見せず、吠えている。

 そんな様子を見て、コメント欄が荒れる。


『おいこいつ全然反省してないな』

『さっさと死ねよ』

『はやくモンスターに食われろ』

『二度と帰ってくるなよ』

『お前は霧夜に同じことしたんだぞ?わかってんのか?』


 ダンジョンカメラから、コメントが機械音声でながれる。

 世界中の視聴者が、上尾の様子を配信で見ていて、その反省のなさにいらついていた。

 全視聴者が、はやく上尾たちがモンスターに食われてしまえと、いまかいまかとその瞬間を待っていた。

 

 ダンジョン刑は、ダンジョンに犯罪者を置き去りにして、それを配信し、みんなでいたぶるという刑罰だ。

 これはさすがにやりすぎだという世論もあったが、今回の件に関してはみんな上尾をバッシングする意見ばかりだった。

 

 ダンジョンで犯罪者がモンスターに食われるという、ショッキングながらも一種のカタルシスをもたらす映像は、多くの視聴者にとって興味深かった。

 あらゆる配信の中でも、ダンジョン刑の配信はかなり需要が高く、再生数もかなり稼げる。

 配信でのビジネスがさかんなこの時代において、ダンジョン刑を配信することはかなりの稼ぎにもなるのだ。


 ダンジョン刑で稼いだお金は、すべて国の予算になる。

 国としてはダンジョン刑というのは、大きな財源にもなるし、国民たちのガス抜きにもなるので、願ったり叶ったりだった。

 多くのストレスを抱えている現代人にとってダンジョン刑はストレスのはけ口でもあり、一種のエンターテインメントと化している。


 政治家たちからすれば、自分たちへのヘイトを背けるためにも利用できた。

 政治家の汚職や不手際が報道されると、それから目線をそらさせるかのように、ダンジョン刑が執行されるのだ。

 それほどダンジョン刑は世間から大きな注目を受けるし、人々のストレスを一手に引き受けていた。

 昔でいう処刑と同じだ。

 処刑は人類にとって最もおもしろい娯楽なのだ。


 コメントで上尾たちに罵詈雑言が浴びせられる。

 みな、一方的に殴れるサンドバッグができたと喜んで鬼になる。


『お前らはとっとと死ね!』

『社会のゴミが!』

『死刑! 死刑!』

『教育教育教育教育死刑死刑死刑教育教育教育教育』

『家族で見てます!』

『これで少しは霧夜の気持ちがわかったか?』

『さっさと俺たちに死ぬところ見せろや!』

『すぐには死ぬなよ? できるだけ苦しんで死ね!』

『モンスターに腸引き裂かれてくれ』

『お前らは霧夜に同じことしたんだぞ?』

『反省しろ後悔しろ謝れ懺悔しろ』


 次々と機械音声で読み上げられる罵詈雑言、叱責の言葉の数々に、上尾たちはどんどんストレスを募らせていく。

 上尾はとうとう頭にきて、叫んだ。


「うるせえええええ!!!! お前ら何様のつもりだよ! 俺がなにしようがお前らに関係ねえだろ! お前らなんかどうせこたつでのんきに配信みてるだけのゴミだろうが! 人の死ぬとこ見て喜んで最低なやつだな! なにが楽しいんだよこんなの! 人の不幸しか楽しみのない底辺どもが! 俺はお前らとは違う! 俺は人の上に立つ人間なんだよ! 俺の親は偉いんだ! くそ、みんなして俺から人生奪いやがってよおおおお!」


 上尾の発狂は、まさに火に油を注ぐだけだった。

 そういった反応は、むしろ視聴者たちを喜ばすだけだ。

 

『きいてるきいてるwwww』

『はい言い訳乙~』

『どの口がいってんねんwww』

『人生奪われてんのは沙宵くんのほうなんだよなぁ……』

『破滅して、どうぞ』

『お前が死んでも誰も悲しまないぞ』

『お前のこと、誰が好きなん?』

『お前がどれだけ叫んでももうそこからは逃げられないぞwwwwざまぁwwww』

『あとは死ぬだけだね!』

『最低なのはお前なんだよなぁ……』

『ブーメラン刺さってますよ』

『霧夜をはめたお前のほうが最低だぞ』

『猫殺そうとするようなやつ人間じゃねえよ』

『黙って死ね』

『上尾の母ちゃん自殺したってよw草』


 コメント欄のほうも、むしろわざと上尾を煽るようなことを言う。

 上尾はコメントを見て、さらにヒートアップする。


「てめぇ! 適当なこと言ってんじゃねえぞ! 母ちゃん関係ないだろうが!!!!」


 そのときだった。

 

「おい、上尾……やめろ!」


 来栖が上尾の口をふさぐ。

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