第21話 ダンジョン裁判


 ここあずま国の法律では、犯罪者はまず留置所に拘留され、そのあと裁判によって裁かれることになっている。

 上尾、来栖、双葉の三人は、首都京東きょうとう都にある留置所に拘留されていた。

 三人は同じ牢屋に入れられている。

 牢屋はさびれていて、汚れていて、臭いし、汚い。

 最低限のトイレと仕切り、それから硬いベッドが用意されていた。


「くっそ……なんで俺がこんなクソみたいなことろに拘束されなきゃいけねんだよ! マジで……!」


 上尾が悪態をつく。


「俺たち……このあとどうなっちゃうのかなぁ……。まさか、死刑なんてことにはならないよな、さすがに……」


 来栖が心配そうに尋ねる。


「ふん、知るかよ。けど、さすがに死刑はないだろ。俺たちはそこまで酷いことしちゃいない」

「だよな……悪いのは全部霧夜なんだ」

「それに、うちの親は金持ちだからな。今も警察や裁判所に掛け合ってくれているはずだ。弁護士も優秀なやつをつけてくれると思う。減刑されるといいんだがな」

「俺、絶対刑務所なんか嫌だよ……」

「そんなの、俺もだ」


 二人は文句を言いながらも、まだ元気そうだ。

 しかし双葉は、気力も体力も限界にきていた。

 目は腫れているし、気分は最悪、話に加わる気にもなれない。

 双葉はすみっこのほうで体育座りをしながらうなだれている。

 鬱っぽい気分が双葉を支配している。


「はぁ……のんきなものね。私なんか、もう今すぐにでも死にたいくらいよ。ハメ撮りは流出するし、SNSには誹謗中傷が止まらないし、実家も特定されてるしで……ほんと、最悪。死にたい」


 それから数時間後、ようやく三人の裁判の準備が整った。

 三人は留置所から裁判所へと移送される。

 


「これより、霧夜沙宵遭難事件についての裁判を行う……!」


 裁判官がたからかに宣言する。

 裁判のようすは、全世界に中継されていた。

 この時代の東国では、裁判が中継されるのはごく当たり前のことだった。

 ダンジョンが世界に現れて、ダンジョン配信が一般的となり、ダンジョン法案なども整備された。

 

 それと同時に、配信の需要が高まり、配信やネットワーク関連の技術がめざましい進歩を遂げた。

 今ではありとあらゆるコンテンツが配信されている。

 それに伴って、裁判も配信されるようになるのは自然な流れだった。

 今では、ダンジョン法関連の裁判は、「ダンジョン裁判」と呼ばれて、一種のエンターテインメントと化していた。


 そして、ダンジョン法とともに整備された法律、「特別配信員裁判制度」というものがある。

 これはどういうものかというと、ようは、配信を見ている視聴者も裁判に参加できるという制度だ。

 この時代においては、罪人の罪状は、最終的には国民投票で決まる。

 裁判の内容を見ていた視聴者たちに、その権限がゆだねられるのだ。


「えー、君たちが霧夜沙宵くんをいたずら目的で、ダンジョンで遭難させたことは事実かね?」


 裁判長が尋ねる。

 上尾はふてくされて応えた。


「ああ、事実だよ。だけど、あいつが悪いんだ。あいつが目障りだから……」

「ふむ……では、殺意があったかどうか、それはどうかね?」

「まあ、死ねばいいとは思ってたよ」

「なるほど……これは極めて悪質だ。反省の色も見えない。だが、その正直さには感謝しよう」


 裁判は順調に執り行われた。

 そしていよいよ、判決を決めるとき。


「では、彼らの処分を決めたいと思う。配信裁判員たちは、彼らにふさわしいと思う刑罰を、コメントで書いてくれ」


 裁判長がそう言った途端、コメント欄が一気に盛り上がる。


『ダンジョン刑』

『ダンジョン刑』

『死刑』

『ダンジョン刑』

『ダンジョン刑だろJK』

『ダンジョン刑しかありえない』

『ダンジョン刑』

『霧夜と同じ目に合わせろ』

『ダンジョン刑』


 この時代において、ダンジョン刑とは死刑と同じか、それよりも重い刑罰だった。

 ダンジョン刑というのは、ようはダンジョンに置き去りにするというもの。

 しかも、食べ物や飲み物は持たされず、装備もなく、着の身着のままだ。

 もちろん置き去りにするのは深層の一番危険な地帯。

 さらに、その様子は全世界に配信されて、みんなの見世物となる。

 ダンジョン刑に処された人間は、疲弊して、やがてモンスターたちに悲惨な目にあわされる。

 つまりは、実質的な死刑だった。

 

「では……判決を下す。三人は、ダンジョン刑に処す!」


 裁判長は冷たく言い放った。


「そんな……! なんで俺たちが……!」

「当たり前だろう。君たちの行ったことを考えれば」

「くそ……どうなってんだ。親父はなにをしてるんだ……!」


 上尾の父は何度も警察に掛け合ったし、弁護士もとびきり優秀な人物をつけた。

 だが、それをもってしても、彼らのしたことはあまりにも大きすぎる。

 彼らがダンジョン刑に処されることに、異論をとなえるものはもはやいなかった。

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