第17話 報い(上)

【サイド:上尾】


 

 俺の名は上尾秋介。

 親が市議会議員で、家は金持ち。

 俺の人生は順風満帆だった。

 可愛い彼女と、気のいい友達に囲まれて、リア充人生まっしぐら。

 だけど、俺の生活で、ゆるせないやつがいる。


 霧夜沙宵――俺のクラスにいるクソ陰キャ野郎だ。

 俺はこいつの辛気臭い顔を見るのが大嫌いだ。

 マジでいっつもうじうじ不幸そうな顔しやがってよ。

 すべてを悟ったような顔で、人生に絶望していやがる。


 俺も中学のころ、いじめられていたという過去がある……。

 これは、内緒の話で、誰にも言っていない話だ。

 中学のころは家の近所にある公立の学校に通っていたせいで、底辺のゴミどもにひどい目にあわされた。

 最初のうちは、俺はずっと耐えていた。

 親が市議会議員になりたがっていたし、俺が親に迷惑をかけるわけにはいかないと思っていたのだ。


 だけど、俺は我慢の限界になって、ぶちぎれた。

 俺はカッターナイフを持って、いじめっ子数人を斬りつけてやった。

 すると、俺がキレて暴れたその日から、みんな俺に一目置くようになったのだ。

 この世界は、行動で変えられる。

 俺はそのことを知った。


 もちろん俺は学校から怒られて、大問題になりかけた。

 だけど、相手もいじめが大事になるのが怖くて、相手の親もそこまではいってこなかった。

 なので、この話は内々で収束した。

 まあ、親にはかなり怒られたけどな。

 だけどそのあと、親は無事に市議会議員になることができた。

 

 この世界は弱肉強食だ。

 弱いそぶりを見せると、すぐに狩られる。

 だけど、強さを見せれば、狩る側にまわれるのだ。

 だから、高校にあがってからは、俺はいじめる側にまわったのさ。

 強いやつが弱いやつをいじめてなにがわるいんだ。


 霧夜沙宵は、どこからどうみても弱い。すきだらけだ。

 俺がなにをやっても、こいつは抵抗してこない。

 それが俺を余計にいらだたせた。

 なんでこいつは、こんなに弱いのにそれを自分で変えようとしないんだ。

 中学時代の俺と重なって、霧夜沙宵は俺にとっては見たくもないほど嫌いな存在だった。


 ある日、霧夜沙宵がダンチューバーをやっていることを知った。

 だから俺は、いたずらでやつの配信に乗り込んでやった。

 そして、ダンジョンにあるトラップを踏ませるように誘導したのだ。

 やつはまんまと俺の策にひっかかって、ダンジョンの深層へと落ちた。

 これで二度と霧夜沙宵と会わなくて済む。

 まあ別に、ダンジョン配信者一人死んだところで、最近ではめずらしいことじゃない。

 特に調べられもしないだろうし、俺に疑いがかかることもないだろう。


 俺は最高な気分だった。


 だが、それからしばらく経ち――。

  

「は……? おい……なんだよこれ……」


 霧夜沙宵がニュースでながれてきた。

 なんとやつは、深層へ落ちてもなお、生き残っていたのだ。

 しかも、なにやら強力なスキルをゲットしているようだった。

 そしてそれが話題となり霧夜の配信は、世界中でバズっているらしい。

 俺は、はらわたが煮えくり返るような思いだった。


「なんっ……でだよ……! くそ……!」


 なんで死んだはずの霧夜が生きてんだよ!

 しかもなんでバズってんだよ!

 なんであいつが注目されてんだよ。

 あんなやつ、価値のないクソゴミのくせに……!

 しかも、なんであいつが強くなってんだよ!

 くそくそくそ!

 ゆるせねえ!


 そこで俺はある可能性に気づく……。


「あ…………これ、まずくないか……?」


 霧夜が有名になってしまったら、誰か……警察とかが、本格的にこの事件について調べるんじゃないのか……?

 そうすれば、霧夜をはめた犯人が俺だということがバレてしまう。


「はは……まさかな……大丈夫だろ……」


 俺は自分のやったことが世間にバレることに怯えながらも、楽観的に過ごしていた。

 だが――。

 それからしばらくして、

 俺のSNSのDMにメッセージがくる。


【おいwwwお前晒されてるぞwwwwこのスレみろwwww】


「は…………? なんだこれ……?」


 送られてきたURLを開くと、そこはダンジョン配信者スレだった。

 そしてなんと、俺のことが語られている。

 しかも、俺が霧夜をはめたことがバレている。

 さらに、俺に対する誹謗中傷がされている。


「くそ……なんだよこれ……! 許せねえ! 俺のこと好き勝手いいやがって。こいつらもどうせ底辺のゴミのくせによ!」


 俺は怒りにまかせて、勢いのままにそのスレに書き込んだ。


 

 262: 名無しのダンチューバー

 オイこら

 お前ら

 勝手な事いうなや!


 264: 名無しのダンチューバー

 お前ら、全員逮捕するからな

 俺のお父さんは市議会議員なんだぞ!


 268: 名無しのダンチューバー

 お前ら全員殺す……!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る