第7話 悪食(上)

 洞窟の中、僕は一人うなだれる。

 これからどうしようか。

 なすすべもなく、僕はその場に座り込むだけだった。

 でも、いつまでもこうしていても仕方ないな。


「うう……お腹すいた……」


 先ほど得たスキル【空腹】のせいだろうか。

 さっきから、お腹がすいてたまらない。

 もう、なんでもいいから口にしたい。


 ダンジョンの中にはろくに食べ物がない。

 このままだと、僕は餓死してしまう。


「なにか食べるものは……」


 食べ物を探しながら、僕は洞窟をさらに奥へと進む。

 すると、岩に苔のようなものがたくさん生えているのを見つけた。


「コケ……これ、もしかしたら食えるかな……」


 僕はちょっと、苔をはがして手に取ってみる。

 すると、コメント欄がすごい勢いで流れ出した。


『おいwwwwww』

『さすがにヤバいwwww』

『待てはやまるな』

『苔食おうとしてて草』

『どんだけ限界なんだよ』

『お腹壊れるぞ』


 コメント欄は僕をとめようとする声でいっぱいだ。

 だけど、僕はもうこれ以上正気でいられない。

 

「ええい、ままよ!」


『いったwwwwwww』

『アホだwwwwww』


 僕は空腹のあまり、苔を思い切って口にした。

 すると――。


「おええええええええええ……まっず…………」


 なんとか少し飲み込んだけど、これは食べられたもんじゃない。

 そもそも食べ物じゃないしね……。

 僕は苔をその場に吐き出した。


『やっぱりなwwwwwwwww』

『そりゃそうだwwww』


 だが、そのときだった。

 またスキルが閃いたときのあの感じ。

 僕の目の前にメッセージと、音声が流れた。


 

《スキル【悪食】を会得》



「え…………またスキル……?」


『おおおおおおおおおお!』

『運がいい』

『スキルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『多分階層がめっちゃ低いから、スキル閃きやすいんだろうな』

『はやく効果みよう』


 コメント欄の言う通りかもしれない。

 なんといったって、ここは前人未踏の深層7429階だ。

 他のどこよりも、スキルが閃きやすい環境に違いない。

 とにかく、僕はまたスキルをゲットしてしまった。


 

 名前:霧夜きりや沙宵さよい

 レベル:1

 HP:15

 MP:3

 攻撃:8

 防御:6

 魔法攻撃:5

 魔法防御:4

 敏捷:6

 運:3

 スキル:【空腹】【悪食】



 さっそくスキルの効果も確認してみようか。


 

 【悪食】:食べ物以外もなんでも食べて消化できるようになる。



「おおおおお……????」


 もしかしてこれって、今遭難している僕にとっては、いいスキルなんじゃないのか?

 食べ物以外も食べれるってことは、苔も食べれる……?

 僕はもう一回、さっきの苔を食べてみることにした。


「えい……!」


『またいったwwww』

『懲りないwwww』

『あほだwwwww』

『苔食い男wwwww』


 しかし、今度はさっきみたいな吐きそうになる感じはない。

 美味しくはないけれど、なんとか苔を食べることに成功する。


「うおおおおおおお……!? 苔食べれた……!」


『マジかwwwwww』

『びっくり人間じゃんwwwww』

『やべええwwwww』


 どうやらこのスキルは結構使えそうだぞ。

 僕はまだまだお腹が減っていたので、今度はその辺にあった石を食べてみることにする。

 なんでも食べれるってことは、きっとこれも食べれるに違いない。


「えい……!」


『おいさすがに石はやばくないか?』

『歯折れるぞ』

『なんでも食おうとするなwwww』


 石にかじりつくと、意外とふつうに嚙み切ることができた。

 【悪食】のスキルは、噛む力も増すようだ。

 僕は堅い石をぼりぼりと貪る。


「うん……これもなかなか、美味しくはないけど、食べれなくはないな」


『マジか……wwwww』

『やべえスキルだな』

『でも、ラッキーだな』

『なんとかなるかも……?』

『頑張れー』


 食料を手に入れた?ことで、コメント欄も少し明るくなってきた。

 最初はみんな、僕が死ぬと思っていただろうけど、今では少し希望が出てきた。

 これなら、なんとか空腹はしのげる。

 

 この洞窟の中も、今のところは安全そうだし。

 モンスターにさえ襲われなければ、案外ここで生き延びることもできるかもしれない。

 僕は決して希望は捨てない。

 

 だって、僕が死んだらちょむちゃんは一人になってしまうから。

 僕はなんとしても無事に家に帰って、ちょむちゃんにエサをあげないと。


「だめだ。まだまだお腹空いてる……」


 【空腹】スキルのデバフは、思ったよりも厄介だ。

 洞窟をさらに進むと、今度はキノコが生えているのを見つけた。

 これも、食べれるよな……?


「キノコって、普通に食べれるよな。それに、【悪食】もあることだし。えい……!」

 

 僕はためらわずに、キノコを口にした。

 すると――。


「ぐげえええ……!? おえ……!? なんだこれ……!?」


 味は問題なかったのだが、喉がしびれるように痛い。

 それから、お腹にもずきずきした痛みがやってくる。

 どういうことだ……!?


『おいそれ毒キノコだぞ……』

『あーあ……』

『やっちゃったなwwww』

『もしかして毒キノコは【悪食】でも無理なのか』


 コメント欄を見て、そういうことかと気づく。

 どうやら、毒キノコの毒は【悪食】があっても消化できないようだ。

 つまり、僕は毒におかされた。


「うおおおおえええええ……ぐあああああああ……!!!!」


 身体全身がしびれてきた。

 死ぬほど痛い。


「くそおおお……!!!!」


 僕はここで死ぬのか……?

 そう思ったそのときだった。

 急に、全身のしびれがすうっとひいていった。

 そして、目の前に文字が表示される。



《スキル【毒耐性】を会得》

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