第6話 遭難(下)

「ふぅ……少し休憩だ……」


 僕は洞窟の中の小さな岩に腰かける。

 リザードマンに追い掛け回されて、少し疲れた。

 まったく、いきた心地がしない。

 落ち着いて座ってみると、スマホが震えていることに気がついた。


「え……? なんだ……?」


 すると、そこには僕の配信画面が映っていた。

 そういえば、配信はそのままだったな。


「な、なんだこれえええええ……!?!?!?」


 なんと、視聴者数がとんでもないことになっていた。

 10万人を超えている。

 しかも、コメントがものすごい勢いで流れている。


『お、ようやく気付いたwww』

『バズおめでとうwww』

『死ぬなよー』

『おはよう』


 ど、どういうことなんだ……コレ……。

 なんで僕の配信に、こんなに人が……?


「ど、どういうこと……!?」


 普段僕の配信なんて、10人以上きたことがないのに。

 すると、コメントで返事がかえってきた。


『ニュースでやってた』


「そういうことか……」


 そりゃあ、まあそうなるか……。

 高校生が遭難して深層に取り残されて、しかも配信中ってなったら、ニュースにもなるよな……。

 それにしても、これはすごい数の人だ……。

 なんか見られていると思うと、変な気分だ。


「あの……僕これからどうすればいいんでしょうか……。救助とかってしてもらえるんですかね?」


 とりあえず、ダンカメに向かってそうきいてみる。


『救助はないぞ』

『そこ深層7429階だぞ』

『無理無理』

『誰がそこまでいけんねんw』


「そんな……深層7429階って……そんなデタラメな……」


 嘘だろ……。

 いくら深層でも、深層7429階って、冗談にもほどがある。

 現在のSランク探索者の最高到達点で、深層2175階だ。

 それを考えたら、こんなの……。


「どうすればいいんだああああああああああああ!!!!」


 僕はもう、頭がおかしくなりそうだった。

 こんな状況、絶望的すぎる。

 考えてもしかたがない。

 僕は考えを放棄した。


「くそ……くそ……くそ……」


 僕はそのまま、その場所で座ったまま、腕をかきむしりはじめた。

 ストレスでどうにかなりそうだった。

 もうなにも考えたくない。


『あーあ、壊れた……』

『かわいそう……』

『さすがにかわいそうだな』

『えぇ……』


 しばらくそうやって座っているが、なにも解決しないことに気づく。

 だけど、他になにかできることって、あるか……?


「とりあえず、お腹すいた……」


 なにか食べ物でもあればいいんだけど……。

 こんなダンジョンの中だ、なにもないだろう。

 そのときだった。

 

 急に、僕のおなかがぐぅと鳴る。

 それと同時に、僕の目の前に、文字列が浮かび上がり、音声が流れた。


 

《スキル【空腹】を会得》


 

「は…………?」


 僕はあわてて、ステータスを確認する。

 この世界にダンジョンが現れてから、僕たち人類にはステータスが確認できるようになった。

 ダンジョンの中で、ステータスオープンと叫ぶと、目の前にステータスが表示されるのだ。

 どういった仕組かはわかっていないが、魔石や魔力がどうにか関係しているときいたことがある。


「ステータスオープン……!」

 


 名前:霧夜きりや沙宵さよい

 レベル:1

 HP:15

 MP:3

 攻撃:8

 防御:6

 魔法攻撃:5

 魔法防御:4

 敏捷:6

 運:3

 スキル:【空腹】


 

「スキルに【空腹】が追加されている……」


 まさかのタイミングで、まさかのスキルを会得してしまった。

 スキルというのは、先天的に得られるものが多い。

 だけど、僕の場合は才能がないから、もともとはスキルを持っていなかった。


 先天的に得られる場合以外にも、スキルは後天的に得る場合がある。

 後天的にスキルを得る現象のことは、《閃き》と呼ばれていた。

 《閃き》は、いつ誰にどういう条件で起きるかわからない。


 主に戦闘をこなしたあとや、戦闘中に起こりやすいと言われてはいる。

 だけど、いつ誰にどんなスキルが発現するかは、完全にランダムと言われていた。

 そこで、今回僕についたスキルがこの【空腹】というわけだ。


「僕に……初めてのスキル……」


 これはもしかしたら、いいんじゃないか?

 今まではスキルもなにもなかった。

 だけど、スキルを得たことで、なんとか道が開けたりはしないだろうか。


 それにしても、今まで僕にスキルが閃いたことなんてなかったのに。

 ここにきて、どうしてなんだろうか。

 おそらくはリザードマンと戦ったことが要因のひとつではあるだろうけど……。


『スキルは階層が下にいくほど閃きやすくなるぞ』


 なるほど、そういうことか。

 ここはまだ前人未踏の深層。

 だから、他のどこよりもスキルを得やすい環境だってことだ。


 あれ、もしかしたら、これ意外となんとかなるんじゃないか?

 このまま生き延びれば、なんとかスキルを獲得していけるかもしれない。

 もしかしたら、僕は生き残れるかも……?


 よし。

 僕はさっそく、そのスキルの説明を見てみることにする。


「えい……!」


 

 【空腹】:食べてもお腹が満腹にならない。なにもしないとお腹が減り続ける。



「なんだこのスキル……!? ぜんぜん使えないじゃないか……!?」


 これじゃスキルというより、ただのデバフだ。

 僕はここにきて、なんて運が悪いんだ……。

 さらに状況が悪化しただけじゃないか……。


『もうめちゃくちゃで草』

『詰んだな』

『なんでwwwww』

『こいつ運悪すぎだろ』

『もう死ぬしかないな』


 同時接続者数は、20万を超えていた。

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