第4話 罠(下)

「ど、どういうことなんですか……!?」


 すると――。

 そこには、こんなコメントが書かれていた。


『ぎゃははははははは! マジで魔法陣に乗りやがったwwwwww』


「え…………?」


『馬鹿だw馬鹿だw』


 ますますわけがわからない。

 さっきまであれだけフレンドリーだったコメント欄の、龍宴りゅうえんさんが、そんなふうに笑っている。

 どういうことなんだ……!?


「ちょ、ちょっと……! 龍宴さん、どういうことなんですか……!?」


『おいこいつ、まだわかってないのか? どんだけ馬鹿なんだよwwwwww』


 すると、他の人も、コメントをし始めた。


『そこ、深層だよwwwwww』


「え………………?」


 まだ、言われている意味がわからない。

 深層……?

 深層っていえば、Aランク冒険者でさえ逃げ出すような、まさに地獄のような場所だ。


 Sランクの攻略組と呼ばれる、一部の探索者でしか、到達しえない領域。

 ここが、その深層だっていうのか……?

 じゃあ、僕死ぬじゃん……。


『まだわかんねえのかよ! 霧夜。お前は俺たちに騙されたのwwwwww』

『そういうことだwwwwwおつかれwwwww』

『レベルアップ魔法陣が上層にあるわけねえだろwwwwwばーかwwwwwあれは転移魔法陣だっつーのwwwwwww』

『これでもう学校で会わずに済むなwwwww』

 

 一斉に、コメント欄にそんなふうに煽られる。


「え…………? 学校…………?」


 学校、それからこの口調。

 ま、まさか……。


「このコメント……上尾たちか……!?」


『今更気づいたかwwwwwwwwwww』

『アホwwwwwwww』

『俺たち以外に誰がお前の配信なんか見るんだよwwwwwありがたく思えよwwww?』


「は……? え…………?」


 ようやく、僕はすべてを悟った。

 さっきからのこのコメントはすべて、僕をいつも学校でいじめている上尾うえお来栖くるす双葉ふたばのものだったのだ。

 僕は、彼らにまんまと騙された……。


 昨日、学校で僕のチャンネルを知り、それで僕の配信にわざわざやってきたのか……?

 それで、僕を騙して……こんなことを……?

 酷い……ひどすぎる……。


「ど、どうしたらいいんだよ……!? 深層なんて……」


『は……? 俺らが知るかよ』

『お前はそこで死ぬんだよwwwwwww』

『じゃーなwwwww』


 い、意味が分からない……。

 なんでこいつらは、僕が死ぬかもしれないのに笑ってられるんだ……?

 本当に、僕が死んでもいいと思ってるのか……?


 これは、もはやいじめを超えている。

 どうかしている……。

 市議会議員の親がいるから、こんなことしても大丈夫だとでも思っているのか……?

 いかれている……。

 なんでこんなことが平気でできるんだ……っ……!


「くっそおおおおおおおおおおお……!!!!」


 どうやら僕は、上尾が軽い気持ちでやったいたずらによって、ここで命を落とすらしい。

 深層から生きて帰るなんて……無理だ。

 悔しい……悔しい……!


「でも、僕が死んだらちょむちゃんは……?」


 そうだ、僕は死ぬわけにはいかない。

 ……でも、どうしようもない……。


「ちょむちゃん……ごめんね……」


 僕はどうしようもなくて、その場に座り込んでしまうのだった。

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