レイクシアのダンジョン1
翌日、早めの朝食を取ると朝早くからダンジョン攻略をすることになった。
目指すはレイクシア湖畔の森の中にあるダンジョンだわ。
ダンジョン自体は小さいと聞いてたけど、メンバーはわたしとアイ、ウィリアム王子、チャールズ王子、フランシスカ、そして騎士さん10人の大部隊だった。
騎士さんは万一の時の連絡役2名を入り口に残し、残り8名は荷物持ち兼護衛として一緒にダンジョンに潜る。
騎士さんてエベレスト登山の時に荷物を運ぶ名も無きポーターさんみたいなものね。
やってることはメインのメンバーと大して変わらないというか、重い荷物を運んでる分メインメンバーよりも過酷なのに登山成功でも名前が残らない名も無き影の立役者。
騎士さんたちには感謝しか無いわ。
わたしは眠い目を擦りながら歩く。
「ウィリアム、随分と早い時間からダンジョン攻略をするのね」
「昨日話した通り、なにが起こるかわからないからな」
「ダンジョンの規模の話だっけ? ダンジョンが成長してたら大変だわね。日帰りじゃ帰れないのかな?」
「そんなことは無いさ。予想通りダンジョンの成長が止まっていて規模が小さければサクッと攻略すれば問題無いし、一層の規模が想定以上に大きければ報告書を仕上げて後は騎士団経由で冒険者ギルドに丸投げすればそこで終わりさ」
「騎士団に丸投げだと、わたしたちの功績にならないんじゃない?」
「そんなことないさ」
ダンジョンを攻略してわたしたちの功績にならないと、わたしが学園で一目置かれる存在になる計画は破綻する。
なんの成果も無く無駄に夏休みを過ごして断罪イベントへ着実に一歩近づくのだけは遠慮したい。
わたしがそんな心配をしているとウィリアム王子は笑い飛ばす。
「俺たちの手に負えないような大規模なダンジョンを見つけたならば、それはそれで功績になる」
「夏休みの自由研究として及第点を取れるかしら?」
「及第点どころか満点さ! 冒険者だったら初心者のFランクだったとしても、いきなりCランク位になれるぐらいの功績さ」
ウィリアム王子は得意気に続ける。
「ダンジョンは第一発見者の名前を付けることが習わしになってるんだけど、名前を付けるなら『アイビスダンジョン』でいいか?」
「兄貴、いいね。それ」
チャールズ王子もノリノリだ。
「いや、でも次期国王に一番近いウィリアムがメンバーにいるんだから、ウィリアムダンジョンの方がいいんじゃない?」
「こんな小さなダンジョンに俺の名前を付けたくない」
「3層のダンジョンだったら小さいかもしれないけど、それ以上に育ってたら小さくないでしょ……」
「俺の名前を冠するダンジョンなら100層は欲しい」
「ちょっ! デカ過ぎ!」
「さすが兄貴!」
ウィリアムは王子だけあって、冗談もスケールが半端ない。
アイはその冗談にのらず別のことを考えていた。
「アイは『アイビス様とアイの愛の迷宮』に一票」
アイはダンジョンにとんでもない名前を付けようとしているが、絶対に却下だ。
「でも、あのダンジョンはフランシスカが見つけたんじゃないの?」
チャールズ王子は首を横に振る。
「発見時に報告しなかったから、フランシスカの命名権は既に時効だ」
「そういうことなのよ。命名権はアイビスに譲るわ」
それを聞いてアイがノリノリだ。
「ではアイビス様、『アイビス様とアイの愛の巣』に決まりですね」
「そんな恥ずかしい名前を付けたら、二度とレイクシアに来れなくなるじゃない。『アイビスダンジョン』でいいわよ」
「ちぇーっ!」
一人不満なアイを残して、ダンジョンの名前は『アイビスダンジョン』に決まりそうだわ。
*
レイクシア湖からそれほど離れていない森にダンジョンはあった。
ちょっとした大岩にしか見えない小規模なダンジョン。
フランシスカが封印を解くと入り口が現れた。
入り口の封印を解く前は、ぱっと見にはただの大岩にしか見えなかったという話もわかるわね。
潜る前に騎士さんも交えて簡単な
ウィリアム王子が昨日の夜の打ち合わせで決まった内容を繰り返す。
「階層は1層ごとに調査を行う。騎士は4人と4人に分かれ、実際に戦闘を行う王子グループと、記録を行うアイビスグループに分かれて護衛をしてくれ。護衛の内容は俺たちが戦闘している間に絡んで来るモンスターの処理だ」
戦闘が長引くと他のモンスターが絡んで来ることがあってそれが事故の原因になるので、絡んできたモンスターの処理を騎士さんに任せるみたい。
「はい!」と小気味いい返事が騎士さんたちから返って来た。
騎士さんに指示を出す時のウィリアム王子は凛々しくてかっこよくて更に惚れてしまいそう。
「特に一層目の調査は念入りに行い、規模が想定よりも大きかった場合はそこで調査は終了。一時間で調査が済んだ場合は次の階層に進む。その場合は次の階層のベースキャンプへの荷物の運搬も頼む」
「わかりました!」
「あと王子グループの護衛で疲れた場合は、アイビスグループの護衛と変って休憩を取る様に。無理だけはするな、いいな」
「お気遣いありがとうございます」
騎士さんたちに感謝されるウィリアム王子。
ウィリアム王子は乙女ゲームのリルティアの中では、単なる俺様キャラですべてに強引で威張り散らしていただけのわがまま放題キャラだったけど、今のウィリアム王子は他人のことにも気を使う紳士で騎士さんにも慕われているわね。
*
連絡役の騎士さん2名と入り口でわかれ、ダンジョン攻略を開始した。
入り口から降りてきた地点をダンジョン攻略の拠点となるベースキャンプにして荷物を積み上げる。
戦闘担当のウィリアム王子とチャールズ王子と回復役のフランシスカと戦闘中に絡んで来る敵の処理をする騎士さん4人が戦闘班で、わたしとアイと護衛の騎士さん4人が後方班。
後方班は戦った敵の種類の記録とマップ作製をするだけなのでぶっちゃけ楽な仕事だわ。
騎士さんも後方班の護衛という名目になってるけど戦闘班がモンスターを狩り漏らすことも無いので、実際は休憩をするのが役割で体力が回復すると頻繁に戦闘班の騎士さんと入れ替わってる。
ダンジョンの敵はウィリアム王子たちにとったら雑魚以外のなにものでもなかったみたいで歯ごたえが無いみたい。
「ダークウルフ2匹」
「ケーブバット5匹」
敵と接触するたびにウィリアム王子が敵を教えてくれるので、わたしはダンジョンのマップを作りながら、マップににモンスターの情報を書き込む。
さっきマップ作りは楽な仕事と言ったけど、楽だったのは狩りがのんびりとしていた最初の数戦だけで、王子たちの調子が出始めるととんでもないペースで狩り始めたので、結構忙しい。
アイは魔道具を使っての罠の確認をする係だけど、このダンジョンには罠が全く仕掛けられていないから暇みたいで、わたしの背中に抱きついてくるのが仕事になってる。
「アイも暇なら敵の情報を書き込むのを手伝ってよ。ウィリアムの報告が早くてマップを書きながらだと忙しいわ」
「アイはアイビス様とイチャイチャするので忙しい」
アイはわたしの肩に顔を乗せながらトロンとした目をして、手伝う気は全く無いっぽい。
およそ30分で1層目の調査は終った。
「想定より早めの時間で調査が終わったので次の層に進もうと思うんだけどいいか?」
「異議なし!」
みんなの意見は一致した。
ただ一名、わたしのうなじの匂いをクンカクンカ嗅いでるのに忙しいアイを除いて……。
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