魔道具の指輪
わたしは回復したマリエルにここ数日に起こったことを聞いてみた。
「ここ数日のことですか?」
「どんな細かい事でもいいので思い出してちょうだい」
マリエルは必死に思い出すが、特になにもなかったという。
「いつも通り学園に通って、放課後から寝るまで授業を思い出しながら剣の鍛錬をしていただけですね」
「でも、今日の予選リーグのことは覚えてないのよね?」
「そうですね。昨日寝て気が付いたらこの保健室で目が覚めました」
わたしはマリエルが嘘を言っているようには見えなかったけど、ウィリアム王子は疑っているようだった。
「その説明だとこの指輪をいつ手に入れたのかの説明になってないな」
「その指輪ですか? それは昨日の晩に武闘会の運営の人が持って来た支給品です」
「支給品だと?」
チャールズ王子は支給品というワードに引っかかったようだ。
わたしも支給品が配られたなんて話は聞いていない。
実際、大会運営から生徒へと装備が支給されていたなら、下級貴族クラスの生徒たちはみな体操着を着て大会に参加せずにちゃんとした装備を付けていたはずだ。
「ええ。この指輪は運営の方が、今着ている軽鎧と一緒に持って来た魔道具で、ケガを防ぐ効果のある指輪だから必ず装備して試合に出るように言われたんです。あ、それで寝る前にサイズがあってるか軽鎧の試着して……、あれ? そこからの記憶がないですね」
クリスくんが至った考察を披露する。
「鎧の試着した時に指輪も装備し、それから記憶が飛んだんですね」
マリエルは素直に自分の記憶を訂正して頷いた。
「そうだと思います」
「きっとその時に何者かの操り人形にされたんだろうな」
今度はウィリアム王子が考察を披露する。
「この指輪は装着者の自我を消し、思いどうりに操る『
その考察にわたしは少し引っかかった。
「単純な傀儡の魔道具とは少し違うかもしれません」
「どういうことだ?」
「一つ目はあの指輪を付けたことでマリエルはわたしと互角、いやそれを上回る剣の技量を発揮していました」
「そうなのか?」
「はい、少なくともランスロットを上回る剣技を発揮していたのはわたしが保証します。あと、もう一つなのですがマリエルしか知り得ない情報を喋っていました」
「ということは、マリエルが操られていた演技をしていたと言うことなのか?」
「そう言うことではないと思います」
わたしはこの現象を知っていた。
『闇落ち』だ。
『リルティア王国物語』の第6の攻略キャラ、錬金術師の『ギルバート』ルートで陥る現象が闇落ちだった。
「闇落ちです。人間の心の中にある負の意識である憎悪こと『闇』を増幅させて力に代える現象だと思われます」
闇落ちならば武闘会に出場してからのマリエルの荒々しい言動も理由が付くし、ロックバードが狂化したのも説明が出来る。
マリエルの場合、あえて気にしないでいた悪役令嬢一派からの嫌がらせでため込んでいた闇を増幅して仕返しをしたことで理由が付くし、ロックバードは捕獲されたことによる人間への憎悪を発散させたことで説明が付く。
そして増幅した闇はマリエルの場合は剣技へと変わり、ロックバードの闇は狂化することで昇華された。
「わかった。今日はアイビスもマリエルも早退して寮に戻れ。後は俺が話をつけておく」
わたしはウィリアム王子に後片付けを任せて武闘会を早退した。
こうしてわたしの一年目の武闘会は消化不良のまま終わったのだった。
*
寮に帰りシャワーを浴びてベッドでごろごろしていたら、アイが血相を変えて戻って来た。
「アイビスさまー!」
アイは寝ているわたしのベッドに飛び込んで抱きついて来た。
「アイはアイビス様と戦えると楽しみにしていたのになんで棄権しちゃったんですか? アイは寂しくて寂しくてアイビス様を探しまくりました」
「武闘会はどうしたの?」
「アイはアイビス様のいない武闘会なんて興味が有りません」
再戦を楽しみにしていたチャールズ王子を置いて帰って来ちゃったのね。
今頃チャールズ王子は泣いてるわよ。
それだけわたしのことが大事ってことなのね。
アイに好かれて悪い気はしないわ。
「勝手に帰って来て悪かったわね。わたしも色々あったのよ」
「マリエルのことですか?」
「うん」
「叩きのめしてやりました?」
「そうね、勝ったわよ」
アイはベッドに横たわった。
「では、アイビス様がマリエルに勝ったご褒美にアイを好き放題にする権利をさしあげます。さあ、抱きついてキスして来てもいいですよ。むしろその先までしてください」
「しないわよ、そんなこと」
今日のアイは武闘会のせいか少しテンションが高かったけど、こんなアイも嫌いじゃない。
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