マリエルと悪役令嬢
翌朝、アイと共に寮を出ると玄関前でチャールズ王子が愚痴っていた。
「武闘会でアイと再戦するのをめっちゃ楽しみにしていたのに、なんで棄権して帰ったんだよ」
「一身上の都合」
「なんだよ、それ」
「アイはアイビス様から3メートル以上離れたら死ぬ」
「めっちゃ
こらこら、アイの冗談を真に受けるんじゃありません。
アイはいつもの様にわたしの腕に絡みついて来る。
これじゃ、まともに歩けなくて学園に遅刻するわ。
毎朝の恒例行事の漫才をしていると、いつもの様にウィリアム王子が一番最後に現れた。
「おはよう、みんな待たせたな」
ウィリアム王子は学園に通い始めても朝から雑務に追われて忙しそうにいつも最後に寮を出て来た。
ウィリアム王子が寮から出て来たのでわたしたちはいつもの様に学園に向かう。
チャールズ王子の愚痴はまだ続いていた。
「ところで昨日は兄貴もアイもアイビスも途中で居なくなってどうしたんだよ?」
「色々あってな」
ウィリアム王子はチャールズ王子をマリエルの事件に巻き込みたくないのかそっけなく答える。
アイに至っては明らかにチャールズ王子をからかっている。
「みんなでバーベキューしてた」
「まじかよ? なんで俺だけ除け者なんだよ?」
チャールズ王子は本当に悔しそう。
面白いようにアイにからかわれまくるチャールズ王子だった。
チャールズ王子はわたしたちの居なかった決勝リーグの話をする。
決勝リーグは1年生だけではなく、校庭の別会場で予選を行っていた2年生も合流して行われる。
1年生8人、2年生8人が学園の頂点を目指して戦うのだ。
大抵は水晶学園で1年余分に剣の稽古をしていた2年生が圧倒的に有利で優勝するんだけど、今年は事情が違う。
チャールズ王子は学園に入学する前からずっと剣の稽古をしていて、騎士団全員を相手にしても勝てるほどの実力を持っているので圧倒的に有利だ。
むしろ『なんでこんな怪物が水晶学園の武闘会に参加してるんだよ?』と言われてもおかしくない。
「まあ、兄貴もアイもアイビスも居なかったお陰で強敵はほとんど居なくて余裕で優勝できたけどよ、エキシビジョンマッチで騎士団長のガレスにボロ糞にやられたよ。あいつ、前に兄貴にやられたのがよっぽど悔しかったのか、とんでもない新技をだして来やがったぜ」
学園最強レベルのチャールズ王子を倒すとは腐っても騎士団長ってことね。
「騎士団長が後で兄貴に会いたいって言ってたから、後で会いにいってやれよな」
「その件なら昨日済ませておいたから安心してくれ」
たぶん、指輪のことね。
ロックバードから出て来た煤けた指輪の調査報告を受けて、新たにマリエルの指輪の調査依頼を出したって所かしら?
あとで指輪がどうなったのかウィリアム王子に聞いてみるわ。
*
学園の裏庭に差し掛かった辺りで、女の人の悲鳴が聞こえた。
どうやら大勢で一人の女生徒を取り囲んでいるようだ。
好奇心旺盛なチャールズ王子が首を突っ込み始めた。
「なにが起きてるんだ?」
人垣からは聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あんたなんて、この学園から追い出してやるわ!」
その声で見なくとも悪役令嬢のドロシーが昨日の試合でマリエルにいいようにやられたのがよっぽど悔しかったのか、大勢の取り巻きを連れて仕返しをしているのがわかった。
わたしたちが駆け寄るとそこには二年生の男子を引き連れた悪役令嬢一味がマリエルを袋叩きにしていて、マリエルはボロ雑巾の様になって地面に転がっていた。
「なんてことをしているのよ!」
マリエルが虫の息だったので、わたしは大慌てでかけ寄り治癒魔法を使う。
それを見てウィリアム王子がブチ切れた。
「おめーら、なにをやってるんだ!」
怒気のこもった声に蜘蛛の子を散らすように逃げ出す悪役令嬢たち。
だが曲がったことが嫌いなウィリアム王子は許さない。
「チャールズ、アイ、ぶん殴ってでもいいから一人も逃がすな!」
「わかったぜ!」
「了解!」
本気となれば王国騎士が束になっても勝てないチャールズ王子とアイから悪役令嬢たちが逃げられるわけも無く、全員が捕まった。
すぐに教師が呼ばれて連れて来られた。
チャールズ王子は怒りが収まらなく教師に詰め寄る。
「この学園は生徒にどういう教育をしてるんだ? こいつら全員退学にしろ!」
「退学ですと? この中には中級貴族と言えど有力者のご子息もいますし、全員というわけには……」
その言葉にウィリアム王子は本気でブチ切れた。
「王子の俺の言うことを聞けないのか? お前はクビにした上に国家反逆罪で断頭台送りにしてやるぞ!」
すると教師は『ひっ!』と短い悲鳴を上げて、捕えた生徒たちを連れて行った。
わたしは初めて本気で怒るチャールズ王子を見て、心底恐怖を覚えた。
『リルティア王国物語』で断頭台に送られた
そもそも今の事件の悪役令嬢役はウィリアム王子とわたしが友好的な関係になってなければ、ドロシーではなく
マリエルもそうだ。
わたしがウィリアム王子たちにちやほやされながら楽しい学園生活を送っていなければ、マリエルが王子にちやほやされる役をやっていたかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
わたしが断頭台に送られないようにストーリーを改変したせいで、色々な人に悪影響が出てるわね……。
一番の被害者は攻略キャラとの接点を
それならば、わたしがマリエルに償えることは一つだけ。
失われたマリエルの楽しい学園生活を取り戻してあげるのよ。
わたしは治療の終わったマリエルに声を掛けた。
「マリエル、今日からわたしとお友だちになりましょう。ただのお友だちじゃないわ、親友よ!」
「親友? 私とですか?」
「そう、親友よ。嫌とは言わせないんだから!」
そして固く結ばれる握手。
こうしてわたしとマリエルは親友となったであった。
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