ウィリアム王子との試合後
ウィリアム王子は立ち上がると膝に付いた土を払う。
「やはりアイビスに負けてしまったか。ブラッドフォードの予想通りだったな」
「ブラッドフォードからなにを聞いたの?」
「毎日欠かさず訓練をしているってな」
そこに現れたブラッドフォード。
「もう試合が終わっちゃったのか」
「瞬殺だったよ。もちろん俺の負けな」
「だろうな……。アイビスの成長っぷりは半端なくて10年以上修行を続けた剣士レベルの腕だったからな。短期間の剣の修行をしただけとはとても思えなかった」
ウィリアム王子は真顔をしてわたしに向き直る。
「アイビス、聞きたいことがあるんだけどいいか?」
もう、ウィリアム王子はブラッドフォードから、この剣の修行をした目的を聞いているんだし隠し事は出来ないわね。
「もう隠し事はしないわ。なんでも聞いてちょうだい。ただ、一つだけお願いがあるの。わたしの言うことを全て信じてね」
二人は無言で頷いた。
まずはウィリアム王子の質問だ。
「アイビスが戦いたいと言っていた『マリエル』だけど、予選で戦わないとマリエルになにかされるのか?」
「直接的にはノーだけど、間接的にはイエスね」
「どういうことだ?」
ブラッドフォードがクビを傾げるが、ウィリアム王子とアイは静かに聞いてくれている。
わたしは覚悟を決めて全てをさらけだす。
「マリエルが決勝リーグに進出すると、ガレス騎士団長に弟子入りするって話があったわよね?」
「そんな話もあったな」
「そうなのか?」と素っ頓狂な声を上げるブラッドフォード。
ウィリアム王子に静かに聞いているように怒られていた。
さすがに乙女ゲームのことは話せないのでその辺りは占い師からの
「信頼のおける占い師に調べてもらったところ、マリエルはガレス騎士団長との修行で剣の能力を開花させて騎士になるとの預言をもらったの」
「それが何か問題あるのか?」
ブラッドフォードはまた首を傾げるのでわたしはわかりやすいように説明を続ける。
「マリエルが騎士になるのはいいわ。でもマリエルの剣技に惚れ込んだある男が彼氏になるのが問題なのよ」
「剣が上手いだけで惚れ込む男なんているのかよ?」
やたら感心しているブラッドフォードだったけど、わたしの目の前には爆睡中に頭を叩かれただけで女の人に惚れ込んで告白までしちゃうブラッドフォードって男がいるのに、なに感心してるのかな?
「でね、わたしがマリエルに嫌がらせをしたってことであらぬ疑いを掛けられて、その男に切り捨てられちゃうらしいのよ」
正確にはマリエルに嫌がらせをしてブラッドフォードを奪い取ろうとした
プライドをズタズタに切り裂かれた
「決闘なんて止めよう」と説得するマリエルを罠を仕掛けたつり橋に誘い込み亡き者にするつもりが、罠が不発でつり橋のロープが燃え落ちてしまいマリエルはブラッドフォードに助けて貰うものの、
さすがにここまで話すと信じて貰えなさそうだから話さないけどさ。
それを聞いたウィリアム王子は明らかに呆れていた。
「命の危機だって言ってたから、もっと大変な事だと思ったらそんなにくだらない予想なのかよ。おまけに予想のソースが占い師って……そんなことを信じるなんて見損なったぞアイビス」
「でも……」
信じて貰えなくて涙目になっているわたしをウィリアム王子は抱きしめた。
「もしアイビスがそんなことになったら、俺が絶対に助けてやるから信じろ!」
それは力強く、心強い言葉だった。
わたしは運命全てをウィリアム王子に
そう思えるぐらい、ウィリアム王子から安らぎを感じていた。
*
しばらくウィリアム王子と抱き合って甘々な雰囲気を味わっていたんだけど、唐突に咳払いが聞こえた。
「いつまでふたりで抱き合ってるんだよ」
「次にアイビス様と抱き合うのはアイの番」
目の前にウィリアム王子の顔があったので、我に返ったわたしは恥ずかしくなって抱き合うのを止めた。
今度はペットの動物がじゃれついてくるようにアイがわたしに抱きついて来たんだけど……。
「アイビス様はアイのもの。他の誰にも渡さない」
顔をすりすりしてくるのは
「少し無理のある話ではあったけどアイビスが試合で勝ったのは間違いないから、約束通り今から対戦カードに変更を加える様に校長に頼み込んでくる」
そういってウィリアム王子はコロシアムを去っていった。
そして、3日後。
武闘会の日がやって来た。
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