武闘会予選
武闘会が始まった。
予選リーグではウィリアム王子、チャールズ王子、アイ、ブラッドフォード、
予選リーグはコロシアムを縦横三分割しリングを設置、中心を除いた8つのリングで同時に勝ち抜き戦が行われるの。
予選の試合時間は最長2分間で、それまでに決まらなければ審判の判定になるわ。
確実に勝つには判定まで持ち込まないで一気に決めるしかない。
予選リーグのリングが異なるウィリアム王子がしばしの別れの挨拶をしてきた。
「じゃあなアイビス、決勝リーグで待ってるぞ! 今度は転ばすような
「それはどうかな? 足元がガラ空きだったら大勢の観客の前でまた転がすわよ」
わたしが笑うとウィリアム王子はやたら
ちょっとからかい過ぎたかも?ってことで反省。
わたしたちはそれぞれの予選リーグ会場へと別れる。
リングの周りには目立った対戦相手はいない。
あえて言えばマリエルだけかな?
マリエルは同級生らしい、縦ロールな悪役令嬢っぽい女生徒に絡まれていた。
「あんたはこの予選リーグで勝ち抜ければ騎士団長様の指導を受けられるらしいけど、そうはいかないわ。この私に倒される運命なのよ」
悪役令嬢の宣戦布告にキリっとした態度で言い返すマリエル。
「わたしは勝つわ。その為に毎日厳しい訓練をしてきたんだから」
でも悪役令嬢も負けていない。
「授業でこの私に一度も勝てたことが無いのにどの口が言うのよ。大勢の生徒の見ているこのコロシアムで無様に叩きのめされる醜態を晒してやるわ」
あきらかに悪役令嬢の方が口の悪さでは優勢だ。
悪役令嬢が笑うと取り巻きも笑うんだけど、その取り巻きに思いっきり見覚えがあったわ。
『リルティア王国物語』で
上級貴族クラスで見かけないと思ったら下級貴族クラスの生徒だったのね。
悪役令嬢っぽい縦ロールの生徒もよく見れば
*
予選が始まった。
この予選リーグでは決勝進出を狙うガチ勢は僅かしかいなく、殆どは単位取得の為に義務的に参加する賑やかし枠だわ。
辺りを見ると、装備を揃えているガチ勢は
わたしの最初の相手はマリエルに絡んでいた悪役令嬢の取り巻きA。
『リルティア王国物語』の中でも『取り巻きA』としかメッセージに表示されてなかったので名前は知らない。
目の吊り上がったいかにも悪者って感じのモブだ。
先生から名前が呼ばれる。
「星側アイビス、月側アデル、試合準備!」
あの取り巻きは『A』って名前じゃなく、ゲームと違って『アデル』っていうちゃんとした名前があったのね。
さすがに『エー』とか言う名前だったら吹き出しちゃったかもしれない。
『星側』とか『月側』っていってるのは格闘技のリングの『赤コーナー』とか『青コーナー』みたいなもので、どちらの側で準備するかの指定だけでどちらが強いとか格上とかはないのでその点は気にしなくていいわ。
わたしは星の記号のある側の指定線に立つと、向い側に立つアデルがわたしの装備を見て「ガチ勢怖いわ」とか言って怯えている。
ガチ勢と言っても実戦じゃないんだから自前で用意した軽鎧を着てるだけなのでそんなに怯えられると困るな。
「はじめ!」
わたしが構えから踏み込んで一気に勝負を決めようとしたら、アデルがハンカチを投げて大慌てでリングの外へ逃げて行った。
「勝者、アイビス!」
戦意喪失による敵前逃亡でわたしが勝ったんだけど、初試合が棄権勝ちだとなんかモヤっとするわね。
アイを見るとわたしの試合を見ていてくれたのかガッツポーズで目をうるうるさせて祝ってくれた。
気を取り直してあと4試合頑張るわ。
*
しばらくするとマリエルの試合になったわ。
マリエルの対戦相手は『取り巻きC』。
ちなみに名前は『シンディー』。
マリエルはシンディーと数撃打ち合った後、隙を突いて模擬刀で胴を攻撃した。
思いっきり胴にめり込む模擬刀。
シンディーは地面にうずくまり勝負は決まった。
倒されたシンディーはお腹を押さえて恨み言を叫んでいたけどマリエルは相手にしないでリングを立ち去って行った。
救護班の治癒魔法でシンディのケガはすぐに治ったけど、試合で受けた痛みと恐怖は心から消えないわね。
*
しばらくすると私の番がまたやって来た。
2試合目の相手は『取り巻きB』
「星側アイビス、月側 バービー、試合準備!」
今度の相手は怯えてはいない。
むしろさっき逃げたアデルの
ずいぶんとやる気ね。
正面から打ち合ってみてあげたかったけど、今のわたしには時間がない。
試合開始と同時にバービーの懐に飛び込み模擬刀を喉元に突き付けた。
「参りました」
「勝者、アイビス!」
試合時間3秒。
バービーはすぐに負けを認めてくれたのですぐに試合が終った。
残り3試合、頑張るわ。
*
しばらくするとマリエルの順番がまた回って来た。
対戦相手は悪役令嬢!
マリエルは……?
笑っている?
マリエルの口の端が僅かに上がって歓喜が漏れていた。
マリエルってこんな顔も出来るのね……。
散々リルティアをプレイしてきたリルティマニアのわたしでも見たことのない表情だった。
悪役令嬢の名前は『ドロシー』
「はじめ!」
審判の試合開始の合図と同時にマリエルは大きく振りかぶったドロシーとの間を詰める。
そして、相手の攻撃を避けると突きの連続攻撃を繰り返した。
当然、攻撃は全て当たる。
「痛い! 痛い! 痛い!」
ドロシーは軽鎧を付けていたけど、マリエルの剣撃の威力は相当なもので衝撃は鎧を貫き泣け叫ぶ。
マリエルは冷ややかな言葉を放つ。
「なんで今まであなたが勝っていたかわかる?」
「わたくしが強かったからでしょ?」
『痛い痛い』と叫びながらドロシーはそう答えたが、マリエルは違うと吐き捨てた。
既にドロシーは隙だらけで一本を取ろうとすればすぐにも取れる状態。
マリエルが突きしか使わないのには違和感しかないわ。
一撃で相手を沈められるのに、わざと手を抜いているようにしか見えない。
猛獣が獲物の動物をもて遊ぶようにいたぶっているとしか思えなかった。
もちろん突きはやめない。
「わたしがわざと負けてあげてたのよ。中流貴族のあなたが勝てるように下級貴族のわたしが手加減してあげてたのよ」
明らかにマリエルはドロシーをいたぶっていた。
「そんな事あるわけないわ」
「じゃあ、一つも手を出せないのはどういうこと?」
マリエルは思いっきり冷たい目をしてドロシーを見つめる。
ドロシーはマリエルに恐怖を覚え、棄権する為にハンカチに手を掛けたがマリエルは手を突きまくりハンカチを取らせない。
「そしてあなたは無様にもこの場で泣き叫んで負けを言うことも出来なくなるわ。だってハンカチはもう持てないもの」
ドロシーの腕はだらんと垂れ下がっていた。
審判の先生がドロシーに棄権をするかと何度も聞くが『痛い痛い』としか言えずに棄権できない。
痺れを切らせた先生が二人の間に入って、マリエルに警告する。
「それ以上攻撃を続けるなら、反則で負けにするぞ!」
マリエルが攻撃を止めると同時に、ドロシーは地面へと崩れ落ちた。
そして負けが決まったドロシーに向けて言い放つ。
「わたしは師匠の指導を受けて、既に剣の修行を開始してるの。騎士団長の指導なんてもう要らないのよ!」
なんていうことだろう……。
マリエルは騎士団長とは別の剣の師匠を既に付けていた。
おまけに剣の実力を身に着けたマリエルの性格は闇落ちしたかと思えるほど荒々しかった。
とんでもない
あの大人しかった主人公のマリエルはもう居ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます