知らないシナリオ

 マリエルがガレス騎士団長に剣を教えて貰うように頼み込む?


 マリエルの男装騎士ルートの突入条件の一つになっている剣の習得って元騎士団長のランスロットから教えて貰うはずなのに、現騎士団長のガレス騎士団長から剣を教えて貰うの?


 どうなってるのよ?


 おまけにマリエルといえば好感度が上がった攻略キャラやサブキャラからシナリオの分岐イベントが起こされるような完全受け身の女だったのに、自分からシナリオを起こすってどういうことよ?


 原作ゲームの『リルティア王国物語』からシナリオがだいぶ変わって来ちゃってる。


 ゲームのシナリオが変わってきた元凶はわたしにあると思うの。


 元々わたしが家庭教師にウィリアム王子を呼んだ事が間違いの始まりだったけど、よりにもよってマリエルが攻略キャラでもないガレス騎士団長に話し掛けるってどういうことよ。


 このままじゃシナリオがこれからどの方向に向かうのかが予測不可能だわ。


 マリエルとガレス騎士団長が恋仲になってわたしを断罪することにでもなって、あのゴッツイ必殺技を頭から放たれてでもしたら……。


 いやー!


 そんなことは考えたくない!


 ならばわたしがシナリオを改変するわ。


 ガレス騎士団長がマリエルに剣を教える条件は武闘会での上位入賞なんだから、予選でわたしがマリエルに勝って上位入賞が確定する決勝リーグに参加させなければいいんでしょ?


 やってやるわよ。


 ゲームのリルティアだと、わたしとマリエルと対戦することはなかったわ。


 だって1年生の時はわたしのせいでマリエルが武闘会に不参加で、2年生の時はわたしが断罪されてこの学園を去っていたから武闘会に参加することは無かったのでマリエルと戦う機会は一度もなかったわ。


 将来男装騎士となるマリエルに勝てるかって話はあるけど、今のマリエルは剣技の覚醒前で剣の初心者。


 今は自分一人で剣の鍛錬をしているはずだから、わたしと条件は一緒のはず。


 むしろ剣の先生を付けられる財力のあるわたしの方が明らかに有利だわ。


 マリエル戦は努力すれば乗り越えられる戦いなのよ。


 予選でマリエルとあたらない確率も結構高いけど、対戦カードを操作してマリエルと予選で当たる様にすれば確実だわ。


 ウィリアム王子から学園長に頼み込んでもらえばマリエルが上位入賞する前に予選でマリエルと戦えるように対戦カードを組んでくれるはず。


 今のわたしはウィリアム王子の婚約者!


 多少の無理は王妃候補という権力でどうとでもなるのよ!


 さっそくわたしはウィリアム王子に頼みに行った。


「ウィリアム。お願いがあります」


「どうした?」


「武闘会でどうしても戦いたい人がいるから、その人と戦えるように対戦カードを組んでもらえるように学園長に頼み込んで欲しいの。出来れば上位入賞者の決まる前の予選で組ませて欲しいの」


 わたしが満面の笑顔でお願いするとウィリアム王子は嫌な顔せず聞いてくれたわ。


「俺と戦いたいのか?」


「違うわ、マリエルと戦いたいのよ。この前、探索トライアルで一緒だった女の子なんだけど――――」


 そこまで言うと、ウィリアム王子の目が吊り上がった。


「見損なったぞ、アイビス!」


「え?」


 ウィリアム王子は激おこ。


 なんで怒ってるのか理由がわからない。


「アイビスが上位入賞できないから大会の記念に予選で俺と戦いたいと言うのかと思ったら、本選に勝ち上がる為に剣を扱ったことも無いマリエルって女の子を予選の対戦相手にしたいだと? そこまでして勝ち残りたいのか?」


「勝ちたいわよ!」


 なにせ、負けたらこのわたしの命がかかってるんだからね。


 この試合、絶対に負けるわけにはいかないのよ。


「そこまでして勝ちたいなら……。わかった。武闘会の3日前に俺と試合をしろ! 俺に勝てたならアイビスの好きにさせてやる!」


 ウィリアム王子と戦うの?


 どうしてこうなる?


 ウィリアム王子と戦うことになってしまったわたし。


 ゲームではこんなイベントなかったはずだけど、段々とゲームのシナリオから外れてめちゃくちゃになってるわね。


 *


 わたしはとりあえずの剣の先生にアイを指名したんだけど、全く役に立たない。


 たぐいまれなる身体能力を前提とした、あまりにも感覚的な教え方で参考になりやしない。


「剣を受けながした瞬間に3メートル飛び退いて、相手の剣が振り下ろされたその瞬間にさっき下がった3メートルを逆に詰めて攻撃します」


 出来るかー、そんなこと!


 チャールズ王子にも教えて貰ったけど大して変わらない。


「要は力だ! 受け流しをされたら渾身のちからでその剣を弾き飛ばしてやれ! むしろ受け流しされたら相手の攻撃のチャンスだ! そのまま剣をへし折ってやって斬り捨てろ!」


 ダメだこりゃ。


 脳筋過ぎて役に立たないや。


 わたしは新しい剣の先生をさがす。


 もちろん心当たりがあった。


 水晶の森の端にある小屋にその先生がいた。


 わたしが挨拶する前にその先生は小屋を訪れようとするわたしの気配に気が付いた。


「だれだ?」


「アイビスと申します。剣を教えてください!」


 その相手はマリエルが剣技の覚醒の切っ掛けとなる男、元騎士団長のランスロットであった。

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