ロックバードの痕跡

 両断されたロックバードが自然発火することは無いし、死骸を燃やすようなモンスターもこの辺りには生息していない。


 さらに付け加えると、他の生徒たちの探索トライアルの順番はわたしたちのグループの順番の前に既に終わっていて、後から通りかかった生徒が遭遇して燃やしたとは考えにくい。


 そうなると『ロックバードは生徒以外の何者かによって燃やされた』という結論に辿り着く。


 やはり何者かが探索トライアルが行われたこの日この時に水晶の森にロックバードを放って、学生を襲わせて、証拠隠滅のために痕跡ごと死骸を燃やしたと考えるのが自然だわね。


 痕跡を消す為にロックバードを燃やしたことが、逆にロックバードを何者かが放った証拠となったのよ。


 その標的が無差別でなければウィリアム王子が狙われた可能性が非常に高い。


 王子から護衛が消えて無防備となる瞬間は学園の敷地を出た探索トライアル以外ない。


 ウィリアム王子自身もその結論に辿り着いたみたいだ。


「俺が狙われてみんなを巻き込んだのか?」


「わざわざロックバードを連れてきてまで狙う相手、価値のある人物は王子以外いないわ」


 わたしもウィリアム王子の考察の結果に同意見だった。


 アイは燃えさしとなったロックバードの死骸をツンツンと突いている。


「もう少し早く来ればおいしい焼き鳥を食べれたのに」


「だな」


 チャールズ王子もツンツンしだした。


 ちょっ!


 燃えちゃったけど一応証拠品なんだから食べるなんて言うのはもってのほかだし、ツンツンして荒らしたりしちゃダメでしょ。


「証拠品を触ったらダメですぞ」


 校長がアイとチャールズ王子を止めてくれて助かった。


「ここまで燃えてしまうと痕跡は全て消えてしまいましたね」


「そうですな」


 ウィリアム王子も校長もため息交じりだ。


 犯人の思う壺か。


「あれ?」


 死体をツンツンしていて怒られたアイなにかに気が付いたみたいだ。


「なにかある」


 ついさっきまでアイと燃えさしをツンツンしていたチャールズ王子がなにかをほじくり出すと、それは指輪らしきものだった。


「なんでこんなとこに指輪が?」


 チャールズ王子が取り出したのは、ロックバードの死骸の中から出てきたすすけて真っ黒になった指輪だ。


「これが今回の事件の痕跡なのか?」


 チャールズ王子から指輪を受け取ったウィリアム王子は真っ黒になった指輪を受け取る。


 見てみるものの魔道具で有るらしいが、なんの指輪かわからない。


「なんの効果があった指輪かわからないな。腹の中から出て来たってことは今回の事件の前に食われた他の被害者が着けていた指輪かもしれないな……アイビス、どう思う?」


「それは無いんじゃないかな?」


 わたしは否定する。


「人骨らしいものがロックバードの体内から出てこないってことは既に人骨は排出されたことと考えるのが自然だけど、それなら都合よく指輪だけが体内に残っていたのはおかしいよね? 水晶の森に放たれる直前に指輪を飲まされたって考えるのが自然だと思うの」


「なるほど……アイビスの意見ももっともだな」


 ウィリアム王子は煤けた指輪をガレス騎士団長に託す。


「死骸は燃えてしまったが、この指輪は今回の事件の唯一の証拠だ。国へ持ち帰り調査を頼む」


「わかりました」


 こうして探索トライアルへのロックバードの乱入事件は犯人不明、調査続行で終わりを迎えた。


 *


 翌日、ガレス騎士団長と騎士団一行が王都へ帰還することになった。


 馬車に乗り込む騎士団一行と別れを惜しむ。


「それではウィリアム王子、次は武闘会で優勝してエキシビジョンマッチで戦うことを楽しみにしていますぞ」


 ゲームのリルティアではマリエルがノーダメージで優勝するとガレス騎士団長が登場するんだけど、その役割は武闘会の優勝後に現れる真ボスなのよ。


 とっても強いけどマリエル一人で倒せないと男装騎士ルートの真エンディングにいけないのよね。


 しかも1年目はマリエルの剣をアイが隠してしまうから武闘会に出場できるのは2年生になっての一回限りなので初めて見た時は驚いたし、セーブデーターはガレス騎士団長が現れた時点で強制上書されてしまうので一周のプレイで一度しか挑戦できなくて倒すのにかなり苦労したわ。


「優勝できるように剣技の研鑽けんさんを積みます。それと……」


 ガレス騎士団長は自分の分厚い胸板を叩く。


「指輪のことはお任せください。必ずやこの指輪の正体を暴いてみます」


「頼みます」


「では!」


 ガレス騎士団長は馬車に乗り込み別れを告げる。


 馬車がゆっくりと動き出す。


 その時、マリエルが現れた。


「ガレス騎士団長!」


 ガレス騎士団長は御者に指示を出し、動き出した馬車を止める。


「学園に飛び込んで来てウィリアム王子の危機を知らせた女子おなごじゃな。お主のお陰でウィリアム王子の命が助かったようなもんだ。礼を言うぞ」


「ガレス騎士団長、お願いがあります!」


「どんな願いだ? ワシに叶えられることならなんでも言ってみるがよい」


 マリエルは強い意志を瞳に秘めてガレス騎士団長を見つめた。


「わたしは無力で全く役立たずだったのを今回の事件で痛感いたしました。わたしに剣を教えてください!」


 ガレス騎士団長はマリエルの目を見て、揺るがない決意が秘められていることを見抜いた。


「よかろう。剣を教えてやる。ただし、授業をしっかり受けて武闘会で上位入賞というしっかりとした結果を残せてからだ。出来るか?」


 武闘会と言えば、1年生と2年生が参加するイベントだ。


 2年生が上位入賞をほぼ独占し、1年生が勝つにはウィリアム王子やチャールズ王子のような剣の腕に相当覚えが無いと不可能と言われている大会だ。


 とんでもなくハードルの高い課題だったがマリエルの決意は揺るがない。


「必ずや達成してみせます!」


「よかろう。武闘会を楽しみにしておるぞ!」


「ありがとうございます!」


 深々と礼をするマリエルを置いてガレス騎士団長を乗せた馬車は旅立って行った。

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