ガレス騎士団長

「これでわたくしの一勝ですな」


 ガレス騎士団長はふんぞり返って気持ちいいぐらいに大笑いをしている。


 チャールズ王子はガレス騎士団長を見て驚いていた。


「このおっさん、兄貴に軽くあしらわれていたけど実は強かったのかよ」


 あんたの国の騎士団長をおっさん呼ばわりするんじゃありません。


「わたくしの剣は当たれば最強。でも、避けられたら無力化されてしまうとは……。このガレス、ウィリアム王子にいい勉強をさせて貰いました」


 ウィリアム王子はガレス騎士団長に頭を下げる。


「ガレス騎士団長、救援ありがとうございます。ガレス騎士団長が来てくれなければ今頃俺らは奴のお腹の中に納まっていました」


「昨日の試合ではいいようにやられたお返しが出来てよかったですぞ」


 それにしても、ガレス騎士団長は今朝一番の馬車で既に水晶学園を立って王都に帰ったはずなのになんでここにいるんだろう?


 まさか王都から駆けつけてくれたなんてことはないよね?


「いやー、昨日の試験でウィリアム王子にこっ酷くやられたものだから、やけ酒飲んでクダを巻いていたら酔い潰れて寝過ごしてしまって……、今朝の王都行きの定期便に乗り遅れてしまいましてな」


 ガレス騎士団長は再び豪快に笑う。


 騎士団長が飲み過ぎで寝過ごして帰りの馬車に乗り遅れるって……この国の騎士団は大丈夫なの?


 リルティアの未来がちょっと心配になるわね。


「二日酔いで頭を抱えて苦しんでいたら、王子様のお仲間とおっしゃる方が学園に飛び込んで来て王子様御一行の危機というじゃないですか! このガレス大急ぎでさんじた次第です」


 そう言うことだったのね。


 騎士団長がやけ酒をしてくれたおかげでみんなの命が助かった……。


 世の中なにが起きるかわからないわ。


 ウィリアム王子は両断された狂化ロックバードを見つめている。


 狂化を目の当たりにしたウィリアム王子は興味津々だ。


「敵と戦っていたら急に強くなったんだけど、あれはどういうことなんだ?」


「それは強敵のモンスターを討伐していると時々遭遇する『狂化』と言われている現象ですな」


「狂化か」


「はい。騎士団だけの機密事項なんですが、レベルの高いモンスターが稀に起こす現象でして、討伐に時間を掛けてしまうと突然強くなる現象をのことをさします」


「その対処法はどうすればいいんですか?」


「圧倒的な火力で一瞬で倒すしかありませんな。まあ、一番いいのは狂化前に圧倒的な火力で倒してしまうことです」


「なるほど」


 このリルティアの狂化の仕様はほんと迷惑よね。


 適正レベル以上の敵を倒そうとすると、時間が掛かって必ず狂化しちゃうもの。


 それにしても狂化の詳しい仕様をウィリアム王子に話さなくてよかったわ。


 もし話していたら、なんでアイビスわたしが騎士団しか知らないような機密情報を知ってるんだよってツッコみまくられて返答に困るとこだったわよ。


 知識に貪欲なウィリアム王子はロックバードのことをガレス騎士団長から更に聞き出す。


「この辺りには頻繁にロックバードが出没するのですか?」


「そんな報告を騎士団では受けていないし、荒野以外で見るのは初めてですな」


 ガレス騎士団長は首を傾げていた。


 わたしも一言添える。


「この個体は明らかに通常個体より大きな固有種で、これだけ大きな個体なら荒れ地からここに現れるまでに発見報告があってもおかしくないと思います」


 ウィリアム王子は嫌な結論に辿り着く。


「誰かがここにロックバードを持ち込んだってことか」


「そういう結論になりますか……」


 ガレス騎士団長はしばらく考え込む。


「このロックバードの件は騎士団預かりとさせてください。調査をしてなにか分かれば必ずご報告いたします」


 結局、ロックバードは王都へと運ばれて調査されることとなった。


 *


 水晶学園へ戻ると、学生の訓練に使っている水晶の森にロックバードが出現しウィリアム王子たちを襲ったとのことで大変なことになったと騒ぎになっていた。


 水晶の森から帰還したガレス騎士団長が一喝する。


「静まれ!」


 少し芝居がかった仕草で剣を掲げ高らかに宣言をした。


「ロックバードは狂化した固有種だったが既にわしが倒したからもう安心するがよい!」

 

 それを聞いて騒ぎは「さすが、ガレス騎士団長!」や「ガレス騎士団長ならやってくれると思った!」と称賛の声へと変わる。


 確かにあのロックバードを一撃で両断にしたのは凄いけど、自分の戦績のアピールが上手くないと騎士団長にはなれないんだろうなとわたしは感心した。


 ガレス騎士団長は辺りに指示を出していた校長をつかまえる。


 校長はウィリアム王子たちの捜索隊を編成しようとしていたけど、ガレス騎士団長が王子たちを連れて帰還したので今は捜索隊の解散指示を行っていた。


「これはガレス騎士団長。王子を連れての帰還、お疲れ様です」


「わしが倒したロックバードだが少し気がかりなことがあって王都へ持ち帰って調査をしないといけなくなった。校長殿、ロックバード運搬の馬車の手配をしてもらえるか?」


「わかりました。お任せください」


 馬車の準備が整い次第、ガレス騎士団長が引き連れる回収隊にわたしたちも紛れてロックバードとの戦闘があった現場に向かったんだけど……。


 チャールズ王子が素っ頓狂な声を上げる。


「なんじゃ、こりゃー?」 


「まるで焼き鳥ですな」


「証拠隠滅か……」


 ロックバードは何者かによって焼かれ、あと少し現場への到着が遅れていたら全ての痕跡が消え去るところだった。

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